令和百物語

みるみる

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第二十二夜 タケル君

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「タケル、ここに隠れてな。母さんは畑で大根を取ってくるから。」

「母さん、気をつけて。」

昭和二十年八月某日、日本はまだ戦時下にあった。日本中の上空をくまなくB29が飛んでいた。

日本国民は皆、戦中で敵の目を掻い潜りながら僅かな作物を畑で作って食べていた。畑へ作物を取りに行くにも、敵に見つからぬように体を低くして、静かに行った。

タケルは、四月から通うはずだった学校も、授業の停止措置の為行っていない。サイレンがなるたびに防空壕へ隠れて息を潜めるという、ひたすら恐怖の日々を過ごしていた。

そして、昭和二十年八月十五日正午、昭和天皇はラジオを通し、日本の降伏を告げた。

長い戦争の日々が終わった瞬間だった。

大人達は泣いていた。だけど、僕は嬉しかった。これでやっと学校へも行けるし、命を脅かされる事もないのだ。

僕は家を出て、山の麓の竹林まで走っていた。

僕は自由だ。

ふと田んぼの向こうに、モンペではなく色鮮やかな洋服を着た女の子を見つけた。僕は叫んでみた。久しぶりに大声を出してみたかったのだ。

「おーい。」

「まさる君なの?」

女の子も大きな声で返してくれた。

「違うよ。僕タケルだよ。」

「えー、タケル?あんた誰?」

「だから、タケルだよ。」

女の子やその周りの景色は、やけに色鮮やかだった。女の子も可愛いかった。僕は女の子の方へ走って行こうとした。

「タケル、家に帰っておいで。お父さんが帰って来たよ。」

「はーい。」

母に呼ばれて後ろを振り向き、再び前に向き直ると、さっきまであった色鮮やかな景色と女の子は消えていた。

どこまでも続く畑や田んぼがあるだけだった。




「おい、里美の知ってる子なのか?」

「ううん、違ったみたい。」

里美は、塾が終わって父と歩いて帰る道中だった。

遠くで男の子が自分を呼ぶ声がしたから、自分も呼び返して、さっきまで話していたのに、その男の子は里美の目の前で、急に姿を消してしまった。

男の子はどこから来てどこへ行ったんだろう。とても不思議だった。
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