令和百物語

みるみる

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第二十三夜 山道

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私の通う高校は、入学してすぐの頃に山の合宿所に三泊四日します。そこで軽い登山を兼ねたスタンプラリーや、レクリエーション等を行います。ちなみに二日目の登山スタンプラリーが、この合宿のメインとなっています。

「乃亜、お茶足りなくなったら頂戴ね。」

「やだよ。先に自販機で買っておきなよ。」

「やだなぁ、こんな山を登るのかぁ。」

皆んな口々に文句を言っていました。私達が歩く山道は、全て舗装されて車も通れるようになっているので歩きにくくはないけど、結構な坂になっているのです。

「さあ、行くぞ!」

先生の号令でスタートしました。先生達は各ポイントに立っていて、そこでスタンプを貰うというシステムです。

私達四人グループも歩きだしました。

「乃亜、待って。休もうよ、ちょっと座ろうよ。」

「未麻さぁ、もうちょっとは頑張りなよ。まだ歩いたばっかじゃん。」

遅れがちな未麻を気にかけながらも、私達はどんどん進んで行きました。

「ねえ亜希ちゃん、やっちゃん、さっきから同じ所をぐるぐるしてない?」

「本当だ。上がっていっても、また下り道に出ちゃう。あっ、ほらあの忘れ物の帽子、さっきも見たよ。」

「まわりにうちの学校の子、誰もいないね。道に迷ったのかな。」

小さな山だったので油断していました。ちゃんと標識や学校の先生が作った看板に沿ってきたつもりだったのに、私達は迷ってしまったようです。

「え~、乃亜しっかりしてよ。乃亜が先頭なんだからさぁ。もう!疲れたぁ。」

「ちょっと未麻さぁ、別に乃亜のせいにしないでよ。あんたがしっかり歩いてれば、あんたに気を取られて看板を見落とす事もなく、道にも迷わなかったんだと思うけど?」

「亜希は、私のせいだって言うの?私は皆んなの後を歩いてただけじゃん。私のせいじゃなくない?」

「未麻はさぁ、何でも人のせいにするよね。っていうか、いつも乃亜にばっか当たるのやめたら?」

「亜希もやっちゃんも乃亜の味方するんだ、へぇ~そう。じゃあ私なんか置いてけば?先に三人で行けばいいじゃん。」

私達のグループメンバーは、私と未麻、亜希、康子です。私は亜希や康子とはよく遊んだりしてとても仲が良いのですが、未麻の事は少し苦手でした。

何かと私に突っかかってきたり、頼ってきたりと正直少しうんざりもしていました。

亜希と康子は、そんな私をとても心配してくれていたのです。

今回グループを組む時も、出来れば未麻に入って欲しくはなかったのです。でも、案の定未麻は入って来ました。

「乃亜もさぁ、未麻に言ってやりな。いい加減付き纏うなって。」

「未麻もさぁ、乃亜が可哀想じゃん。もう甘えるのやめなよ。もう高校生じゃん、中学生じゃないんだよ。」

「だから、私の事なんか置いてけばいいじゃん!」

三人が喧嘩を始めてしまいました。そうしてる間も私達は、ずっと歩き続けて道に迷っていたのです。

「ちょっと、皆んな落ち着こう。一旦止まって、休憩しよう。私も皆んなも言いたい事は山を降りてから言おう。」

そう言って、私は皆んなを落ち着かせて、休憩をとる事にしました。私達は道に座りこんで、黙ってお茶を飲みました。

足がじんじんします。大分歩いたせいでしょう。体の汗をタオルで拭き、しばらく山の中の緑の景色をぼーっと眺めていました。

「ねえ、今来た道を戻って行こうか。先に進もうとするから迷ったんだよ。」

「そうだね、ゆっくり降りて行こうか。」

そう言って私達はゆっくりと立ち上がり、景色を楽しみながら今来た道を戻って行きました。

「あっ、こんなとこに看板があったんだ。うちらの学校のだよね。」

「うん、スタンプラリーC地点はここですって書いてある。」

「先生は?もう皆んな帰っちゃった?」

そう言っていると、後ろから先生にコツンと頭を叩かれました。

「お前たち遅すぎ!先生達皆んなで探してだんだぞ。」

「ごめんなさい。」

私達は先生を見つけてほっとしました。やっとあの山の迷路から抜け出せたのです。

ちなみに未麻とは、二人でよく話し合って、しばらく距離を置くことにしました。

今では未麻も別のグループに入って楽しそうにしてます。私とも普通に話せるようになりました。

あの山での出来事の後、兄から聞いた話だと、山登り等で人が遭難してしまうのは、正常性バイアスが働くからだそうです。

正常性バイアスとは、自分にとって都合の悪い情報を無視してしまったり、過小評価をしてしまう人の特性のことを言います。

災害や事故、事件などの非常事態にあっても、それを正常な日常生活の延長上の出来事として捉えてしまい、都合の悪い情報を無視したり、自分は大丈夫、まだ大丈夫だと過小評価をしてしまう為に逃げ遅れたりする原因になるのだと言われています。

あの日、もしあそこで休憩をせずに、あのまま歩き続けていたらどうなっていたのでしょう。考えると少し怖くなってしまいました。
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