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第二章
朝の者
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辺りは静かだった。本当に生きてる人がいるのか、疑うくらいに静かだった。炉凜空は白い毛布を頭からすっぽりと被った。あと少しで外に出る。そっと息を吐く。震えている。少し肌寒くなってきたのもあるが、緊張のせいでもあった。夜中、皆がまだ寝ている中、炉凜空はあらかじめ調べておいた見張りの目が通らないルートを辿って、外に繋がっている下水道にたどり着いた。見張りの人に見つかるとおもっていたのに、すんなりと事が進んで正直驚いていた。持ってきたランプが消えてしまわないように丁寧に地面に置く。微かに下水道の出口につながる上のほうから、夜の闇が染み出ている。炉凜空は朝の者だった。朝の者は、夜の間にドームの外に出るのは禁じられている。夕方近くになったら外に出ていた人達は全員が闇を一切通さないドームと呼ばれる建物の中に入る。そして、その中で闇に染まらないように朝の者達は夜を寝て過ごす。夜の間は決してドームの外には出ない。出たら身体が闇に染まり、闇と共に消えてしまうからだ。もちろん、炉凜空はその事は知っていた。炉凜空だけじゃない。朝の者達の誰もが知っている事だ。炉凜空は下水道の上の方を見上げる。壁に梯子が着いていて、そこから外に出ることができる。さっきよりも微かだが、外が明るくなってきている。炉凜空はランプを消した。このくらいの闇の濃さなら、炉凜空は耐える事ができるのだ。他の朝の者だったら、この下水道に来ただけで一気に夜の闇に取り込まれ消えてしまうだろう。梯子のある方へ向かう。外の空気がさっきよりも深く感じられた。ぞクリとする。自分が他の人よりも夜に強いのは知ってはいたが、やはり少し怖い。自分の部屋に戻ってまた別の日にしようかと悩んだが、今戻ったとしても見張りに見つかる可能性がある。せっかくのチャンスだ。炉凜空はそっと梯子に手を近づける。ヒヤリと冷たかった。足を梯子にかけ、1段ずつ登っていく。胸が高鳴る。足が震える。外の空気がだんだん近づいてくる。
外に出た。風が吹き炉凜空の肩まで伸びた薄い灰色の髪の毛を揺らす。炉凜空はこの髪の毛が嫌いだった。朝の者達は皆、綺麗な白い髪色をしている。目の色の色素も薄い色で、少しの闇に触れるだけで身体が薄れてしまう。だが炉凜空は違った。灰色の髪色に濃い青色の瞳。そして、ちょっとの闇に染まっても平気だった。深く息を吸い込む。いつもと違う空気だ。嗅いだことのない空気。空を見上げる。空はまだうっすらと暗く星々が散っていた。息を飲む。小さい頃1度だけ夜の空を見たことがあるが、雨が降り分厚い雲に覆われていて星を見ることが出来なかった。周りを見渡す。昼間と違い、街には誰もいない。花屋も、パン屋も、いつも見慣れている風景なのに、まるで違う世界に来たみたいだ。自然と笑みが零れる。ワクワクした。皆がドームの中で寝ている間、自分だけが外にいる。自分だけがこの風景を見ることができ、この空気に触れる事ができる。身につけている白い毛布なんか投げ出して思いっきり走りまくりたい衝動に駆られたが、少しのところでそれを留めた。用心に越したことはない。今闇に染まってしまうのは困る。再び空を見上げる。空が少し明るくなっている。しまった。もう少しで朝が始まる。急いで街から、少し離れた丘の方に向かう。自前から、炉凜空が見つけ出しておいたところだ。そこからは、遠くの景色でさえ見回すことができる。東のほうが少しピンクがかっている。走る。風が肌にあたる。ほんとに、なんでもう少し厚着してこなかったのだろう。丘に着く。必死でてっぺんまでのぼる。呼吸が上手くできない。心臓が鳴り響く。足がもつれる。やっと丘のてっぺんに着いた。そして、空を眺めた。息が荒い。胸が苦しい。汗が額から流れ落ち目に入る。それでも、今目の前にしてる光景をみていたかった。下の方が薄いピンク色に染まり、太陽が見える。夜の夜空が少しずつ薄れていく。星々の輝きが上のほうで懸命に輝き、太陽の反対側に薄らと月が見える。風が吹く。薄いサーモンピンク色のワンピースが膨らむ。草が太陽に照らされキラキラと光る。初めて、朝の始まりを見た。そして初めて、夜の終わりを見た。この光景を炉凜空だけが見ている。まだ西の方角は薄らと闇がおおっている。あそこに行けば、もっと、この光景を味わえるだろうか。向かおうとした足を止める。西の方には朝の者と違い、夜の者達が住む。夜の者達と直接会ったことはない。生きる世界が違うのだ。だか、朝の者達の中での夜の者達の印象は悪かった。治安が悪く、朝の者達が住まうところよりも酷い環境で、残酷な人が多い場所。そこに近づくには怖かった。朝が始まる。朝の者達が起き始め、夜の者達が眠りにつく。ふと、炉凜空は思った。夜の者も、この光景を見ているのだろうか。たとえ、生きる時間が違くとも、生活が違くとも、この光景だけはそんなもの通用しない気がした。夜と朝の境界線。夜の者と朝の者が住まう境界線。それが徐々に消えていく。今日もまた朝が始まる。
外に出た。風が吹き炉凜空の肩まで伸びた薄い灰色の髪の毛を揺らす。炉凜空はこの髪の毛が嫌いだった。朝の者達は皆、綺麗な白い髪色をしている。目の色の色素も薄い色で、少しの闇に触れるだけで身体が薄れてしまう。だが炉凜空は違った。灰色の髪色に濃い青色の瞳。そして、ちょっとの闇に染まっても平気だった。深く息を吸い込む。いつもと違う空気だ。嗅いだことのない空気。空を見上げる。空はまだうっすらと暗く星々が散っていた。息を飲む。小さい頃1度だけ夜の空を見たことがあるが、雨が降り分厚い雲に覆われていて星を見ることが出来なかった。周りを見渡す。昼間と違い、街には誰もいない。花屋も、パン屋も、いつも見慣れている風景なのに、まるで違う世界に来たみたいだ。自然と笑みが零れる。ワクワクした。皆がドームの中で寝ている間、自分だけが外にいる。自分だけがこの風景を見ることができ、この空気に触れる事ができる。身につけている白い毛布なんか投げ出して思いっきり走りまくりたい衝動に駆られたが、少しのところでそれを留めた。用心に越したことはない。今闇に染まってしまうのは困る。再び空を見上げる。空が少し明るくなっている。しまった。もう少しで朝が始まる。急いで街から、少し離れた丘の方に向かう。自前から、炉凜空が見つけ出しておいたところだ。そこからは、遠くの景色でさえ見回すことができる。東のほうが少しピンクがかっている。走る。風が肌にあたる。ほんとに、なんでもう少し厚着してこなかったのだろう。丘に着く。必死でてっぺんまでのぼる。呼吸が上手くできない。心臓が鳴り響く。足がもつれる。やっと丘のてっぺんに着いた。そして、空を眺めた。息が荒い。胸が苦しい。汗が額から流れ落ち目に入る。それでも、今目の前にしてる光景をみていたかった。下の方が薄いピンク色に染まり、太陽が見える。夜の夜空が少しずつ薄れていく。星々の輝きが上のほうで懸命に輝き、太陽の反対側に薄らと月が見える。風が吹く。薄いサーモンピンク色のワンピースが膨らむ。草が太陽に照らされキラキラと光る。初めて、朝の始まりを見た。そして初めて、夜の終わりを見た。この光景を炉凜空だけが見ている。まだ西の方角は薄らと闇がおおっている。あそこに行けば、もっと、この光景を味わえるだろうか。向かおうとした足を止める。西の方には朝の者と違い、夜の者達が住む。夜の者達と直接会ったことはない。生きる世界が違うのだ。だか、朝の者達の中での夜の者達の印象は悪かった。治安が悪く、朝の者達が住まうところよりも酷い環境で、残酷な人が多い場所。そこに近づくには怖かった。朝が始まる。朝の者達が起き始め、夜の者達が眠りにつく。ふと、炉凜空は思った。夜の者も、この光景を見ているのだろうか。たとえ、生きる時間が違くとも、生活が違くとも、この光景だけはそんなもの通用しない気がした。夜と朝の境界線。夜の者と朝の者が住まう境界線。それが徐々に消えていく。今日もまた朝が始まる。
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