召喚された女刑事は強引騎士団長に愛でられる

南 玲子

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遠征は危険な任務

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そうしてまた愛にとっては苦痛の移動が始まる。

愛はミリリアの背中にダグラスと一緒に乗るのだが、それが結構難しい。鱗でつるつる滑ってしまうので、手綱をしっかり持っていないとすぐに振り落とされてしまう。

根性で踏ん張るが一時間も飛んでいると、腕と足の筋肉の疲れがピークになる。体力には自信がある愛でもそれだけは無理だった。騎士達がどうしてあんなに余裕をもって乗れているのか不思議でたまらない。

結局体勢を崩して、最後にはダグラスに抱えてもらうことになるのだ。他の騎士の目があるのでセクハラはされないのだが、愛に頼られるととても嬉しそうに笑うのでそれが面白くない。

「アイは充分に頑張ってるぞ。翼竜を乗りこなせるのは騎士だけ。その騎士でもないのにこいつに乗って一時間も持てば大したもんだ」

褒めてもらっても愛の気持ちは晴れない。そうして心外ながらもダグラスの腕にしがみつく。

その時、しがみついた腕から彼のまとった空気が一瞬変わったことに気が付いた。猫が急に逆毛を立てるような……ぞくりとする感覚。

気になって顔を上げると、ダグラスは見たこともないような真剣な顔をして遠くの方を見ている。全身の毛穴から緊張が噴き出しているよう。

獰猛な獣のような目をしたダグラスは力強い声で叫んだ。

「エヴァン!」

「はいっ! 団長!」

戸惑う愛をよそに、ほかの騎士達も手綱を引いてその場で翼竜を旋回し始めた。みな腰の剣を抜き戦闘態勢になり、真剣な表情だ。

「な、なに……なんなの?」

「敵軍だ! アイ、お前はしっかり俺につかまっていろ! おそらくナーデン神兵だ! 陣形Aをとって下からの攻撃に備えろ!」

ダグラスが叫ぶ間にも、深い森の木々の間から閃光が空に向かって打ち上げられる。絶対に避けきれないほどの弾の数だ。だというのに、ダグラスを含め他の騎士達も翼竜を操って、信じられないほどの速さでそれを避ける。

あまりにも早い速さでミリリアが飛ぶので、愛は吐き気をこらえるのに必死だ。ようやく撃たれる弾が落ち着いてほっとしたとき、ダグラスの叫ぶ声が聞こえた。

「第二チームはエヴァンとここに残れ、ほかの奴らは俺についてこい!」

そうして彼は手綱を握るとミリリアを一気に急降下させる。急激な重力の変化に愛は叫び声をあげた。体が宙に浮いて振り落とされそうだ。こんなのフリーフォールとなんの変わりもない。

「きゃぁぁぁぁぁぁああ!」

緑の葉の間に突っ込んだかと思ったら、すぐに目の前が開けて百人を超えるだろう大勢の敵が見えた。赤い鎧に黒の剣。みな狼のような魔獣に乗っている。口は耳まで避けていて、大きな牙は触れただけで切れそうなほどに鋭い。

ダグラスは地面に降りるとすぐに、傍にいた二人の敵を一気に剣で薙ぎ払った。その力は圧倒的で、魔力を使っているとしてもあまりあるほどの衝撃だ。剣が触れてもいないのに、乾いた地面が大きくえぐれている。愛はそれを見てぞっとした。

「ミリリア! お前はここでアイを守れ!」

キュゥゥゥイと返事をすると、ミリリアは口から炎を出して敵を後退させている。愛は銃を構えて、ミリリアの体の陰で片膝をついた。さっきから心臓はどきどきと打ち鳴らされている。

(落ち着け、落ち着け。異世界だとしても命を懸けて戦うのは刑事と同じよ。状況を判断してチームで協力し合う)

そっと戦闘の様子を窺うと、ガイルにモリス、トーマスたちも剣を手に果敢に戦っているが敵兵との力の差は歴然だった。愛は思わず身を隠すことも忘れてその場で立ち上がる。

「――すごい、こんなの……相手にすらなってないじゃないの。こんなに力の差があるなんて……」

トーマスがスペルを唱えて剣を振ると、竜巻が出現して彼を囲んでいた何十人もの敵兵が宙を舞う。その中の一人と剣で対峙するが、敵の兵士はあっという間に剣を折られて倒された。

翼竜たちもじっとしているわけではない。狼のような魔獣に向かっていき、その首筋を噛んで振り回している。

特に愛の目を惹いたのがダグラスの戦闘力だ。実力に差がありすぎて戦いにすらなっていない。まるで大人と子供だ。

これほどまでに光のような素早さと雷のような力強さ。とっさの判断力に優れた人物をいまだかつて見たことがなかった。

(すごい……まるで戦いのために生まれてきたような男だわ)

そんな人物に銃を向けて撃ってしまった自分を思い出すと寒気がする。彼が本気になれば、愛の首くらい片手で折れたに違いない。

(私ったらこんなにすごい人を逮捕するって言ってたの! しかも何回ダグラスの舌を噛んじゃったかしら……)

百人を超えるだろう敵軍があっという間に制圧されていく。叫び声や炎の轟音が行き交う中、ダグラスの声が聞こえてきた。

「アイッ! 後ろだっ!」

反射的に振り向くと、敵兵が愛にめがけて頭の上から剣を振り下ろしている。背後からの攻撃だが、なんとか軸足で回転をして紙一重で攻撃を避けることができた。

安心するのはまだ早い。敵は体勢を整えながらスペルを唱え始める。この近距離で魔法を使われたらただではすまない。

「はぁぁぁっ!」

考える暇もなく、回転の勢いをそのままに空手の最強技、上段回し蹴りを後頭部にお見舞いする。すると敵は地面に突っ伏して動かなくなった。

これは愛の得意技で、これで高校国体に出場した経験もある。

「後ろからなんて反則技だよ。即、失格で退場だからな!」

愛は捨て台詞をはいて頬を膨らませた。こんな時でも男性言葉は忘れない。

気が付くと、ダグラスがほっとした顔で愛の無事を喜んでいる。さっき彼がみせた表情は初めて見るおびえた顔。自分のことを心配してくれたのだろうかと考えるだけで、なんだか胸の奥がくすぐったくなる。

「はぁ、危なかったな。すまん、もう絶対に敵はここには近寄らせないからな。安心しろ」

ダグラスは敵を倒した後、愛の傍までやってきて彼女の頭を何度も撫でた。そうして怪我がないことを確認すると、誰にも見られない場所で愛の手を一度だけぎゅううっと握る。

(これくらいなんともないのに……刑事の仕事中は銃で狙われたり、ナイフで脅されたりしょっちゅうだったもの)

なんだか心臓の音が激しくなってきたような気がした。でも愛は気のせいだとかぶりを振って否定する。

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