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帝国へ帰還する
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そうしてその翌日。帝国軍の遠征部隊は帰還準備に入った。
トーマスは驚くことに次の日には歩けるほどまでに回復していた。ガイルは奇跡だといっていたが、愛は自分の救命処置のおかげだと確信している。
(まさか実際に使うだなんて思っていなかったけど、年に一度の講義と実習は無駄じゃなかったんだわ)
そうして愛たちは次の日、直ちに帰還の途につくことになった。ここから王城のある帝都まで、直線距離でおよそ一週間ほどらしい。
いままでとは違ってテントで野営することもなく、宿のベッドで眠れる。そうするとゆっくりとお風呂にも入れるのだ。それが愛には一番嬉しかった。まだ見ぬ帝国への憧れも愛の気持ちを高揚させる。
というのもどこへ行こうと、ダグラスたちが帝国の騎士団だと名乗ると、誰もが尊敬と羨望の眼差しを送ってくる。よほど皆が憧れる場所に違いない。
(いったいどんな国なんだろう……帝国っていうんだから、州がいくつも集まったアメリカみたいな感じなのかな)
ミリリアの背中に乗って旅をするのはきつかったが、一週間の辛抱だと思うと耐えられた。騎士達の翼竜はみな愛に懐いてくれている。ミリリアも愛のために極力揺れないように配慮してくれているようだ。
トーマスの翼竜などは愛の肩にとまり、何度も頭をすりすりして礼をいってくれたほど。
翼竜を懐かせることができるのは契約した騎士だけ。でも騎士ではない愛が翼竜に懐かれている。それはすごいことなのだとダグラスはひとしきり感心していた。
あれから愛はダグラスに一度も体を許していない。相変わらず隙があれば抱き着いて胸を揉もうとしてくるが、愛はいつも返り討ちにしている。
なんだか気恥ずかしさの方が増していて、そんな雰囲気にならないといった方が正しいだろう。
そうして今日はようやく国境沿いにある帝国領にたどり着く日。王城のある中央区まではまだ距離があるので、今日は帝国領の端の町で滞在する予定だ。明日には王城について帝王に無事の帰還を報告する予定らしい。
「おい、愛。見てみろ。あれが帝国の国境だ」
ミリリアの超高速飛行の風圧に耐えながらダグラスが指し示す方を見ると、緑の森が連なるその奥に数えきれないほどの建物がいくつも見えてきた。
空の上からでもどこが国境なのかはっきりとわかるほど、帝国は他の国に比べて栄えているらしい。この世界にきて愛が見てきた町の様子とは比べ物にならない。
国境手前で翼竜を空からおろし、彼らの背に乗って地上を進み帝国領に入る。そこには天を突くような巨大な門が構えられていて大勢の人が荷物を持って検閲を待っていた。
ダグラスを含む騎士隊はその最前列に迎え入れられて門をくぐる。入国許可のない愛まで何も聞かれないまま通してくれた。その際、入国を許されないのだろう人々が管理兵に追い払われているところを見てしまった。
(この国に入るにも許可がいるんだ。そうしてみんな帝国の国民になりたがってる。あぁ、それで分かったわ。初めて会った日、ダグラスはドヤ顔で私にこう言ったもの。帝国に連れて行ってやるって。そういう意味だったんだ)
帝国領に足を踏み入れた途端、愛はその場の光景に圧倒された。いままで見た町はよくてもヨーロッパの田舎町。でもここは別世界だった。
薄暗い時間帯なのにも関わらず、道は街灯が照らしていて明るい。丘の向こうには電車のようなものが走るレールが見えるし人が来ている服も段違いにお洒落だ。きっと商売も盛んなのだろう。
愛の目に映る場所すべてが人で覆いつくされていて、その真ん中に人のいない長い街道が開けている。その間を、騎士たちは歩く翼竜に乗って抜けていくのだ。
人々は騎士達を見ると歓声を上げて花を散らした。鼓笛隊の音楽が聞こえてくるし、町はお祭りムード一色。あちこちに垂れ幕や色とりどりのリボンが掲げられ、感動に涙している人までいる
驚いたのは、騎士たちがそんな街をあげての大歓迎の催しに慣れた感じなところ。落ち着いた態度で手をあげ、先に進んでいく。しかも何キロ進もうが人の波は途切れないばかりか、国民の歓迎ムードは更に高まっていくばかり。
最終的に愛達ら騎士がたどり着いた場所は、いつも泊っているような宿ではなく、とてつもなく大きなお城だった。衛兵のいる門をくぐって橋を渡ると城主が出迎えに来てくれていたようだ。興奮した様子で出迎えてくれた。
しかもそこには着飾った美しい女性たちも大勢並んでいた。彼女たちは一様に膝まである髪を美しく編んでいる。みな、騎士団のために用意された侍女たちなのだそう。
あまりのもてなしに愛は驚くとともに、何か妙な違和感を覚える。自分がここに属していていいのかといった感情。異世界に来たのだと分かったときは、元の世界に帰りたかったものだが、今ではもうどこにも居場所がない気がする。
「ようこそ来てくださいました。辺境地なもので大したおもてなしはできませんが、一晩ごゆるりとお休みになっていってください」
「すまない。お気遣い感謝する」
ダグラスが礼をいうと、とんでもないといわんばかりに慌てて腰を低く下げる。ということは城主よりもダグラスの方が地位が上なのだろう。
(こんな大きなお城に住んでいる人がダグラスや他の騎士達よりも上なんだ。騎士ってそんなに尊敬される職業なのね。刑事は名乗ると警戒されることが多いんだけど……ずいぶんな違いだわ)
城主は世話係である愛にまでも細かく気を使う。恐縮しながらも、愛は初めて泊まる城の心地よさに酔いしれた。食べ物も今までの宿とは段違いに美味しい。
そうして愛にも別に客室が用意されていた。しかも侍女まで数人ついている。いつもはダグラスと同じ部屋にされていたのだが、城の侍女がいるので分けたのだろう。
(こんなのいいのかな? 私は騎士じゃないし何もしてない。でもこれから自分がどうしたらいいのかもわからない)
異世界に来て偶然ダグラスの隊に見つけてもらい拾われたが、ずっと彼の世話係を続けるわけにはいかない。それにいつ愛が女だとばれるかわからないのだ。
このままダグラスや騎士達の傍にいることよりも、仕事を見つけて何とかこの世界で生活の基盤を確立したい。
幸い帝国は栄えているようだから、仕事はすぐに見つかりそうに思えた。
(そうだ、この人たちに聞いてみよう。何かいい仕事を紹介してくれるかもしれない)
愛はお城の侍女に聞いてみた。
「そうですね。アイ様なら他の騎士様にお尋ねするほうがいいかと思います。彼らはみな貴族ですので城主様のようにご自分の領地を持っておられますし、どうしても帝都がよければ騎士様の推薦ならすぐにどこでも雇っていただけますよ」
「えっ? 貴族―――って誰のことですか?」
思わず聞き返す。彼女たちの言うことには、この世界では誰もが魔力を持っているわけではないそう。それはとても限られた人たちだけで、しかも貴族であることが大半らしい。その中でも騎士になれるのはほんの一部。
今回のような遠征部隊に選ばれるのは、そのほんの一部の騎士の中でもエリート中のエリートなのだそう。それを聞いて愛は戸惑う。子供のようなやんちゃな振舞いの騎士たちが、実は貴族でエリートだったなんて思ってもみなかった。
(ってことはトーマスさんもガイルさんも、みんな国家公安部の役付きだってこと? そうしたらダグラスは警察庁長官じゃない???)
いままで感じていた違和感が更に大きくなる。ダグラスや騎士達との間に見えない壁ができたよう。
「それと洗濯は普通に水で洗って外に干します。そんなことに魔法を使うだなんて勿体なくて騎士様になどお願いできません。特殊な魔法を操れるのは本当に選ばれた方たちだけですから」
愛のスーツはいままでダグラスに魔法で綺麗にしてもらっていた。ほかの騎士もそうだったので、魔法で洗濯するのが普通なのだと思っていたのだ。そういえばあちこちの家の軒下に洗濯物がはためいていた光景を見た気がする。
服の洗濯を彼女たちにお願いしてようやく知った事実。愛は驚きに声が出せない。侍女が部屋を去った後も、愛はしばらく悩み続けていた。
(私……ダグラスだけじゃなく他の騎士達とも全然釣り合わない気がする。だって彼らは帝国の英雄なんだもの)
「はぁ、向こうの世界だって警察官と警視庁の東大出エリートくらいの差みたいなものよね。絶対に無理。私はもう……元の世界には戻れないのかしら」
目の前の机には警察手帳と拳銃、手錠にイヤーカム、愛の仕事着であるズボンスーツが置いてある。
拳銃はこの世界に来てからも手入れを欠かしてはいない。でもそれらを使うのはもう恐らく一生ないのだということを薄々感じていた。
でももう異世界に来て一か月ほどたった。そろそろ現実を受け入れなければいけない。
認めたくはないが、愛はもう元の世界には帰れないのだ。戻ったとしても体は爆発で死んでいるかもしれない。
愛は感傷に駆られて警察手帳の桜の紋章を指でそっとなぞる。
(――刑事は私の唯一の存在証明だったんだけど、この世界では通用しないのね。じゃあ私はこの世界で一体何者なの? 家族がいないのは同じだけど、向こうの世界では父も母も存在していた証がある。でもここには何もない。格闘技が少し達者なだけの二十六歳の女)
愛が物心ついたときから何かの集団に所属してきた。幼稚園に始まって小学校。最近では警察官に刑事。なのに今の愛はどこにも属さず、なにものでもない。
不安がだんだんと大きくなってくる。まるで自分が透明人間にでもなったような気がしてきた。不安が高まってくるが、愛はかぶりを振ってそれらを打ち消した。
とにかく今は何も考えずに置こう。愛は気を取り直すとゆっくりと風呂に入ることにした。そうすればこんな不安定な気持ちも落ち着くに違いない。
トーマスは驚くことに次の日には歩けるほどまでに回復していた。ガイルは奇跡だといっていたが、愛は自分の救命処置のおかげだと確信している。
(まさか実際に使うだなんて思っていなかったけど、年に一度の講義と実習は無駄じゃなかったんだわ)
そうして愛たちは次の日、直ちに帰還の途につくことになった。ここから王城のある帝都まで、直線距離でおよそ一週間ほどらしい。
いままでとは違ってテントで野営することもなく、宿のベッドで眠れる。そうするとゆっくりとお風呂にも入れるのだ。それが愛には一番嬉しかった。まだ見ぬ帝国への憧れも愛の気持ちを高揚させる。
というのもどこへ行こうと、ダグラスたちが帝国の騎士団だと名乗ると、誰もが尊敬と羨望の眼差しを送ってくる。よほど皆が憧れる場所に違いない。
(いったいどんな国なんだろう……帝国っていうんだから、州がいくつも集まったアメリカみたいな感じなのかな)
ミリリアの背中に乗って旅をするのはきつかったが、一週間の辛抱だと思うと耐えられた。騎士達の翼竜はみな愛に懐いてくれている。ミリリアも愛のために極力揺れないように配慮してくれているようだ。
トーマスの翼竜などは愛の肩にとまり、何度も頭をすりすりして礼をいってくれたほど。
翼竜を懐かせることができるのは契約した騎士だけ。でも騎士ではない愛が翼竜に懐かれている。それはすごいことなのだとダグラスはひとしきり感心していた。
あれから愛はダグラスに一度も体を許していない。相変わらず隙があれば抱き着いて胸を揉もうとしてくるが、愛はいつも返り討ちにしている。
なんだか気恥ずかしさの方が増していて、そんな雰囲気にならないといった方が正しいだろう。
そうして今日はようやく国境沿いにある帝国領にたどり着く日。王城のある中央区まではまだ距離があるので、今日は帝国領の端の町で滞在する予定だ。明日には王城について帝王に無事の帰還を報告する予定らしい。
「おい、愛。見てみろ。あれが帝国の国境だ」
ミリリアの超高速飛行の風圧に耐えながらダグラスが指し示す方を見ると、緑の森が連なるその奥に数えきれないほどの建物がいくつも見えてきた。
空の上からでもどこが国境なのかはっきりとわかるほど、帝国は他の国に比べて栄えているらしい。この世界にきて愛が見てきた町の様子とは比べ物にならない。
国境手前で翼竜を空からおろし、彼らの背に乗って地上を進み帝国領に入る。そこには天を突くような巨大な門が構えられていて大勢の人が荷物を持って検閲を待っていた。
ダグラスを含む騎士隊はその最前列に迎え入れられて門をくぐる。入国許可のない愛まで何も聞かれないまま通してくれた。その際、入国を許されないのだろう人々が管理兵に追い払われているところを見てしまった。
(この国に入るにも許可がいるんだ。そうしてみんな帝国の国民になりたがってる。あぁ、それで分かったわ。初めて会った日、ダグラスはドヤ顔で私にこう言ったもの。帝国に連れて行ってやるって。そういう意味だったんだ)
帝国領に足を踏み入れた途端、愛はその場の光景に圧倒された。いままで見た町はよくてもヨーロッパの田舎町。でもここは別世界だった。
薄暗い時間帯なのにも関わらず、道は街灯が照らしていて明るい。丘の向こうには電車のようなものが走るレールが見えるし人が来ている服も段違いにお洒落だ。きっと商売も盛んなのだろう。
愛の目に映る場所すべてが人で覆いつくされていて、その真ん中に人のいない長い街道が開けている。その間を、騎士たちは歩く翼竜に乗って抜けていくのだ。
人々は騎士達を見ると歓声を上げて花を散らした。鼓笛隊の音楽が聞こえてくるし、町はお祭りムード一色。あちこちに垂れ幕や色とりどりのリボンが掲げられ、感動に涙している人までいる
驚いたのは、騎士たちがそんな街をあげての大歓迎の催しに慣れた感じなところ。落ち着いた態度で手をあげ、先に進んでいく。しかも何キロ進もうが人の波は途切れないばかりか、国民の歓迎ムードは更に高まっていくばかり。
最終的に愛達ら騎士がたどり着いた場所は、いつも泊っているような宿ではなく、とてつもなく大きなお城だった。衛兵のいる門をくぐって橋を渡ると城主が出迎えに来てくれていたようだ。興奮した様子で出迎えてくれた。
しかもそこには着飾った美しい女性たちも大勢並んでいた。彼女たちは一様に膝まである髪を美しく編んでいる。みな、騎士団のために用意された侍女たちなのだそう。
あまりのもてなしに愛は驚くとともに、何か妙な違和感を覚える。自分がここに属していていいのかといった感情。異世界に来たのだと分かったときは、元の世界に帰りたかったものだが、今ではもうどこにも居場所がない気がする。
「ようこそ来てくださいました。辺境地なもので大したおもてなしはできませんが、一晩ごゆるりとお休みになっていってください」
「すまない。お気遣い感謝する」
ダグラスが礼をいうと、とんでもないといわんばかりに慌てて腰を低く下げる。ということは城主よりもダグラスの方が地位が上なのだろう。
(こんな大きなお城に住んでいる人がダグラスや他の騎士達よりも上なんだ。騎士ってそんなに尊敬される職業なのね。刑事は名乗ると警戒されることが多いんだけど……ずいぶんな違いだわ)
城主は世話係である愛にまでも細かく気を使う。恐縮しながらも、愛は初めて泊まる城の心地よさに酔いしれた。食べ物も今までの宿とは段違いに美味しい。
そうして愛にも別に客室が用意されていた。しかも侍女まで数人ついている。いつもはダグラスと同じ部屋にされていたのだが、城の侍女がいるので分けたのだろう。
(こんなのいいのかな? 私は騎士じゃないし何もしてない。でもこれから自分がどうしたらいいのかもわからない)
異世界に来て偶然ダグラスの隊に見つけてもらい拾われたが、ずっと彼の世話係を続けるわけにはいかない。それにいつ愛が女だとばれるかわからないのだ。
このままダグラスや騎士達の傍にいることよりも、仕事を見つけて何とかこの世界で生活の基盤を確立したい。
幸い帝国は栄えているようだから、仕事はすぐに見つかりそうに思えた。
(そうだ、この人たちに聞いてみよう。何かいい仕事を紹介してくれるかもしれない)
愛はお城の侍女に聞いてみた。
「そうですね。アイ様なら他の騎士様にお尋ねするほうがいいかと思います。彼らはみな貴族ですので城主様のようにご自分の領地を持っておられますし、どうしても帝都がよければ騎士様の推薦ならすぐにどこでも雇っていただけますよ」
「えっ? 貴族―――って誰のことですか?」
思わず聞き返す。彼女たちの言うことには、この世界では誰もが魔力を持っているわけではないそう。それはとても限られた人たちだけで、しかも貴族であることが大半らしい。その中でも騎士になれるのはほんの一部。
今回のような遠征部隊に選ばれるのは、そのほんの一部の騎士の中でもエリート中のエリートなのだそう。それを聞いて愛は戸惑う。子供のようなやんちゃな振舞いの騎士たちが、実は貴族でエリートだったなんて思ってもみなかった。
(ってことはトーマスさんもガイルさんも、みんな国家公安部の役付きだってこと? そうしたらダグラスは警察庁長官じゃない???)
いままで感じていた違和感が更に大きくなる。ダグラスや騎士達との間に見えない壁ができたよう。
「それと洗濯は普通に水で洗って外に干します。そんなことに魔法を使うだなんて勿体なくて騎士様になどお願いできません。特殊な魔法を操れるのは本当に選ばれた方たちだけですから」
愛のスーツはいままでダグラスに魔法で綺麗にしてもらっていた。ほかの騎士もそうだったので、魔法で洗濯するのが普通なのだと思っていたのだ。そういえばあちこちの家の軒下に洗濯物がはためいていた光景を見た気がする。
服の洗濯を彼女たちにお願いしてようやく知った事実。愛は驚きに声が出せない。侍女が部屋を去った後も、愛はしばらく悩み続けていた。
(私……ダグラスだけじゃなく他の騎士達とも全然釣り合わない気がする。だって彼らは帝国の英雄なんだもの)
「はぁ、向こうの世界だって警察官と警視庁の東大出エリートくらいの差みたいなものよね。絶対に無理。私はもう……元の世界には戻れないのかしら」
目の前の机には警察手帳と拳銃、手錠にイヤーカム、愛の仕事着であるズボンスーツが置いてある。
拳銃はこの世界に来てからも手入れを欠かしてはいない。でもそれらを使うのはもう恐らく一生ないのだということを薄々感じていた。
でももう異世界に来て一か月ほどたった。そろそろ現実を受け入れなければいけない。
認めたくはないが、愛はもう元の世界には帰れないのだ。戻ったとしても体は爆発で死んでいるかもしれない。
愛は感傷に駆られて警察手帳の桜の紋章を指でそっとなぞる。
(――刑事は私の唯一の存在証明だったんだけど、この世界では通用しないのね。じゃあ私はこの世界で一体何者なの? 家族がいないのは同じだけど、向こうの世界では父も母も存在していた証がある。でもここには何もない。格闘技が少し達者なだけの二十六歳の女)
愛が物心ついたときから何かの集団に所属してきた。幼稚園に始まって小学校。最近では警察官に刑事。なのに今の愛はどこにも属さず、なにものでもない。
不安がだんだんと大きくなってくる。まるで自分が透明人間にでもなったような気がしてきた。不安が高まってくるが、愛はかぶりを振ってそれらを打ち消した。
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