召喚された女刑事は強引騎士団長に愛でられる

南 玲子

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現状の把握

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愛が意識を失ったと同じ時刻。ナーデン神国の本神殿では、天地をひっくり返したような大騒ぎになっていた。聖女を召喚したはずが、その所在を見失ってしまったから。

天を突くような高い柱が立ち並ぶ崇高な雰囲気の宮殿内は、白の聖衣をまとった神官たちがあわてた様子で行ったり来たりしている。

中でも神国での一番の実力者、王の位につく最高位の大司教テレンスは、自席に座して頭を抱えてしまっていた。

長い銀髪をかき上げた隙間から見えた彼の顔は、青白く土気色だ。儚げな雰囲気の彼は常に冷静で、取り乱したところなど誰も見たことがない。

そんな彼が人前で感情をみせるなんて今までになかったこと。それを見て、ほかの神官たちも事の重大さをひしひしと感じとっていた。

「どういうことなんでしょうか。十五年間準備をしてきてようやく迎えた聖女様なのにその行方が分からないとは。あぁ、他国に我々の聖女様の力が渡ったら大変なことになります」

万難を排して慎重に進められた儀式だったはずだ。なのに聖女召喚のまさにその瞬間、何やら外部からの強い衝撃が加わって儀式が乱された。

おかげで祭壇も爆発して原型すらとどめていない。おかげでそばにいた十数名の神官の命が犠牲になった。それだけでもかなりの損失だというのに。

聖女が通ってくる来るはずの空間が歪み、帝国の神殿に召喚されるはずがどこに道がつながってしまったのかもさっぱりわからない。

「由々しき事態です。とにかく聖女様を捜索しなさい! とにかく使えるだけの使役魔獣を総動員するのです! 他国も我々の儀式を察知しているはず。猶予はなりません」

テレンスがそう叫んだ時、神殿の扉が勢いよく開かれる。

「テレンス大司教! 神殿の傍の森で聖女様を発見しました! 召喚時のショックでお気を失われているようですがご無事のようです!」

その吉報に、テレンスは胸をなでおろす。

(よかった! これで帝王の命を奪うことができる。そうすればこの大陸で強大な勢力を誇るのは我がナーデン神国だけです)

彼らの目的はこの大陸をすべてナーデン神教の信者で埋め尽くすこと。そのために帝王の力を凌ぐといわれている聖女の力は欠かせないのだ。

「もう死んでいる神官は放っておきなさい! さぁ、皆さん! 聖女様にご挨拶に行きますよ! 」

♢ ♢ ♢

気が付くと愛はベッドの上で寝ていた。どれほど眠っていたのだろうか、窓の外の様子から見るに今は夜のよう。

そうして彼女が銃で撃った男は、椅子を反対にして背もたれに両手をかけるようにして座り、楽しそうににやにやと愛をみている。

(金色のくせっけに青い瞳。身長は百八十八センチ、体重九十五キロってとこかしら。筋肉のつき方を見ると相当鍛えてるみたいだわ。特に上腕筋が発達してる。正面からでは絶対に敵わない)

「うーん。こんなのおかしいわ。悪い夢に違いないもの。早く目を覚ますのよ、愛」

愛はもう一度目をつぶってそう独り言をつぶやく。独り言というよりも切実な願望といった方がいいだろう。

でも愛がどれほど神に祈ろうと、目を開けると見知らぬ男とミリリアと呼ばれた妙な生き物は消えない。しかも鶏ほどの大きさのそれは、旋回するように愛のベッドの上を飛び回っている。

愛は観念して起き上がることにした。

その時シーツがほろりと落ちて乳房があらわになり、自分が一糸乱れぬ姿をしていたことに気が付く。思わずシーツを引き寄せて自分の体を隠し、ほとんど涙目で男を睨みつけた。

「きゃっ! あなた、私に何をしたの! 下着まで脱がすだなんてっ!」

「おぉ、目が覚めたとたん元気だな。当然だろう。お前は森で拾った正体不明の人間なんだ。少し調べさせてもらったが、まさかあんな男みたいな格好をしているのが女だったなんてわからなかった。こうして抱いたときでさえ、この俺がちっとも気づかなかったからな。ちゃんと肉を食ってるのか?」

男は両手で愛の胸から腰までのラインを表現する。それはもちろん直線状のもので、男の意図するところはすぐにわかった。

「胸が小さくて腰のくびれがなくて、悪かったわねっ! ところで一体ここはどこなの?! あなたは誰っ?」

「ここはハームテリア王国のはずれの宿屋で、俺はギリア帝国の騎士団長、ダグラス・アンカスターだ。遠征の途中だ。お前が身に着けていたあれは鎧なのか? あの妙な武器は何だ? 女の兵士なんて聞いたことはないが、お前はどこかの国の兵士なのか?」

次から次へと質問が飛んでくる。愛は自分がジャケットの下に防刃ベストを着用していたことを思いだした。

彼が言うには十二の王国が集まってできたのがギリア帝国なのだそう。ギリア帝国なんて名前の国を地球上で聞いたことがない。

そうしてダグラスと名乗った男の肩の上で髪の毛にじゃれているミリリアという鱗を持つ獣。

もう受け入れるしかないようだ。どう考えてもここは異世界。これは確定だ。

(団長ということはきっと地位も高いんでしょうね。よくわからないけれど警察官僚みたいなものかしら。詳しい状況が分かるまでは胡散臭いけれど彼の傍にいるのが得策だわ。それにしてもなんて迫力なの……この男。ダグラスといったかしら。公安の刑事でもこれほどまでの威圧感は感じなかったわ)

ダグラスには嘘をついてもすぐに見破られる。そんな予感がした。愛はとにかく事実を述べて細かいところははぐらかすことにする。

「私の名前は愛よ。私は兵士というよりは国民の安全を守る仕事をしているの。それとあの武器は私の国、日本国のもので、扱いを間違えばとても危険だから私に返してちょうだい。ついでに私の下着もね。でないと迷惑防止条例違反どころか強制わいせつ罪になっちゃうわよ」

思い切りダグラスを睨みつけると、ミリリアが肩から飛び上がって抗議するようにキーと鳴いた。主人を護っているつもりなのだろう。

「ははっ、こいつもお前を気に入っているようだ。いつものミリリアなら俺に敵意を向けた時点ですぐ噛まれてたぞ」

ダグラスはとても面白いというように笑ってミリリアの頭を指で撫でると、探るような視線で彼女を見た。その視線の圧力に愛は気おされる。顔は笑っているのにどこか底知れぬもの感じさせる男だ。

「日本国、大陸では聞いたことがないからどこかの島国か。アイは本当に威勢がいいな。俺に向かってそんな態度をとる人間は初めてだ。だが、ああやって男装までしていたんだ。なにか秘密の任務でもあるんだろう」

そういえば他の男たちも彼女のことを少年だと思っていた。ということはこの世界では女性はズボンは履かないものなのだろうか。愛は自虐的に言葉を返す。

「私の任務はもう終わったわ。容疑者は確保したもの。ただ、そのあと自爆されただけで……だからいまごろ被疑者死亡で逮捕状を出してるはず。私も殉職で二階級昇給になって、いまごろはお葬式かしらね」

刑事だった父も殉職し、そのあと愛が大学を卒業すると同時に母も病死した。一人っ子だった彼女の死を悼むものはそれほどいないはずだ。

刑事の仕事は不規則なので、最近では恋人はおろか親しい友人もそれほどいなかった。

それでもなぜか複雑な思いが胸に込み上げてくる。きっともう日本には戻れないのだ。

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