召喚された女刑事は強引騎士団長に愛でられる

南 玲子

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プロローグ

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愛はベッドの中で眠りについていた。彼女の借りていたアパートとは全く違う、硬いベッドに草の匂い。

彼女の規則的な息づかいと、窓ガラスにあたる風の音が聞こえてくる。一階ではまだ誰かが酒を飲んでいるのだろう、男たちが酔って騒ぐ声がする。

ここは宿屋の中でも一番いい部屋だ。反対側の壁に沿って二つのベッドがそれぞれ並べられている。

そんな時、薄暗闇に紛れて部屋の扉が開き始めた。彼女が寝ている部屋に何者かが侵入してきたのだ。大きな体格の男は足音を忍ばせて、愛の寝ている場所へとゆっくりと向かっていく。

そうして男の伸ばした指が、ぐっすりと眠っている愛の首筋に触れるか触れないかの刹那、大きな物音が部屋に響いた。

彼女はシーツを跳ねのけて男の手首を掴み、喉に手を当ててその大きな体をベッドの上に一瞬で押し倒した。男が起き上がれないよう、膝をみぞおちに押しあてながら男の喉を全力で締めつける。

女性の小さい体で大柄な男の動きを封じたのだ。仰向けに転がされた男は面白いといった笑みを浮かべ、降参したと言わんばかりに両手を広げて彼女にひらひらしてみせた。

「熟睡してるものだと思ってた。さすがの反射神経だな、アイ。騎士団にだってここまで素早い反応ができる男はいないだろう。さすがは俺の惚れた女だ」

「ちょっとダグラス。私の許可なしに体に触らないでって言ってるでしょう! 迷惑防止条例違反よ。六か月以下の懲役または五十万円以下の罰金っ!」

愛は黒曜石のような黒くてしっとりとした瞳に、肩の少し上までの髪は艶やかで人の目を惹く。

手足が長くて色白の彼女は、一見華奢に見えるが必要な筋肉は充分についている。そうしてしなやかな躰は、まるで猫のように俊敏で的確に相手の急所を狙うのだ。刑事としての勘は全くにぶってはいない。

愛は男を睨みつけると、膝に力を入れて更に体重をかける。けれどもダグラスと呼ばれた男は堪えてすらいないようだ。にやりと笑うと、首に置かれた愛の手を取った。

「アイの言うことは相変わらずさっぱりわからんが、俺は気の強い女は大好きだ。しかも腕っぷしまで強いなんて、好みのど真ん中すぎて触らないでいるなんてできるはずないだろう。だからこれはお前が悪い。俺は無罪だ。俺はアイに惚れてるんだからな」

「そんな屁理屈っ。それに私たち三日前に出会ったばかりじゃないの! きゃぁっ!」

反撃しようと口を開けたとたん、伸ばした肘をつかれて愛は体勢を崩す。初めは彼女がダグラスの上に乗っていたというのに、今では逆にベッドにあおむけに転がされてしまった。

全力で暴れるがダグラスの腕は頑丈で、びくともしない。体の大きさが違うだけでなく、経験値に差がありすぎるのだ。

「ちょっと離してっ! ダグラス」

「あまり大声を出すと他の者にお前が女だってばれてしまう。それでもいいのか? 遠征中の騎士なんか飢えた獣のようなもんだ。国に帰るまでお前の体がもつかどうか保証はできないぞ」

「ぐっ」

愛はその言葉に声を飲み込んだ。彼の言うことは当たっている。彼女は今、騎士団長のダグラスの世話係の少年ということになっているのだから。

ダグラスは愛しそうに彼女を見ると、背後から羽交い絞めするような体勢で横になる。そうして何度か愛の首筋にキスを落とすと、まだ無言で暴れている彼女の耳元でささやいた。

「明日になればこの街を出てヘデスの森を抜けていく。こうやってまともなベッドで寝るのはしばらく無理だろう。だから今夜はこのまま眠らせてくれ。それともそんなに俺に抱かれたかったならいつでも歓迎するぞ。アイに天国を見せてやる」

「そんなわけない、ダグラスなんて嫌いだもの。それにあなたには向こうに騎士団長の立派なベッドがあるじゃない。わざわざ狭くて硬い私のベッドで寝る必要はないはずよ。ダグラスっ!」

声を殺して文句を言うが、ダグラスはもう聞いてもいないようだ。狭いベッドの上で、愛の体を羽交い絞めしたまま寝息を立てている。なんて男だ。

しばらくはじたばたともがいていたが、最後に愛は諦めて全身の力を抜いた。無駄なことは充分に分かっているのだ。これ以上は体力を消耗するだけ。

仕方がないので何とかこの状態のまま眠ろうとすると、なんだか体に違和感を感じる。見ると、彼の両手がどさくさに紛れて愛の乳房をしっかりとつかんでいた。

「もう、やだぁっ! こんなの、眠れるはずないじゃないの。ダグラスっ! 起きてったらぁ。現行犯逮捕しちゃうわよっ」

けれども何度小さな声で囁いてもダグラスが目を覚ます気配は全くない。愛は諦めて思わず涙目になった。

(もう、こんな生活は嫌。私は捜査一課の女刑事なのよ。吐くほど試験勉強を頑張って、男社会の警察でようやく刑事になれたのに異世界に飛ばされて、こんな強引でスケベな騎士団長の世話係だなんて。神様、どうか私を元の世界に戻してください!)

愛は両手を絡めて神に祈りを捧げた。

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