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三話 犬
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日中のバスルームには日光が柔らかく射し込み、白い壁が眩しいほどだ。俺もサツキさんもタオルも何も身に纏っておらず、完全なる裸身だ。外面だけでなく内面も外気に曝け出ている気がして、一秒たりとも落ち着かない。
どきまぎして壁際で突っ立っている俺とは対照的に、サツキさんは上機嫌で、ボディソープをもこもこと泡立てている。
「体洗ってあげるねー」
歌うように言い、向かい合って俺の上半身を洗い始める。これは良くない。ほとんど摩擦のない手の感触が、縦横無尽に腕やら胸やら腹やらを撫で回す。視線が合ってしまうのもあり、耐えられないほどに恥ずかしい。
「あ、あの、後ろからお願いできますか……」
掌で口元を押さえつつ、声の震えを我慢しながら懇願する。サツキさんが「んー? いいよお」と安く請け合ってくれたのでひとまずホッとした、のも束の間。
――どっちにしろ良くない!
反転させた背中に、サツキさんの肉体の気配がぴったりとくっついている。こんな状況でリラックスできるわけないし、相手の顔が見えないことが余計に想像を逞しくさせる。首筋に息遣いが当たるのも、器用な指先が下腹部の際どいところをさわさわとまさぐってくるのも、生殺しにされているみたいでもどかしい。
もういっそ、一思いにやってくれないだろうか。
その願いが通じたように、泡に包まれたサツキさんの指先が、ついに俺の股間に触れた。途端に背すじを痺れるような快感が走る。そのままぬるぬるした掌が俺のそれを握りこみ、前後運動を始める。
「ふふ。ちょっと固くなってるねえ。体を洗ってるだけなのに」
「いっ、言わないで、下さ」
息が簡単に熱くなる。洗ってるだけなんて、言い方が意地悪だ。こんなのは前戯と変わらない。それとも、サツキさんにとってはこれが普通で、感じている俺の方がおかしいのだろうか。
不意に、首の後ろでふうう、と深く息を吐く音がする。
「ごめん、哲くん。やっぱり何もしないのは無理かも」
「え……」
疑問を呈する間もなく、サツキさんの体が背中に密着してくる。しなやかで健康的な、それでいて野性を秘めた彼の肢体。その圧倒的な存在感の中で、いっそう異彩を放っているもの。
サツキさんの昂りが、俺の腿の付け根に当たっている。
知覚してしまうと、もう駄目だった。その先をイメージしてしまい、浴室で彼に貫かれる光景が目の前に展開する。腹の奥がきゅう、と締め付けられるような感覚があった。
「約束破ってごめん。でも、哲くんが可愛すぎて無理……」
「サツキさ、ん……」
「嫌なら言って? 我慢するから」
「や、じゃないです。俺も……してほしい」
「哲くんっ」
言葉尻を待たずに後ろから抱き締められ、ぬめった肌と肌がいっそう重なる。サツキさんの体は火照って熱かった。それと同時に、ぬるぬるした太くて固いものが股のあいだへ入ってきて。
なんだ、これは。セックスは何度もしているのに、今までのと全然違う。
「ゴムつけられないから、挟んで擦るだけね?」
余裕が薄れた、しかしそれでも優しい声で、サツキさんが囁く。
昂りは股のあいだをぐりぐりと刺激しながら反復運動を繰り返す。そこには何もないはずなのに、セックスじゃないのに、セックスと同等かそれ以上の快感が生まれている。
謎めいた官能の存在は不安でいて、それに翻弄されるのがすごく、気持ちいい。
「ん、あぁ、サツキさん……」
「ここね、会陰っていって、内側に前立腺があるんだよお。外から弄るのも気持ちいいでしょ?」
与えられる刺激は徐々にリズミカルになっていく。俺の中の本能が比例するように高められ、箍が外れたみたいに腰が揺れてしまう。
みっともなくて泣きそうなのに、気持ちいいのが欲しくて我慢できないのだ。
「哲くん……そんなに腰揺らしたら、弾みで入っちゃうかもよ?」
「ンッ、うう……」
「声、抑えなくていいのに」
脳髄がとろとろに溶けているみたいだ。サツキさんのことしか考えられないのに、恥の感情は残っていて、はしたない喘ぎ声を出すまいと俺は唇を噛み締めている。
出し抜けに、肩にびりりとした軽い痛みが走り、「アッ!?」と反射で仰 け反る。今のは、まさか。
「ふふ、おっきい声出たね。さっきのお返し。これでおあいこだね」
サツキさんが肩口を食んだのだ、とその台詞で思い至る。彼の声にはからかう響きがあったけれど、怒っている様子はない。それが俺を安心させる。
いつしか俺は壁に手をつき、口の端からだらしなく涎を垂らしながら、猫のように甘くとろけた声で喘いでいた。淫らに腰が蠢くのを止められないけれど、サツキさんが気持ちよくなってくれるなら俺も幸せだ。
体の奥深くから巨大な快感がせり上がってくる。気持ちが通った相手との情交は、こんなにも体だけの関係と違うものなのか、と圧倒された。
「サツキさ、もうっ、出そ、です」
「うん、好きなタイミングでイくといいよお――哲成」
「ぁ……!」
名前を呼ばれた瞬間、何かが閃光を放って爆ぜた。高い波に全身がなぶられ、拐われて、もみくちゃにされる。と同時に、どこまでも堕ちていくような感覚があって、頭の中が真っ白になった。
昂りがどくり、どくりと白濁を吐き出していた。その痙攣が治まるころ、自分の息が驚くほど荒くなり、心臓が早鐘を打っているのに気づく。
「ふう……それじゃ、綺麗にしたら上がろうか?」
「待って」
離れようとする体を、手首を握ることで引き留める。上半身を捩って振り返ると、目を丸くしたサツキさんがいた。
「サツキさんはまだ出してないですよね? 達くまで使って下さい、俺の体……」
少しかすれ始めた声でねだると、相手は「哲くん……! もうっ」と少し怒ったように唇を尖らせる。
「使うとか言っちゃだめ! あとそういう顔、ぼく以外に見せたら危ないよ」
「危ない、って……?」
「可愛すぎて危険ってこと」
サツキさんは言いながら、俺のいいところを正確に抉った。さっきより激しく、ちょっとだけ乱暴に。そのほのかな粗雑さが興奮に薪をくべ、情欲の炎がさらに燃え上がる。
「見せ、ませんっ、俺には、サツキさんだけ……だから」
揺さぶられながら絶えだえに宣言する。後ろから手が伸びてきて、顎を捕らえられた。歯が当たるほどの勢いで口づけされ、舌が絡み、唾液が混じり合う。
「ふッ、好きだよ……哲成」
「サツキさん、俺も……好き」
名前を呼ばれるのが、依頼人に使った偽名でない名前で呼べるのが、こんなにも嬉しいなんて。
首の後ろを熱い息づかいがくすぐった。股の薄い皮膚が、サツキさん自身の収縮をダイレクトに感知する。内腿を生ぬるい流体が伝い落ちていくのが、情事の熱に浮かされる脳でもはっきり分かって。
「哲くん、続きはベッドでしよ?」
「はい……」
再び唇を重ねながら、好きな人からの甘い誘惑にこくこくとうなずいた。
どきまぎして壁際で突っ立っている俺とは対照的に、サツキさんは上機嫌で、ボディソープをもこもこと泡立てている。
「体洗ってあげるねー」
歌うように言い、向かい合って俺の上半身を洗い始める。これは良くない。ほとんど摩擦のない手の感触が、縦横無尽に腕やら胸やら腹やらを撫で回す。視線が合ってしまうのもあり、耐えられないほどに恥ずかしい。
「あ、あの、後ろからお願いできますか……」
掌で口元を押さえつつ、声の震えを我慢しながら懇願する。サツキさんが「んー? いいよお」と安く請け合ってくれたのでひとまずホッとした、のも束の間。
――どっちにしろ良くない!
反転させた背中に、サツキさんの肉体の気配がぴったりとくっついている。こんな状況でリラックスできるわけないし、相手の顔が見えないことが余計に想像を逞しくさせる。首筋に息遣いが当たるのも、器用な指先が下腹部の際どいところをさわさわとまさぐってくるのも、生殺しにされているみたいでもどかしい。
もういっそ、一思いにやってくれないだろうか。
その願いが通じたように、泡に包まれたサツキさんの指先が、ついに俺の股間に触れた。途端に背すじを痺れるような快感が走る。そのままぬるぬるした掌が俺のそれを握りこみ、前後運動を始める。
「ふふ。ちょっと固くなってるねえ。体を洗ってるだけなのに」
「いっ、言わないで、下さ」
息が簡単に熱くなる。洗ってるだけなんて、言い方が意地悪だ。こんなのは前戯と変わらない。それとも、サツキさんにとってはこれが普通で、感じている俺の方がおかしいのだろうか。
不意に、首の後ろでふうう、と深く息を吐く音がする。
「ごめん、哲くん。やっぱり何もしないのは無理かも」
「え……」
疑問を呈する間もなく、サツキさんの体が背中に密着してくる。しなやかで健康的な、それでいて野性を秘めた彼の肢体。その圧倒的な存在感の中で、いっそう異彩を放っているもの。
サツキさんの昂りが、俺の腿の付け根に当たっている。
知覚してしまうと、もう駄目だった。その先をイメージしてしまい、浴室で彼に貫かれる光景が目の前に展開する。腹の奥がきゅう、と締め付けられるような感覚があった。
「約束破ってごめん。でも、哲くんが可愛すぎて無理……」
「サツキさ、ん……」
「嫌なら言って? 我慢するから」
「や、じゃないです。俺も……してほしい」
「哲くんっ」
言葉尻を待たずに後ろから抱き締められ、ぬめった肌と肌がいっそう重なる。サツキさんの体は火照って熱かった。それと同時に、ぬるぬるした太くて固いものが股のあいだへ入ってきて。
なんだ、これは。セックスは何度もしているのに、今までのと全然違う。
「ゴムつけられないから、挟んで擦るだけね?」
余裕が薄れた、しかしそれでも優しい声で、サツキさんが囁く。
昂りは股のあいだをぐりぐりと刺激しながら反復運動を繰り返す。そこには何もないはずなのに、セックスじゃないのに、セックスと同等かそれ以上の快感が生まれている。
謎めいた官能の存在は不安でいて、それに翻弄されるのがすごく、気持ちいい。
「ん、あぁ、サツキさん……」
「ここね、会陰っていって、内側に前立腺があるんだよお。外から弄るのも気持ちいいでしょ?」
与えられる刺激は徐々にリズミカルになっていく。俺の中の本能が比例するように高められ、箍が外れたみたいに腰が揺れてしまう。
みっともなくて泣きそうなのに、気持ちいいのが欲しくて我慢できないのだ。
「哲くん……そんなに腰揺らしたら、弾みで入っちゃうかもよ?」
「ンッ、うう……」
「声、抑えなくていいのに」
脳髄がとろとろに溶けているみたいだ。サツキさんのことしか考えられないのに、恥の感情は残っていて、はしたない喘ぎ声を出すまいと俺は唇を噛み締めている。
出し抜けに、肩にびりりとした軽い痛みが走り、「アッ!?」と反射で仰 け反る。今のは、まさか。
「ふふ、おっきい声出たね。さっきのお返し。これでおあいこだね」
サツキさんが肩口を食んだのだ、とその台詞で思い至る。彼の声にはからかう響きがあったけれど、怒っている様子はない。それが俺を安心させる。
いつしか俺は壁に手をつき、口の端からだらしなく涎を垂らしながら、猫のように甘くとろけた声で喘いでいた。淫らに腰が蠢くのを止められないけれど、サツキさんが気持ちよくなってくれるなら俺も幸せだ。
体の奥深くから巨大な快感がせり上がってくる。気持ちが通った相手との情交は、こんなにも体だけの関係と違うものなのか、と圧倒された。
「サツキさ、もうっ、出そ、です」
「うん、好きなタイミングでイくといいよお――哲成」
「ぁ……!」
名前を呼ばれた瞬間、何かが閃光を放って爆ぜた。高い波に全身がなぶられ、拐われて、もみくちゃにされる。と同時に、どこまでも堕ちていくような感覚があって、頭の中が真っ白になった。
昂りがどくり、どくりと白濁を吐き出していた。その痙攣が治まるころ、自分の息が驚くほど荒くなり、心臓が早鐘を打っているのに気づく。
「ふう……それじゃ、綺麗にしたら上がろうか?」
「待って」
離れようとする体を、手首を握ることで引き留める。上半身を捩って振り返ると、目を丸くしたサツキさんがいた。
「サツキさんはまだ出してないですよね? 達くまで使って下さい、俺の体……」
少しかすれ始めた声でねだると、相手は「哲くん……! もうっ」と少し怒ったように唇を尖らせる。
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「危ない、って……?」
「可愛すぎて危険ってこと」
サツキさんは言いながら、俺のいいところを正確に抉った。さっきより激しく、ちょっとだけ乱暴に。そのほのかな粗雑さが興奮に薪をくべ、情欲の炎がさらに燃え上がる。
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揺さぶられながら絶えだえに宣言する。後ろから手が伸びてきて、顎を捕らえられた。歯が当たるほどの勢いで口づけされ、舌が絡み、唾液が混じり合う。
「ふッ、好きだよ……哲成」
「サツキさん、俺も……好き」
名前を呼ばれるのが、依頼人に使った偽名でない名前で呼べるのが、こんなにも嬉しいなんて。
首の後ろを熱い息づかいがくすぐった。股の薄い皮膚が、サツキさん自身の収縮をダイレクトに感知する。内腿を生ぬるい流体が伝い落ちていくのが、情事の熱に浮かされる脳でもはっきり分かって。
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