「‥君に気安く話しかけられたくないな。」初恋の人に使用人と間違えられて、塩対応されちゃいました。

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グスタフ卿の話‥からのハプニング

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「エリーゼ、君は自分の性格や言動が急に変わってしまった経験はあるかい?」

「‥ない‥ですね。」

「普通はそうだよな。‥だが、僕は最近急に自分の性格が変わってしまったと感じるんだ。まるでとんでもない凶悪な人間になってしまったかのようにね。このまま良心すら失い、周りの人間を平気で傷つけてしまいそうな自分が怖いんだ。

 だから今日も本当は君に会いに行くのをやめようかと思ったんだ。でも‥君が僕なんかと会うのを楽しみにしてくれてると思うと‥いてもたってもいられなくて来てしまった。
  
 ‥こんな事になるなら来ない方が良かったかな。」

 グスタフ卿がそう言って、エリーゼからまた少し距離をとりました。

 エリーゼがその事に気づき寂しそうな表情を見せましたが、グスタフ卿はそれを横目に見ながらも気付かぬ振りをして話を続けました。

「その事と関係があるのかは知らないが‥最近飲み薬の量がやたらと増えたんだ。増やした薬は疲労回復や体力をつけるための栄養剤だと言ってはいるが、どうも信じがたい。

 執事の態度を見る限り、僕のこの薬について何かを知っているんじゃないかと思うんだが、いくら聞いても何も教えてはくれないんだ。

 両親は何となく僕の事を避けているようだし‥。

 薬の事といい、両親が僕を避けている事から鑑みるに‥僕だけが知らない何か秘密があるようなんだ。それが何なのかは分からないが‥。だから僕はそれが知りたいんだ。」

 エリーゼはグスタフ卿の話をここまで聞いて、先日のグスタフ卿の屋敷の執事の話を思い出していました。

〝坊っちゃんが最近薬を飲む事を拒否するんです。そのせいか、少し暴力的な性格になった気がします。‥先生、どうすればいいのでしょうか。″

『あの日、確か初老の執事らしき人物がそう言っていた気がするけど、薬を飲まないと凶暴なるって‥一体グスタフ卿は何の薬を飲まされているというの?』

 エリーゼはここまでグスタフ卿の話を聞いて、改めて薬の正体が気になりだしました。

「‥‥そもそも薬はいつから飲むようになったんですか。」

「覚えてないな。気付いたら飲んでいたから‥。」

「ナポリ医師の処方したお薬なんですよね?先生になんの薬かは聞いてみました?」

「‥先生はただの疲労回復剤と皮膚の炎症の抗生剤だと言っていた。」

「‥‥なら、やっぱりグスタフ卿の飲んでいるお薬はただの疲労回復剤や栄養剤、抗生剤だという事ね。」

 エリーゼはそう言いながらも、グスタフ卿の飲んでいる薬に彼のこの変化の謎を解く鍵があるのではないかという疑念を持っていました。

 それにナポリ医師が何か重大な事をグスタフ卿に隠す為に嘘をついているのではないかとも思っていました。

『もし先生がグスタフ卿に嘘をついているのだとしたら‥薬の件は私がグスタフ卿には内緒でこっそりと医院に忍び込んで調べてみようかしら。』

 ‥と良からぬ企みをしていました。

「グスタフ卿、私達がしばらく距離を置くという提案はとりあえず受け入れます。グスタフ卿が私と一緒にいる事で苦しむ姿を見るのは不本意なので。

 そのかわり、必ずこの事を早く解決して私の元へ戻って来てくださいね。‥約束ですよ。」

「エリーゼ、分かってありがとう。絶対にこの問題を解決して、君に会いに行くよ。約束する。」

 そう言ってエリーゼの顔を見つめたグスタフ卿でしたが‥相変わらずエリーゼとグスタフ卿の間の距離は離れており、しばらくの間の別れを互いに惜しみあうには、なんとなく不似合いな状況に思われました。

「‥グスタフ卿、別れの瞬間ぐらいはもっと近づいてハグしても良いのでは?」

 そう言ってジリジリとグスタフ卿に滲み寄るエリーゼでしたが、グスタフ卿は後退りをしながらそれをかわそうとしました。

 ガチャンッ!

「‥グスタフ卿、何か落ちましたよ。」

 後退りした際にグスタフ卿が胸元の内ポケットから落としたのは、鉄の鎖と輪っかのついた拘束具でした。

「何かの任務中だったんですか。」

「‥いや、違う。これは‥」

「‥‥。」

「エリーゼに何か悪い事をしそうになった時に、君にこれで僕の両手を拘束してもらおうと思って‥万が一の時の備えとして持ってきたんだ。」

「万が一の時に‥ですか。へぇ‥じゃあ使い方を今から教えて下さい。使い方が分からないといざという時使えないじゃないですか。」

「そうだな。エリーゼが僕に使うかどうかは別として、これは君の外出時に何か危険がさし迫った時にも使えるだろうから‥よし、早速使い方を教えよう。」

 グスタフ卿はそう言うと早速その拘束具をエリーゼに手渡し、自分の左手を差し出しました。

「‥届かないです。グスタフ卿がもっと近づいてくれないと。」

「ああ、そうか。」

 グスタフ卿は慌ててエリーゼに近づきました。

 エリーゼはグスタフ卿の説明通りに拘束具の片方を彼の手首に固定します。

 そして拘束具のもう片方を自分の手首に嵌めて、鍵穴に鍵をかけました。

「エリーゼ、違うよ。その拘束具は君の手に嵌めるものじゃない。もう片方も僕の手に嵌める為にあるんだ。

 僕以外の男性でもエリーゼに近づいてくる男がいれば、この拘束具でそいつの両手を拘束するんだ。

 どんな大男でもこの拘束具で両手を拘束さえしたら、君に一切手出しはできないって事なんだよ。凄いだろ?さあ、君の手に嵌めた拘束具を外して‥。」

 グスタフ卿がそう言ってエリーゼに詰め寄ると‥

 グスタフ卿の顔が近づいてきた事に照れたエリーゼは、手に握っていた鍵をうっかりカーペットの上に落としてしまいました。

「エリーゼ、さあ鍵を使って早くこの拘束具を‥。」

「グスタフ卿、ごめんなさい!今鍵を落としてしまったみたい‥。」

 エリーゼが身を屈めてカーペットの上を探しますが、鍵はどこにも見当たりません。

 ‥と、この時エリーゼは自分の肩にグスタフ卿の腕が当たっている事に気付きました。

「グスタフ卿?‥あっ、そうか。この拘束具で私達繋がっていたんでしたね。」

 拘束具でエリーゼとグスタフ卿の手は片方ずつ拘束されていたので、エリーゼが動くたびに彼も引っ張られていたのです。しかも拘束具は二つある輪が短い鎖で繋がっていたので、拘束具で繋がった2人は、どうしてもくっつかざるを得ない状況なのでした。

「もしかして鍵が見つからないのか?…だとしてもこの部屋で無くしたんだから確実にこの部屋にあるはずだ。大丈夫、必ず見つかるから。エリーゼ、落ち着いてもう一度よく探してみるんだ。」

「そうは言っても‥。ここまで探してもみつからないとなると、鍵はベッドの下とか家具の下に落ちていったんじゃないでしょうか。となると‥家具をどかして探さないと‥。」

「そうか…。この拘束具すらついてなければ僕1人で家具の一つぐらい移動させられるのに‥。」

「でも、鍵って必ず予備があるんですよね?グスタフ卿、鍵の予備を下さい。」

「鍵の予備は僕の執務室にあるんだ。‥まあ、執務室に行かなくても僕の部下にこの拘束具の鎖部分を切ってもらえばお互いの手は自由になるわけだが‥。どちらにしても、この状態で一旦外に出る必要があるな。」

 グスタフ卿はそう言うと自分の持っていた大きなハンカチで2人の手元の拘束具を隠すと‥

 そのまま馬車の方へ2人して向かう事にしました。



 



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