「‥君に気安く話しかけられたくないな。」初恋の人に使用人と間違えられて、塩対応されちゃいました。

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グスタフ卿とエリーゼの逃避行?

 

 エリーゼは愛しいグスタフ卿に手を握られながら馬車に揺られていました。

 何も言わずに困った表情を浮かべるグスタフ卿、そして馬車から見える見知らぬ場所の風景‥。

 この馬車がどこに向かっているのかは気になるところでしたが、エリーゼは不思議な確信を持っていました。

『私とグスタフ卿はきっと今愛の逃避行をしている最中なのね。‥どういう流れでこうなったのは知らないけど、これは私と彼にとって良い事なのよ。‥良い未来に向かっているのよね。』

 そんな風に思いながら、エリーゼは自分の手を握っていたグスタフ卿の手を強く握り返しました。

 その瞬間間近にあったグスタフ卿の顔がエリーゼの方を振り向き、しばらく二人は見つめ合う形になりました。

『‥二人横並びに腰掛けていたら、勿論こうなるわよね。‥落ち着くのよエリーゼ。』

 そう言ってなんとかエリーゼは平静を装っていました。

 一方グスタフ卿も、エリーゼと目が合って気まずい思いになるのを避ける為に体ごと窓際を向くことにしました。

 それでも強く握り合った手は勿体無いので外さずにいました。

 このままエリーゼと見つめあっているうちに、エリーゼを押し倒して何かやましいことをしてしまいそうな自分を抑えるために外の景色に意識を集中させました。

 窓の景色がゆっくりと流れていくのをしばらく必死に眺めていると、ふと肩にエリーゼの頭が乗っかかるのを感じました。

 いつの間にかエリーゼが寝てしまったようです。

 エリーゼの頭をそっと自分の太腿の上に乗せ直すと、自分の着ていた上着をかけてやりました。

 スースーというエリーゼの可愛い寝息の音を聞きながら、グスタフ卿は窓の景色を眺めながらしばらくぼーっとしていました。

 こんなにも何も考えずにぼーっと外の景色を眺めて過ごすのはグスタフ卿にとって初めての事でした。

 思えば常に何かに追い詰められてるように忙しい人生だったな…

 グスタフ卿はふと自分の人生を振り返りそう呟いていました。

 物心ついた時には訳もわからず毎日ひたすら剣や勉強漬けにさせられていた人生だったので、努力してみても良い思い出だなんてものは一つも浮かんできませんでした。

 そんな思い出の中で唯一浮かぶのはエリーゼとの出会いからこれまでの信じられないハプニングの数々でした。

「ハハッ。…本当にエリーゼといると恥ずかしいようなハプニングばかり起きてたよな…。」

 グスタフ卿はエリーゼの寝顔をそっと指でつついてみました。

 途端に眉間に皺を寄せて顔を顰めるエリーゼを見ていると愛おしさが募りました。

 グスタフ卿は自分がエリーゼの事を好きだという事をしっかりと自覚しました。

「彼女が目覚めたらきちんと告白をし、彼女との関係に責任を取らなくては。もう逃げるのはやめないと…。これからはカーリー兄さんがゴディバル公爵家の当主として一族を率いていくというのなら、それを側で支えるのも良いだろう。これからしばらくはカーリー兄さん達の厚意に甘えさせてもらい休暇をとり、頭をしっかりと整理してから新しい人生を歩もう…。新しい人生を…。」

 グスタフ卿はそう言うと晴々とした表情で窓の景色を眺めました。

 心なしか景色が少しキラキラと輝いて見えました。

 それからしばらくし、馬車は山の中に孤立した屋敷に到着しました。

 門には若い男女が数人頭を下げてたっています。

 グスタフ卿がエリーゼを抱きかかえながら馬車から降りると、静かに部屋へと案内してくれました。

「お食事はどうしますか。」

「…簡単な物を作って部屋に持ってきてくれないか。」

「かしこまりました。」

 若い男の従者は無表情で部屋を出ると足音も立てずに静かに部屋から離れて行きました。

 彼も公爵家の影の者なのかな…。

 グスタフ卿は今日初めて知った公爵家の秘密をすんなりと受け入れている自分に驚きました。

「思えばこれまで父や母、祖父の言うことになんの疑問も覚えずに生きてきたが…こうして公務を堂々とサボったり反抗的な事をしてみても案外平気でいられるものなんだな。」

 妙にリラックスした気分でエリーゼが横たわるベッドに自分も横になってみました。

 仕事やお金…これからのこと、家族の事、自分の事、色々とゆっくり考えて頭を整理しないと…。

 それに…

 エリーゼの目が覚めたら、今度こそ彼女を抱こう。彼女から逃げるのはもうやめて正直に告白しよう。

「どんな僕だろうと受け止めて生涯を共に生きて欲しい。」

 そう言ってプロポーズしよう。

 疲れが溜まっていたせいか、グスタフ卿はそう決意した後にすぐにうつらうつらと意識が遠のいていくのを感じました。

 ベッドに横になり眠ってしまったグスタフ卿の腕の中には、無意識なのかエリーゼの体がしっかりと抱きしめられていました。

 



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