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捜査一課の女刑事
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「愛っ! ホシは東に逃げたっ! 俺はこっちから彼女を追い詰める。爆発物を持っている可能性があるとの報告があった。住宅街で被害があっては困る! 絶対に逃がすなっ!」
「はいっ!」
日和佐 愛。二十六歳。職業は警視庁捜査一課に配属されている刑事だ。白いワイシャツに紺のズボンスーツ。黒い革靴の踵はこの間買ったばかりの新品なのにもうすり減っている。
無理もない、一度捜査本部が立ち上がれば、捜査のため一日何十キロと歩くことは当たり前。一か月に一回は新しい靴を購入している。
ここは港町で、休日でなくても人がたくさん集まるエリア。
愛は二か月前、街中に爆弾を仕掛けたという脅迫状を送り付けた愉快犯の捜査本部に配属されていた。爆弾魔は爆破予告を送り付けてくるが、おかしなことに金銭を全く要求しない。
大抵は金銭授受の時に犯人を捕まえることができるのだが、それもできない。恨みによる犯行でもなさそうで、警察は二か月も爆弾魔を特定することもできなかったのだ。
そうして刑事らの決死の捜査によって捜査線上に上がってきたのが、二十歳の時にアメリカの大学で科学者として博士号を取った才女、新宮 塔子だった。
現在、三十二歳の彼女は有名大学の教授を務めていて、自分の研究室もある。なのでそこでこっそり化合物を生成して爆弾を製造することが可能。
世界的に見ても爆弾魔の場合、そのほとんどが男性。その先入観のせいで、容疑者の特定が遅れてしまった。
新宮 塔子はすでに屋外ドーム会場と美術館、もうすでに都内の二か所を爆破している。彼女は次の爆破予告のこの場所のどこかにいるに違いない。愛はたくさんの人の中から新宮 塔子らしき人物を探す。
(幸いなことにまだ死者は出ていないけど、これ以上被害者を増やすわけにはいかない)
彼女は力の限り走って犯人を捜す。耳の傍をビュンビュンと風が抜けて、頭の中が真っ白になり体が羽になったように軽くなる。
(二度の爆発で二人の重体患者に、三人の重軽症者。それと五歳の子供が重傷で入院している。幸いなことに爆破範囲は小さかったけど、これ以上は誰も傷つけさせない!)
愛は剣道六段。空手は極真会館の黒帯の運動女子だ。それだけでなく警察学校の成績もとても優秀。昇進試験では東京都で十番内の成績を収めたほど。
そうして並み居る男性刑事の中で紅一点。女性刑事として捜査一課本部に配属されて二年目になる。男性の中で揉まれながらも精一杯頑張っているのだ。
もちろん体力では男性には敵わない。なので自分にできることをいつも考えて行動するようにしている。
(容疑者である新宮 塔子は三十二歳で黒髪で長い髪の面長美人。右目の下に黒子があるのが特徴。調査班は恐らく男装しているといっていたけど、私は違うと思う。敢えてそのままの姿で悠然と人に紛れているに違いないわ)
あちこちを走っているうちに、視線の端に黒髪の先がうつりこんだ。ハッとしてそのあとを追う。しばらくすると、その人物はいきなり走り始めた。
「新宮 塔子らしき人物を発見しました! 場所は上坂通りの角です! 南東に向かって逃走中! 引き続き追いかけます!」
愛はまるでカモシカのように手すりを飛び越えると、耳元のインカムを抑えて叫ぶ。どうやら彼女はあまり人通りのない場所に逃げていくようだ。
街のはずれの空き地を抜けて、さびれた工場のような場所にたどり着いた。そこで彼女は観念したようで、足を止めた。
愛は彼女の数メートル先で足を止め、ホルターから拳銃を取り出す。そうして三インチリボルバーの撃鉄を引き、狙いを定めた。
「新宮 塔子! 両手をあげなさいっ! 動いたらうつわよ!」
愛に背を向けたまま、彼女はゆっくりと両手を頭の上にあげた。
彼女は大きなつばのある帽子を被っていて、マキシ丈のスカートをはいている。艶のある長い黒髪が、なにやら妖しさを醸し出していて、まるで狐にでも騙されているような奇妙な感覚だ。
背中から拳銃を突きつけられた状態にもかかわらず、彼女は落ち着き払った様子。その上、数キロ全力で走った後だというのに息も乱していないよう。緊張のこもった愛の荒い息だけが夕方の湿った空気の中に響いている。
愛は拳銃を持つ手がぶれないよう肘を固定しながら、慎重にインカムで報告する。
「こちら愛です! 廃工場の裏で、新宮 塔子らしき人物を追い込みました。現在、銃で動きを抑えています!」
『でかしたっ! 愛、いまから応援が来るから絶対に一人で暴走するな! 仲間が来るまで待つんだぞ!』
その時、新宮 塔子が体をゆらりと揺らせながらゆっくりと愛の方を向く。彼女と愛の距離は約五メートル。そこで愛はようやく右目の黒子を確認する。確かに彼女は新宮 塔子だ!
『おい! 聞いてるのか、愛! 無茶はするな!』
仲間の忠告も無視して愛は彼女との距離を詰めた。足元の砂利が足を進めるごとに音を立てる。
(でないと取り逃がしてしまう! 距離が近いほど銃の命中率もあがるし、被疑者を殺してしまうのは最悪だわ!)
「動かないでっ! 本当に撃つわよ!」
「困ったわね、最後の爆弾だったのに。でも、まあこれでお終いで始まりね。ねぇ、人って死んだらどうなるのかしら」
彼女は拳銃を全く恐れていないようだ。色香の漂う美しい顔が更に恐怖を誘う。いざとなれば彼女の足を撃つことくらいは覚悟した愛は、彼女の上着をはだけさせた姿を見て息を呑んだ。
「ふふ、さすが日本の警察は優秀ね。もう少し大丈夫だと思っていたのだけれど、残念……ふふ」
新宮 塔子の体中には手製の液体爆弾が括りつけられていた。そうして右手にはボタンのようなものが握られている。
「ごめんなさいね、巻き込んでしまって。でもあなたが悪いのよ、可愛いお嬢さん。いい旅を」
「くっ!」
(しまった! 爆弾を持っているかもしれないと忠告してもらったのに……! こうなったらボタンを持つ指を狙うしかないっ! この距離なら確実にいける!)
愛は反射的に引き金を引いた。その瞬間、撃鉄が戻った衝撃が手首にかかる。そうして鉛が燃えたような硝煙の匂いがしたと思ったら急に目の前が真っ暗になった。
そこから先はまるでスローモーションのよう。暗闇が足元から広がっていき、あっという間に愛の全身が黒いもので覆われる。
(なにっ? いやぁっ! お父さんっ! 私、死んじゃうの?)
死んだ父の顔が頭の中に思い起こされる。愛と同じく刑事として一課に配属され、彼女がまだ幼い時に殉職した父のことを。
そうして愛の意識は暗闇の中に沈み込んだ。
「はいっ!」
日和佐 愛。二十六歳。職業は警視庁捜査一課に配属されている刑事だ。白いワイシャツに紺のズボンスーツ。黒い革靴の踵はこの間買ったばかりの新品なのにもうすり減っている。
無理もない、一度捜査本部が立ち上がれば、捜査のため一日何十キロと歩くことは当たり前。一か月に一回は新しい靴を購入している。
ここは港町で、休日でなくても人がたくさん集まるエリア。
愛は二か月前、街中に爆弾を仕掛けたという脅迫状を送り付けた愉快犯の捜査本部に配属されていた。爆弾魔は爆破予告を送り付けてくるが、おかしなことに金銭を全く要求しない。
大抵は金銭授受の時に犯人を捕まえることができるのだが、それもできない。恨みによる犯行でもなさそうで、警察は二か月も爆弾魔を特定することもできなかったのだ。
そうして刑事らの決死の捜査によって捜査線上に上がってきたのが、二十歳の時にアメリカの大学で科学者として博士号を取った才女、新宮 塔子だった。
現在、三十二歳の彼女は有名大学の教授を務めていて、自分の研究室もある。なのでそこでこっそり化合物を生成して爆弾を製造することが可能。
世界的に見ても爆弾魔の場合、そのほとんどが男性。その先入観のせいで、容疑者の特定が遅れてしまった。
新宮 塔子はすでに屋外ドーム会場と美術館、もうすでに都内の二か所を爆破している。彼女は次の爆破予告のこの場所のどこかにいるに違いない。愛はたくさんの人の中から新宮 塔子らしき人物を探す。
(幸いなことにまだ死者は出ていないけど、これ以上被害者を増やすわけにはいかない)
彼女は力の限り走って犯人を捜す。耳の傍をビュンビュンと風が抜けて、頭の中が真っ白になり体が羽になったように軽くなる。
(二度の爆発で二人の重体患者に、三人の重軽症者。それと五歳の子供が重傷で入院している。幸いなことに爆破範囲は小さかったけど、これ以上は誰も傷つけさせない!)
愛は剣道六段。空手は極真会館の黒帯の運動女子だ。それだけでなく警察学校の成績もとても優秀。昇進試験では東京都で十番内の成績を収めたほど。
そうして並み居る男性刑事の中で紅一点。女性刑事として捜査一課本部に配属されて二年目になる。男性の中で揉まれながらも精一杯頑張っているのだ。
もちろん体力では男性には敵わない。なので自分にできることをいつも考えて行動するようにしている。
(容疑者である新宮 塔子は三十二歳で黒髪で長い髪の面長美人。右目の下に黒子があるのが特徴。調査班は恐らく男装しているといっていたけど、私は違うと思う。敢えてそのままの姿で悠然と人に紛れているに違いないわ)
あちこちを走っているうちに、視線の端に黒髪の先がうつりこんだ。ハッとしてそのあとを追う。しばらくすると、その人物はいきなり走り始めた。
「新宮 塔子らしき人物を発見しました! 場所は上坂通りの角です! 南東に向かって逃走中! 引き続き追いかけます!」
愛はまるでカモシカのように手すりを飛び越えると、耳元のインカムを抑えて叫ぶ。どうやら彼女はあまり人通りのない場所に逃げていくようだ。
街のはずれの空き地を抜けて、さびれた工場のような場所にたどり着いた。そこで彼女は観念したようで、足を止めた。
愛は彼女の数メートル先で足を止め、ホルターから拳銃を取り出す。そうして三インチリボルバーの撃鉄を引き、狙いを定めた。
「新宮 塔子! 両手をあげなさいっ! 動いたらうつわよ!」
愛に背を向けたまま、彼女はゆっくりと両手を頭の上にあげた。
彼女は大きなつばのある帽子を被っていて、マキシ丈のスカートをはいている。艶のある長い黒髪が、なにやら妖しさを醸し出していて、まるで狐にでも騙されているような奇妙な感覚だ。
背中から拳銃を突きつけられた状態にもかかわらず、彼女は落ち着き払った様子。その上、数キロ全力で走った後だというのに息も乱していないよう。緊張のこもった愛の荒い息だけが夕方の湿った空気の中に響いている。
愛は拳銃を持つ手がぶれないよう肘を固定しながら、慎重にインカムで報告する。
「こちら愛です! 廃工場の裏で、新宮 塔子らしき人物を追い込みました。現在、銃で動きを抑えています!」
『でかしたっ! 愛、いまから応援が来るから絶対に一人で暴走するな! 仲間が来るまで待つんだぞ!』
その時、新宮 塔子が体をゆらりと揺らせながらゆっくりと愛の方を向く。彼女と愛の距離は約五メートル。そこで愛はようやく右目の黒子を確認する。確かに彼女は新宮 塔子だ!
『おい! 聞いてるのか、愛! 無茶はするな!』
仲間の忠告も無視して愛は彼女との距離を詰めた。足元の砂利が足を進めるごとに音を立てる。
(でないと取り逃がしてしまう! 距離が近いほど銃の命中率もあがるし、被疑者を殺してしまうのは最悪だわ!)
「動かないでっ! 本当に撃つわよ!」
「困ったわね、最後の爆弾だったのに。でも、まあこれでお終いで始まりね。ねぇ、人って死んだらどうなるのかしら」
彼女は拳銃を全く恐れていないようだ。色香の漂う美しい顔が更に恐怖を誘う。いざとなれば彼女の足を撃つことくらいは覚悟した愛は、彼女の上着をはだけさせた姿を見て息を呑んだ。
「ふふ、さすが日本の警察は優秀ね。もう少し大丈夫だと思っていたのだけれど、残念……ふふ」
新宮 塔子の体中には手製の液体爆弾が括りつけられていた。そうして右手にはボタンのようなものが握られている。
「ごめんなさいね、巻き込んでしまって。でもあなたが悪いのよ、可愛いお嬢さん。いい旅を」
「くっ!」
(しまった! 爆弾を持っているかもしれないと忠告してもらったのに……! こうなったらボタンを持つ指を狙うしかないっ! この距離なら確実にいける!)
愛は反射的に引き金を引いた。その瞬間、撃鉄が戻った衝撃が手首にかかる。そうして鉛が燃えたような硝煙の匂いがしたと思ったら急に目の前が真っ暗になった。
そこから先はまるでスローモーションのよう。暗闇が足元から広がっていき、あっという間に愛の全身が黒いもので覆われる。
(なにっ? いやぁっ! お父さんっ! 私、死んじゃうの?)
死んだ父の顔が頭の中に思い起こされる。愛と同じく刑事として一課に配属され、彼女がまだ幼い時に殉職した父のことを。
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