令和百物語

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第二十四夜 黒いバッグ

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駅から自宅へ帰る道には昔ながらの商店街があった。

私は商店街を歩きながら、商店街の中で唯一おしゃれな雰囲気を醸し出していたガラス張りの靴屋に入った。決して安くはない靴がずらりと並んでいた。

黒いブーツと黒いバッグを手に取った。それぞれ二万円以上はした。貧乏学生の私には少し痛い出費だったが、高校生の頃からこのお店の靴に憧れていた私は思い切って買ってしまった。

靴は箱に入れられて、バッグも丁寧に梱包されて渡された。とても満足だった。



「咲良、今日も遅いの?」

「うん。学校の帰りに夜までバイト。ご飯いらないからね。」

「気をつけてよ。」

「はーい。行ってきます。」

私は自分の通う大学近くの居酒屋でアルバイトをしていた。バイト仲間ともうまくいっていた。仲間同士でよく遊ぶうちに、仲間の一人と付き合うようになった。

「健太郎、今日もバイト終わったら遊びに行く?」

「あっ、一時間くらいなら良いよ。」

「ふう‥‥ん。そっかあ、じゃあ駅前のお店で先に行って待ってるね。」

「分かった。じゃあ後で。」

健太郎とは付き合って半年たつが、最近は彼が就職活動で忙しい為なかなか会えなかった。それに会えたとしても、健太郎はすぐに帰ってしまった。

お互い明日は休みだし、今日こそゆっくり出来ると思ったのになぁ。

駅前のお店でキャラメルラテを飲みながら、健太郎を待っていた。健太郎のシフトが終わる時間はとっくに過ぎてた。

携帯電話を取り出し、LINEをチェックすると健太郎のメッセージがあった。

「ごめん。疲れたからやっぱり帰る。」

どうりで待ってても来ないわけだ。以前なら、疲れてても会ってくれたし、会えなくてもちょっと顔を見せるぐらいはしてくれたのに‥‥

私はお気に入りの黒いバッグに携帯電話を戻し、キャラメルラテを飲んで帰宅した。

「お帰り、早かったね。」

「うん。」

「ご飯は?」

「いらない。」

私は健太郎におやすみのLINEを送って寝た。




それからしばらくして、私は健太郎に呼び出された。

「咲良、ごめん。別れたい。」

「健太郎、就職活動が忙しいんでしょ。私なら落ち着くまで待つよ。」

「違う、ごめん。他に好きな子がいるんだ。」

「あっ、そうか。いつから?」

「就職活動で知り合った。同じ会社に行く子なんだ。」

「もう付き合ってるの?」

「ごめん。どうしても言えなかった。俺、もうバイトやめるから、もう‥。」

「うん、もう会えないね。分かった。もう良いよ。」

そう言って、私は健太郎と別れて帰宅した。

「今日も早かったね。ご飯は?」

「いらない。」

「あんたまたこの黒いバッグ持ってった?」

「うん。」

「このバッグ、あんたが気に入ってるから言えなかったけど、何か憑いてるよ。これ持ってくと、いつも嫌な事があったでしょう。」

「えっ、でもこれ新品のバッグだよ。中古とかじゃないし。」

「新品とか中古とか関係ないよ。どうやって憑いたか知らないけど、もう持たない方がいいよ。」

母にそう言われたからではないが、確かにこの黒いバッグにはいい思い出はあまりなかった。部屋に入ってすぐにバッグの中を取り出し、黒いバッグをゴミ箱へ捨てた。

それからしばらくは彼氏も出来なかったが、就職してから、先輩の紹介で知り合った人と今は付き合っている。

今は彼と会う時も、親に隠さずに堂々と会っていた。母は、あれから私の持ち物に対して何かを言う事はなかった。




前の彼と別れた時に母には言わなかったけど、私はなんとなく気付いていた。

あの黒いバッグには、確かに何かあったはずだ。

彼が別れを告げる前、私はよく彼の部屋を覗いていた。自分の部屋のベッドで寝てたはずなのに、なぜか私は彼の部屋にいて、彼が別の女と寛いでいるところを見ていたのだ。

そして、彼女の持ち物に私は何度か自分の髪を巻き付けたりもした。

夢だと思っていた。でも彼が別れを告げて彼女の事を話した時に、あれが夢でなかった事を悟った。

だから私と同じように、誰かの念があの黒いバッグに取り憑いていたのだとしても、不思議ではないと思えたのだ。

別れた彼の彼女が、私の念が取り憑いた持ち物のせいで彼と別れていたらどうしよう。

でも、他人の彼氏をとったんだから因果応報なのだとも思ってしまった。
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