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第二十六夜 クロ
しおりを挟む我が家の猫は真っ黒なのでクロといいます。決して人に懐かない猫です。一度餌を食べてる時に触ろうとしましたが、気配を感じたのかビクッと体を硬直させると、こちらに牙を剥いて威嚇し飛びかかって来ました。
そんな警戒心の強い猫なので、私の友達が来てもすぐに押入れや冷蔵庫の横に隠れてしまいます。友達には、ちっとも可愛くない猫として有名です。
そんなクロが、昨日から急に姿を消しました。
「お母さん、今日はクロ帰って来るかな。」
「どうかな。千早ちゃんが学校行ってる間に、お母さんもこのへんを探してみるね。」
「車に轢かれちゃってたらどうしよう。」
「大丈夫だよ、いってらっしゃい。」
私はクロが心配でした。クロは人懐っこくないから、迷子になっても人間に拾って貰えないだろうし、猫同士の喧嘩だと弱くて負けそうだし、野良猫として無事に生きていけそうにないからです。
私は学校が終わると通学路をキョロキョロしながらゆっくりと帰りました。
臆病なクロが、どこかに隠れているかもしれないからです。クロが私を見つけたらきっと安心して出てくるはずです。
「クロー、クロー。」
ニャア
「クロ!」
クロの鳴き声がしました。けれど、どこにもクロの姿はありません。
ニャア
でも、やっぱりクロの声がしました。ふと足元を見ると、白い猫がいました。
「違うよ、お前を呼んだんじゃないよ。あっちへ行きな。」
クロ以外の猫を連れて行っても、猫二匹なんてとても飼えないから、私は白い猫がついて来ないように走って逃げました。
「ただいま。お母さん、クロは帰って来た?」
「いないよ。この辺を探して歩いたけど、やっぱりいないよ。もう何処かに行っちゃったのかしらね。」
「明日には見つかるかな。」
「なんとも言えないけど、帰って来るといいね。」
ニャア
「あっ、クロ?」
クロがいつも出入り口にしてた、ベランダのガラス戸に白い猫がいました。
「もう!またあんたか。あっちに行きな。」
追い払おうとしたのに、白い猫はクロのご飯皿に向かって走って行きます。
「あっこら、あっち行け!」
ナァーオー
白い猫は、クロのご飯皿が空なので、おねだりをしています。私はだんだんと腹が立ってきました。
「ここはクロの家なの!出てけ!」
私は白い猫を捕まえようと手を伸ばしました。白い猫は、まるでクロのように体をビクッとさせて歯を剥いて飛びかかって来ました。
クロなら飛びかかってきても可愛いけど、よその猫なら話は別です。
「このっ、出てけ!」
私は白い猫の首根っこを捕まえて、庭へ放り出しました。
ウーウー、ナァーオー、ナァーオー
白い猫は一度こちらをチラッと見たものの、すぐにどこかへいってしまいました。
それにしても、クロは一体どこへいったのでしょうか。
あれから猫の本で、不思議話として黒猫の話を読みました。
黒猫なのに、病気でだんだん毛が白くなったり、白髪が生える猫の話。
飼い主が死んだショックで一晩で白猫になった黒猫の話。
もともと白猫遺伝子を持って生まれた黒猫が、だんだんと白くなる話。
黒猫も白くなるのだと初めて知りました。
じゃあ、あの時の白い猫はクロだったのでしょうか。だとしたら、せっかく家に帰ってきたのに追い出されてどんなに悲しく辛かった事でしょう。
クロも白い猫も、あれから二度と姿を見せませんでした。
あの猫がクロなのかただの見知らぬ白い猫だったのかは知りませんが、今度こそ見かけたら、たくさん可愛いがるのになぁと思ってしまいました。
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