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騎士の誓い
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そうして翌日。愛が目を覚ますと、すでにダグラスは起きて騎士服に着替えていた。
寝起きのすこぶる悪いはずのダグラスが珍しいものだ。もしかして今夜の奇襲作戦のことで、それほどまでに神経をとがらせているのだろうか。
けれども彼はそんな様子は少しも見せずに、穏やかな笑顔で愛に語り掛ける。
「起きたのか、アイ」
「お、おはよう」
なんど繰り返しても朝は気恥ずかしい。愛はネグリジェを着たままベッドの端に腰掛けて、横目でダグラスの様子をうかがう。
朝の柔らかい日差しの中、彼は椅子に腰かけて剣の手入れをしている。それはいつもダグラスが使っているものより小ぶりで、柄には見事な装飾が施されていた。
(あぁ、すごく格好いいな。武器の手入れをしている男性って、素敵)
惚れ惚れとしていると、ダグラスが剣を持って立ち上がった。愛は顔を赤くしてそっぽを向いた。見とれていたことを気づかれてやしないか心配になる。
ネグリジェ姿のまま立ち上がると、愛は早口で話した。
「あのっ! あっちの部屋で着替えてくるわ!」
「アイ、待ってくれ。大事な話がある」
いつになく真剣な口調に、愛は彼に背を向けたまま足を止める。何事かと振り返ると、ダグラスは愛の目の前で片膝を床に立てて跪いていた。
「な、何……?」
彼は何も言わずにさっきまで手入れしていた剣先を手に持って、柄の方を愛に向ける。それを手に取れとでも言いたいのだろうか。愛が柄を手に持つと、ダグラスは微笑んで剣先を自身の左肩にあてた。
(これって、もしかして……)
ダグラスが今からやろうとすることに気が付いた愛は、大きく心臓を跳ねさせた。
レースのカーテンから漏れる淡い太陽の光が、静かな部屋に注ぎ込む。その光に照らされた騎士服姿のダグラスは、すごく頼もしく清廉だ。
言葉もなくしばらく二人は見つめ合っていたが、ダグラスがゆっくりと口を開いた。そうして彼は騎士の忠誠の文句を紡ぎだす。
「いまこの時から私はアイの盾となり剣となり、この心臓が最後の血の一滴を送り出すそのときまで、アイを護り敬愛することを誓います。私。ダグラス・アンカスターは、ここに愛と騎士の誓いを結ぶことをギリアの神に宣誓します」
(こ、これってプロポーズみたいなものなの?! ダグラス!)
「……あ」
あまりのことに声が出せない。自分が泣きそうなのか笑いだしそうなのかすらわからない。震える手で剣を支えるので精一杯だ。
「アイ、俺を自分の騎士だと認めると言ってくれ。それで騎士の忠誠の誓いは結ばれる」
ダグラスの言葉に愛は息を呑んだ。これは騎士の誓いなのだ。この国では結婚しても離婚することができる。けれども騎士の誓いは永遠だと聞いた。
それこそ文言にある通り、騎士の心臓が止まるまで一緒にいるという契約。しかもそれは騎士が一生に一度しか結べないもの。結婚の申し込みよりもはるかに重い誓いの儀式だ。
愛は震える声で確かめる。
「――ダグラス。本当に私でいいの? 絶対に後悔しない? 異世界から来たってだけで何も持ってないし何もできないのよ」
「あぁ、俺はアイがいい。ずっとアイと一緒にいたい」
その言葉に胸の奥がじーんと熱くなる。幸せが全身の細胞をめぐって駆けて行ったように心が満ち足りてきた。愛は柄を両手でしっかりと握りしめた。
「私、日和佐 愛は、ダグラスを私の騎士だと認めます!」
愛の言葉と同時に剣の柄が光った。そうして二人の間をまばゆい光が繋ぐ。それはほんの一瞬だったが、互いの間に何かの繋がりができたことは感覚で分かった。
「ダグラス……こ、これって……」
ダグラスはゆっくりと立ち上がると、剣を愛の手から取って彼女の頬にキスをした。
「これはアンカスター家に代々伝わる宝剣だ。こうやって父も母に求婚したらしい。これを箱に入れて封印を施せば誓いは完全なものになる。アイ、もう俺から逃げようとしても逃げられないから覚悟するんだな」
(あぁ、もうっ! ダグラスったら本当に……!)
宝剣を箱にしまおうとするダグラスの背中を見ていると、無性に彼に触れたくなった。
愛はそっとダグラスの服の裾をつまむと、ぽすんとおでこを背中にくっつける。振り返ろうとするダグラスに気が付いて愛は大声を出す。
「ふ、振り向かないで! だって私、絶対に変な顔してるもの! さっきからおかしくもないのに笑いが止まらないのっ!」
「――分かった。振り向かない……ように努力する」
涙声になった愛に、ダグラスは言葉を返した。そうしてしばらく愛はそのまま、ダグラスの背に額をつけて立ち尽くしていた。ダグラスは封印を施しているようだ。呪文の言葉が聞こえてくる。
何分か経った頃、愛は耳を澄まさないと聞こえないほどに小さな声でつぶやいた。
「あ、ありがとうダグラス。私、すごく嬉しい」
恥ずかしさがマックスになる、愛はそれを隠すためにぐりぐりとおでこを背中に押しつけた。するとダグラスがため息をつく。
「はぁーー」
「ダグラス?」
「アイ、あまり可愛すぎることをするのはやめてくれ。今夜の作戦に行かせたくなくなる」
それは愛も同じ気持ちだ。ダグラスを危険な目にあわせたくない。愛はダグラスにもたれる体に力を込めた。
「うん、わかってる。でも私はダグラスが一緒なら怖くない。心臓が最後の血の一滴を送り出すそのときまで一緒にいよう」
「そうだな、アイ。俺たちはずっと一緒だ」
ダグラスは服を掴んでいる愛の手を取ると、自分の腰に両腕を絡ませる。そうして二人はしばらくの間、背中越しのままずっと抱き合っていた。
寝起きのすこぶる悪いはずのダグラスが珍しいものだ。もしかして今夜の奇襲作戦のことで、それほどまでに神経をとがらせているのだろうか。
けれども彼はそんな様子は少しも見せずに、穏やかな笑顔で愛に語り掛ける。
「起きたのか、アイ」
「お、おはよう」
なんど繰り返しても朝は気恥ずかしい。愛はネグリジェを着たままベッドの端に腰掛けて、横目でダグラスの様子をうかがう。
朝の柔らかい日差しの中、彼は椅子に腰かけて剣の手入れをしている。それはいつもダグラスが使っているものより小ぶりで、柄には見事な装飾が施されていた。
(あぁ、すごく格好いいな。武器の手入れをしている男性って、素敵)
惚れ惚れとしていると、ダグラスが剣を持って立ち上がった。愛は顔を赤くしてそっぽを向いた。見とれていたことを気づかれてやしないか心配になる。
ネグリジェ姿のまま立ち上がると、愛は早口で話した。
「あのっ! あっちの部屋で着替えてくるわ!」
「アイ、待ってくれ。大事な話がある」
いつになく真剣な口調に、愛は彼に背を向けたまま足を止める。何事かと振り返ると、ダグラスは愛の目の前で片膝を床に立てて跪いていた。
「な、何……?」
彼は何も言わずにさっきまで手入れしていた剣先を手に持って、柄の方を愛に向ける。それを手に取れとでも言いたいのだろうか。愛が柄を手に持つと、ダグラスは微笑んで剣先を自身の左肩にあてた。
(これって、もしかして……)
ダグラスが今からやろうとすることに気が付いた愛は、大きく心臓を跳ねさせた。
レースのカーテンから漏れる淡い太陽の光が、静かな部屋に注ぎ込む。その光に照らされた騎士服姿のダグラスは、すごく頼もしく清廉だ。
言葉もなくしばらく二人は見つめ合っていたが、ダグラスがゆっくりと口を開いた。そうして彼は騎士の忠誠の文句を紡ぎだす。
「いまこの時から私はアイの盾となり剣となり、この心臓が最後の血の一滴を送り出すそのときまで、アイを護り敬愛することを誓います。私。ダグラス・アンカスターは、ここに愛と騎士の誓いを結ぶことをギリアの神に宣誓します」
(こ、これってプロポーズみたいなものなの?! ダグラス!)
「……あ」
あまりのことに声が出せない。自分が泣きそうなのか笑いだしそうなのかすらわからない。震える手で剣を支えるので精一杯だ。
「アイ、俺を自分の騎士だと認めると言ってくれ。それで騎士の忠誠の誓いは結ばれる」
ダグラスの言葉に愛は息を呑んだ。これは騎士の誓いなのだ。この国では結婚しても離婚することができる。けれども騎士の誓いは永遠だと聞いた。
それこそ文言にある通り、騎士の心臓が止まるまで一緒にいるという契約。しかもそれは騎士が一生に一度しか結べないもの。結婚の申し込みよりもはるかに重い誓いの儀式だ。
愛は震える声で確かめる。
「――ダグラス。本当に私でいいの? 絶対に後悔しない? 異世界から来たってだけで何も持ってないし何もできないのよ」
「あぁ、俺はアイがいい。ずっとアイと一緒にいたい」
その言葉に胸の奥がじーんと熱くなる。幸せが全身の細胞をめぐって駆けて行ったように心が満ち足りてきた。愛は柄を両手でしっかりと握りしめた。
「私、日和佐 愛は、ダグラスを私の騎士だと認めます!」
愛の言葉と同時に剣の柄が光った。そうして二人の間をまばゆい光が繋ぐ。それはほんの一瞬だったが、互いの間に何かの繋がりができたことは感覚で分かった。
「ダグラス……こ、これって……」
ダグラスはゆっくりと立ち上がると、剣を愛の手から取って彼女の頬にキスをした。
「これはアンカスター家に代々伝わる宝剣だ。こうやって父も母に求婚したらしい。これを箱に入れて封印を施せば誓いは完全なものになる。アイ、もう俺から逃げようとしても逃げられないから覚悟するんだな」
(あぁ、もうっ! ダグラスったら本当に……!)
宝剣を箱にしまおうとするダグラスの背中を見ていると、無性に彼に触れたくなった。
愛はそっとダグラスの服の裾をつまむと、ぽすんとおでこを背中にくっつける。振り返ろうとするダグラスに気が付いて愛は大声を出す。
「ふ、振り向かないで! だって私、絶対に変な顔してるもの! さっきからおかしくもないのに笑いが止まらないのっ!」
「――分かった。振り向かない……ように努力する」
涙声になった愛に、ダグラスは言葉を返した。そうしてしばらく愛はそのまま、ダグラスの背に額をつけて立ち尽くしていた。ダグラスは封印を施しているようだ。呪文の言葉が聞こえてくる。
何分か経った頃、愛は耳を澄まさないと聞こえないほどに小さな声でつぶやいた。
「あ、ありがとうダグラス。私、すごく嬉しい」
恥ずかしさがマックスになる、愛はそれを隠すためにぐりぐりとおでこを背中に押しつけた。するとダグラスがため息をつく。
「はぁーー」
「ダグラス?」
「アイ、あまり可愛すぎることをするのはやめてくれ。今夜の作戦に行かせたくなくなる」
それは愛も同じ気持ちだ。ダグラスを危険な目にあわせたくない。愛はダグラスにもたれる体に力を込めた。
「うん、わかってる。でも私はダグラスが一緒なら怖くない。心臓が最後の血の一滴を送り出すそのときまで一緒にいよう」
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