召喚された女刑事は強引騎士団長に愛でられる

南 玲子

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奇襲作戦前

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戦線に向かっていた騎士達も呼び戻されて、この急襲作戦に参加するようだ。愛はこの世界に来た時と同じ、スーツに防刃ベスト、ホルスターを身に着けた。

やはりこの姿の方が気合の入り方が全然違う。愛は襟を正して緊張の息を漏らす。メンバーは遠征隊と同じ騎士。見知った顔がぞろぞろ部屋に入ってきたのを見て愛は歓声を上げた。

「皆さん! 無事だったんですね!」

中には包帯を巻いている騎士もいるが、聞くと軽症とのこと。愛は一人一人に挨拶をして、みんなからも喜ばれて歓迎された。

「まさかまたアイと一緒に戦うことになるとはな。そうしたらあの切れのいい足蹴りが見られるのか?」

「蹴りだけじゃないぜ。手で突く攻撃も半端なく痛そうだったからな。こうだっけ、おっとっと」

トーマスが愛の真似をして空手の型を披露するが、腰が入っていないのですぐにバランスを崩した。ガイルがその体を支えて呆れたように言う。

「トーマス、この間一緒に戦線に行った時もナーデン兵に同じことやってたじゃないか。僕がサポートしたからいいものの、いい加減にしないと今度こそ死ぬよ」

「うるさいなぁ、ガイルは。だから小姑みたいだって言われんだよ!」

トーマスがガイルを羽交い絞めして、その頭をぐりぐりと手で押さえつけた。ガイルが果敢に腕から逃れようと反抗している。

「もうっ! 髪が滅茶苦茶になるからやめろって! この野蛮人!」

「俺は今夜のデザートをトーマスに賭けるぜ、お前はモリス?」

「そうだなあ、今度はガイルにするぜ。もうこれ以上俺のケーキをお前に奪わせるわけにはいかんからな。勝負だぜ」

作戦会議のはずなのに、騎士達は楽しそうに賭けをしている。愛はそんな彼らを見て緊張を解いた。

いまから急襲作戦に向かうのだと、今までにないほど気を張っていたのだが、それがスゥッと消えてなくなっていく。代わりに笑いがこぼれだす。

ダグラスはまるで子供みたいな騎士達をしばらく放置していたが、時をみて副団長のエヴァンに視線を向けた。するとエヴァンが一度だけ大きく手を叩く。

その音にはじかれるように、いままで騒いでいた騎士達が一斉に神妙な顔に戻りダグラスに視線を向けた。一転、水を打ったように静かになった部屋でダグラスが重い口を開く。

「今回の急襲作戦だが、みんなも知っている通りアイも連れていく。彼女がこの作戦の要だ。皆でアイを護って彼女が聖女を倒すのに協力してくれ」

「アイが聖女を倒すのか?」

「そんな無茶な……しかもアイは女だったんだぞ」

ざわざわと騎士達が異論の声を上げた。するとエヴァンが静かだが冷たい声で彼らを制する。

「アイは聖女と同じ異世界からきた異世界人です。聖女の異世界召喚に巻き込まれたと。そうして彼女は結界も魔法も効かない聖女を倒すための武器を持っている。あなたたちもダグラス様が肩を負傷された時のことを覚えているでしょう」

すると騎士達は更にざわつき始めた。静かだった場が一変して騎士達の声で一杯になった。

「聖女召喚に巻き込まれたって。そんなことあり得るのかっ?」

「ってことはアイは異世界の人間なの?!」

「でもそういわれれば確かに、島国から来たにしてもものを知らなさ過ぎたな。にわかには信じがたいが」

(そうだよね、なかなか信じられるわけない……)

そんな風に自虐的に思う。さっきまで温かかった騎士達の顔には、不信感と猜疑心が渦巻いている。異世界から人が来るなんて、このファンタジーあふれる国でも神話のような話だと聞いた。驚くのも無理はない。

愛は拳を握って気合を入れると、彼らに向かって大きく頭を下げた。

「あのっ、女だってことを隠していたのもそうですけど、異世界から来たと隠していてすみませんでした! もしそんなことを知られたらどうなるのか不安でどうしても言えなかったんです。ごめんなさい!」

そうして愛は頭を下げたまま続けた。

「でも私は一番心細かったあの時期に皆さんに優しくしてもらって、すごく心が救われました。ありがとうございます!」

「そんな……お礼を言われることじゃ……」

「顔を上げてくれよ、アイ」

すると誰かが肩に手を置いた感触がしたので、愛は下げていた頭を上げた。

「分かったアイ! 今までのことは水に流そう! だからこれだけは約束してくれ! ダグラス団長の奥さんになっても俺たちを左遷しないでくれよ!」

その言葉に他の騎士達は大笑いする。ガイルやエグバートも愛に親指を立てて見せた。愛がホッとして笑顔を見せると、他の騎士達の緊張も徐々に解けてきたようだ。

「ありがとうございます! 皆さんっ!」

「それで分かったぞ。愛の料理が激マズなのは異世界の料理だったからなんだな!」

モリスがこれで分かったという風に手を打つと、愛は視線を下げてもにょもにょと小さな声を出した。

「そ、それは私の料理の腕が悪いだけで、向こうの世界でもあんなものでしたから、ぜんぜん関係ありません……」

再び騎士達がどっと沸き立つ。彼らは愛のことを受け入れてくれたようだ。

いままでとちっとも変わらない態度に愛は感謝する。髪をぼさぼさにされながら、愛は騎士達に頭を撫でられて可愛がってもらった。

(ありがとう、皆さん。良かった、みんな本当に大好きっ!)

そうして出撃までの時間、彼らは作戦の確認作業に入った。

アナイスが敵軍のいる背後に空間をつなげて、小さいサイズの翼竜を連れた騎士を送り込む。空からは目立つので、地上から聖女に近づく作戦だ。

「本当はもっと近くの空間につなげたいのですけれど、テレンス大司教の結界があって無理なのです。おそらく二時間ほどは暗闇の中を歩かなければなりませんが……」

アナイス様が気を使ったのかチラリと愛を見る。愛は力拳を握って見せた。

「大丈夫です。刑事の仕事は足ですから。一日十キロ歩くのはざらでした。舗装されてない道を歩くのとは違うでしょうが、二時間くらいなら平気です!」

それから彼らの野営テントを空から急襲。もちろん結界が張ってあるだろうから成果は期待できない。けれどもダグラスが前線に出てきたと知ったら、きっとテレンス大司教と聖女も闘いに参加するはず。

銃は防御壁が効かないのだから塔子に対する武器としては最強だ。彼らが出てきたところで愛が地上から姿を現して、銃で聖女を攻撃する。

(まずは塔子を狙って、残りの弾に余裕があればテレンス大司教も倒す! それができればこの戦争は終わるわ! 無駄に人が死ぬことはなくなる!)

けれどもその代わり失敗すれば、みんなの命はないだろう。言い換えればこの作戦は愛が失敗すれば全滅してしまうもろ刃の剣。責任重大なのだ。

そのことを皆わかっているはずなのに、口にするものは誰もいない。愛にプレッシャーをかけたくないのだろう。その思いやりの気持ちに心が温かくなる。

愛はそっと胸の拳銃に手を当てた。彼女の射的の成績は常にAだった。とはいえ人体を標的にしてどこまで狙えるのか未知数。

(私に人が殺せるかしら……ううん! でも、できなかったらみんなの命がかかってる!)

愛が不安になっているとダグラスがその肩を引き寄せた。そうして耳元でささやく。

「大丈夫だ、お前が一撃でも聖女に食らわせたら。俺がその隙に剣をぶち込んでやる。外すのを恐れるな。恐れは迷いを生み出すぞ」

「ダグラス……」

これほど頼もしい言葉はない。ダグラスは愛の不安をよく理解してくれているようだ。彼女が人を殺めることに戸惑っていることも……。

愛は張り詰めていた緊張を解いてダグラスを見た。他の騎士達も全面的にダグラスを信頼しきっている。

(これが帝国の騎士団長なのね。うぅ……こんな人に惚れるなっていう方が無理。こんなの私の負け試合じゃない)

愛がダグラスの顔を仰ぎ見ると、ダグラスはうんっ?という風に愛を見る。その顔には余裕と慈愛が溢れていて、心臓が一瞬で高鳴ってどきどきと音を立て始めた。するとダグラスがまた微笑みを深くする。

(あぁもう、大好き! 大好きよ、ダグラス!)

そうして愛はダグラスへの想いを募らせた。

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