召喚された女刑事は強引騎士団長に愛でられる

南 玲子

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ダグラスの部屋で

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王の間を出ると、大勢の人が彼らを待ち構えていた。騎士達の肩にとまっていた翼竜たちが一斉に宙に舞って窓から出て行った。翼竜たちは人間が苦手なのだ。

遠征隊の家族や、帝国で待っていた騎士ら。着飾った美しい女性たちが、互いに競いあって騎士達を取り囲んだ。大半の騎士には婚約者がいると聞いていたのだが、彼女たちはお構いなしのよう。

「モリス様! お帰りなさいませ!」

「こちらを見てくださいませ、エグバート様ぁ!」

愛などは押されて隅の方に追いやられてしまったほど。黄色い声が飛び交う中、中でも一番に女性たちが集まる場所がある。その中心にはダグラスがいた。身長が高いので、誰よりも突き抜けて見える。

愛はもやっとした気持ちを覚えるが理性で押し殺した。大体ダグラスとは何か約束をした関係でもなんでもない。隅っこの方に移動すると、そこにトーマスとその婚約者らしき女性が一緒にいた。

可愛らしいタイプの美人で、トーマスは今まで見たことのないような照れくさい顔で彼女と話している。愛に気が付いて近くに来てくれた。

「アイ、紹介するよ。彼女は俺の婚約者のアーデル。アーデル、こいつが遠征中に団長の世話係をしてたアイだ」

「日和佐 愛です、よろしくお願いします。アーデル様」

愛が頭を下げると、彼女もにこやかに挨拶をしてくれた。トーマスが遠征中の愛のことを面白おかしく話すと、アーデルがくすくすと笑みをこぼす。そうして愛の方に向き直ると涙ぐんだ。

「でも本当にトーマス様がご無事でお帰りになって良かったです。アイさん。彼のことを助けていただいたようで、ありがとうございます」

「そんなっ! 僕は特に魔力もありませんし、大したことはしていません。それよりもトーマスさんにはとてもお世話になっていて、こちらこそありがとうございます!」

互いに頭を下げあっていると、トーマスがアーデルの肩を抱いた。久しぶりに会えてとても嬉しそうだ。

「おい、アイ。頭を下げるなら俺にだろう? アーデルも心配するな。俺はもうこんなに元気だからな! っ! いたたた!」

トーマスが張り切って腕を回すが、ちょうど傷口が痛んだようだ。突然顔をしかめてうつむいた。

「あぁっ! トーマス様、無理はなさらないでくださいませ」

「大丈夫、大丈夫。あ、そうだ。アイ、お前これからどうするんだ? 帝国に戻ってきたんだから、団長も世話係は必要ないだろうし。この国に知り合いはいないんだろう?」

そのことについては帝国についてからずっと考えていた。このままダグラスと一緒にいる理由はない。しかも愛には魔力がないのだ。

愛は思い切ってトーマスに頼んでみることにする。国境沿いの城の侍女が言っていたことを思い出したからだ。

「そのことですけど、申し訳ありませんがトーマスさん。僕に仕事を紹介してくれませんか? 家事は苦手なので、どちらかといえば警備とか警護とか……肉体労働でも構いません。できれば住み込みならありがたいのですけれど」

「そんなことか。だったら騎士団で働くってのはどうだ? もちろん警護は必要ない奴らばかりだから無理だけど、事務職の方に空きがあるって聞いたぜ。住み込みはわからないが家なら俺が世話してやれるぞ。帝都にはいくつか俺の所有する家があるからな」

事務職はあまり愛には向いてないが、今は仕事を選んではいられない。愛はすぐに首を縦に振った。

「それでお願いします! トーマスさん!」

食いつかんばかりの愛の迫力にトーマスがたじたじとなっている。

「じゃあ、しばらくは俺の屋敷に住むか? すぐには無理かもしれんが騎士団に連絡とってやるから。それまで住むところが必要だろう」

「はいっ! もちろんです!」

愛は目を輝かせた。いつまでも異世界に来たことを嘆いても仕方ない。

(やったぁ! ようやく自立できるかもしれない!)

気が付くとトーマスと愛の周りに、他の騎士団員もわらわらと集まってきている。たくさんの手が伸びてきて、愛の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。

「おー、アイ。トーマスのところに住むのか。こいつの帝都にある屋敷は古いけど広いからな。迷子になるなよ。そうして絶対に料理は作るな。死人が出るからな」

「ほんとだよ。あれはどんな魔獣よりもおぞましい体験だった」

「そ、それは言わないでくださいって、エグバートさん! ガイルさん!」

愛の悲痛な叫びにみんながどっと一斉に笑う。

「――アイ」

和やかな雰囲気の中、いきなり愛の名を呼ぶ声が聞こえた。騒がしかったのが急に静かになり、騎士団員がさっと分かれて道ができる。何事かと振り向くと、愛の背後にはダグラスが立っていた。

「騎士団長!」

みんなが一斉に騎士の敬礼をしたので、愛も背筋を伸ばして頭を下げた。周囲の人たちもダグラスの動向に注目しているようだ。

「ああ、みんな堅苦しい挨拶なんかいい。アイに用があっただけだ。遠征は終わったんだ。お前たちはゆっくり家に帰って休め」

「な、なんでしょうか。ダグラス様」

愛がかしこまってダグラスに向きなおる。

「アイ……これからのことだが……その」

頭を掻きながらダグラスが言いにくそうに話を切り出したので、愛はにっこりと笑って答えた。

「ダグラス様。そのことならご心配なさらないでください。トーマスさんのところでお世話になる予定ですので、お仕事も紹介してもらえそうです。いままでありがとうございました」

愛が頭を下げた瞬間、頭上で舌打ちのようなものが聞こえて不思議に思う。

顔を上げようとした瞬間、愛の体が宙に浮いた。ダグラスが愛の体を前腕に座らせるような格好で抱え上げたからだ。

「きゃあっ!」

不安定になるので、落ちないよう愛は必死でダグラスの首にしがみつく。

「な、何なんでしょうか! ダグラス様っ!」

「お前は本当にわかってない。どうしてそんな大事なことを俺じゃなくてトーマスに頼むんだ」

何だか気が立っているダグラスに、愛は眉をきりっとさせて答える。

「いえ、でもダグラス様はお忙しいでしょうし、これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいきません」

「迷惑ってお前なぁ……はぁぁーー」

とうとうダグラスは頭を抱えてうつむいた。帝国の英雄が一人の少年の言葉に一喜一憂している。それに驚いた周囲の人々がざわつきはじめた。

「あの少年は誰なんだ? アンカスター伯爵と親しいのか」

「あんな伯爵は初めて見ましたわ。もしかして帝王様のご親類の方でしょうか?」

(まずいわ、あまり目立つのは困る。ダグラスから離れないと……!)

腕から飛び降りようとする愛の気配に気が付いたのか、その前にダグラスはいきなり愛の体を肩の上に担ぎ上げた。

「うわっ! ダグラス様!」

「お前は本当にはねっかえりだな。油断も隙もない! もっと落ち着いたところで話をするぞ」

丸太のように肩の上に抱え上げられては、逃げられそうにもない。愛は足をバタバタさせるが、ダグラスの腕はびくともしなかった。

そのまま人混みを出ていくと、ダグラスは知らない廊下を歩いてどこかの部屋の中に入っていく。そこで愛はようやく1人掛けのアームチェアーに座らされた。
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