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第十五夜 夏の夜
しおりを挟む夏休みに私は田舎で一週間、祖母の家で過ごすことになった。
田舎だから娯楽施設はないから、ずっと祖母の家でタブレットをいじっていよう、母と違って祖母は怒らないから、と思ってほくそ笑んだ。
祖母の家のまわりは田んぼと畑ばかりで、コンビニはない。だから、お菓子やジュースは忘れずに旅行バッグいっぱいに詰め込んだ。
ゲーム機とタブレットは、財布と一緒にリュックに入れた。
「夢華、お母さん達も冬馬の部活の試合が終わったら、おばあちゃんちに行くからね。一人で大丈夫ね。」
「もう、六年生だよ。大丈夫だって。それより、来る時おやつやジュースをたくさん持ってきてよ。おばあちゃん家ってお菓子がないんだもん。」
「スイカや水羊羹出してくれてたじゃん。」
「え~そういうのじゃないんだけどな。クッキーやポテトチップスがいいのに。」
そんな事を母と話してるうちに、車が新幹線の駅に着いた。切符はもう買ってある。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
こうして、私は初めて一人で乗る新幹線や、駅弁にワクワクしながら、祖母の住む田舎へ向かった。
新幹線を降りてバスに乗り継ぐと、バス停で祖母が待っていた。
「おばあちゃん、来たよ。早くお家に行こう!」
「夢華はせっかちだなぁ、ハハハッ。」
祖母の家は、バス停からすぐだった。大きな平家の家で、庭には大きな納戸や倉庫、農機具置き場があった。
「アハハ、本当に田んぼと畑しかないや。おばあちゃん、買い物どうしてるの?」
「軽トラで大きいスーパーだって、映画館だって行けるぞ。スーパー銭湯もあったな。今晩行くか?」
「行くー!スーパー銭湯の帰りに、スーパー寄ってアイス買おうよ!」
「アハハ、夢華はよくばりだなぁ。」
祖母が言うには、この辺も最近になって道が整備されて大型のスーパーや施設が出来てきたようだ。おまけに新興住宅地もできて、住人も増えたらしい。
家に着いてから、夕方まではタブレットで動画を楽しみ、その後は祖母の軽トラでスーパー銭湯へ行った。お風呂を楽しみ、そこの食堂で刺身定食を食べて、帰りはスーパーでアイスを買って帰った。
「おばあちゃん、楽しかったね~。あとは寝るだけだね。一緒に寝ようね。あと、トイレもついてきてね。」
「分かっとるよ。夢華は怖がりだからなぁ。」
そう言って、祖母は二人分の布団の上に、大きな蚊帳を吊るした。窓や縁側の引き戸は開いたままだった。
「おばあちゃん、変な人や泥棒が来たらどうするの!閉めないとダメ!」
「大丈夫だって。今までもこうして寝てたし、それにばあちゃんは強いからな。アハハ。」
「アハハじゃないって!もう。」
結局扉も窓も開け放して寝ることになった。
布団の中で動画を見たり、ゲームをしてウトウトしていると、
アーアーウーアー、アー、アー
外から呻めき声がした。
ウアーウー、アー、アー
ガリガリ、ガリガリ
アーアーウーウー、アー
「おばあちゃん、おばあちゃん、起きて!誰かいる。おばあちゃん!」
「んあ?」
「アーアー言っとる。外で誰かの呻めき声がする!」
「あぁ、牛蛙だなぁ、きっと。」
「牛蛙?あっ、また寝ちゃった。」
祖母は結局朝まで目覚めなかった。私は朝の新聞配達の人が来るまで起きていた。
「おばあちゃん、昨日ガリガリとかアーアーとか一晩中音がしてて怖かったんだよ!起こしたのに!」
「だから牛蛙だろ?」
「本当に!?」
「ああ、そうだ。眠たかったら、もう少し寝とくと良い。布団はまだ敷いとくでな。」
そう言って、祖母は庭の隅をずっと見つめていた。庭の隅に何かあるんだろうか?
私は祖母が朝ごはんを用意している間に、こっそりその庭の隅を見に行った。
お墓?小さな盛り上がりがあった。その盛り上がりは比較的新しいもののように思えた。
その横には、お饅頭の様な物がお供えしてあった。それと、血?小さな血痕があった。
そう言えば、母がよく言っていた。この辺は昔は土葬が主流で、人が亡くなると棺桶に入れて深く掘った穴に埋めたらしい。
埋めたはずの人が、棺桶を突き割り、棺桶の上にいた事もあったとか。まさか、あの夜中の呻めき声は、昔の土葬された人の幽霊の声?
「こんにちは。鷹野さん、いますか?」
近所の人だろうか。
「はい、こんにちは。」
「あっ、お孫さんかしら。おばあちゃんは?」
「今ご飯の支度をしています。」
「そう、あの‥‥うちの猫がいなくなってしまってね。今探してるんだけど‥真っ黒な雌猫なんだけど‥‥。また見かけたら教えて下さいって伝えて頂ける?」
「分かりました。」
「すいません。お願いします。」
そう言って近所の人らしき人は去って行った。うっかり名前を聞き忘れたが、黒猫の飼い主だって言えば分かるだろう。
猫‥‥何かひっかかる。
あの盛り上がりは新しかったし、饅頭は本当にお供え物なんだろうか?
以前、祖母は猫の糞害で困っていた。猫よけの忌避剤もよく買っていたという。
もし、猫よけの有害な饅頭を庭に置いてて、それを猫が食べて死んじゃったら?
もし死んだ事を隠す為に土に埋めていたら?土の中で、死んだと思った猫が実はまだ生きていたとしたら?
だとしたら、きっと土の中で一晩中もがいていたのかもしれない。そう考えると、全ての辻褄が合う。
もし、本当にそうなのだとしても、私は祖母を責めはしない。きっと仕方のない事なのだ。自分でも同じ事をしたかもしれない。
全部私の憶測に過ぎないが‥‥。
次の晩からは、あのウーアーの呻めき声と、ガリガリという音はもう聞こえてこなかった。
本当に牛蛙の鳴き声だったのか、猫が苦しんで呻めいた声だったのかは分からない。
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