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第二十七夜 大きな月
しおりを挟む僕は真っ暗な農道の中を、自転車のライトだけを頼りに必死に走っていた。塾の時間に遅れそうで焦っていたのだ。
高田と長く話しすぎちゃったなぁ。あいつ、副級長の矢野さんに告白されただなんて言うから、そんなん聞いたら根掘り葉掘り聞きたくなっちゃうだろ。
高田とは、僕の同級生で部活も同じ剣道部のやつだ。色白で眼鏡をかけたヒョロッとした男だが、背が高いところとクールで大人っぽい雰囲気が女どもにはたまらないんだそうだ。
うちのクラスの矢野さんがなぁ、恋愛とか興味なさそうなのに、何で高田に告っちゃうかなぁ。何だか嫌だなぁ、皆んな色気付き始めちゃって気持ち悪いや。何だかショックだよなぁ。
それでも僕は、部活に塾にと毎日忙しいから恋にうつつはぬかさないぞ。僕だけは皆んなに毒されないからな。
なんて心の中でぶつくさ言いながら、自転車を必死に漕いでいた。
ああ、東の空に月が見える。今日は満月か。
東の空にまんまるの大きな満月が浮いていた。
それにしては、辺りは暗かった。満月の時はもっと月明かりで明るくなってもいいはずなのに‥‥。
東の空に浮かぶ月は徐々に膨らんで大きくなっていった。やがて、僕と併走するかのようにゆっくりと動き始めた。
なっ、なんだ、月が動くなんて知らないぞ。
月は二つに分裂した。
いや、元々あった月を覆うようにもう一つの月が重なっていたのか?
そのもう一つの月らしき大きな発光体に、僕は恐怖を覚えた。心臓がバクバクいっている。ヤバイ、ヤバイ、早く帰らなきゃ。
自転車のペダルを踏む足に力を込めた。もっと早く早く漕いで、家に帰らなきゃ。
大きな発光体は、その体の下方から小さな発光体をたくさん排出していた。
沢山の発光体が東の空に浮いていた。
せっかくの綺麗な満月も、その存在感を失っていた。
あの発光体は、自然のものではない。UFOだ!
あの大きな発光体が母船か?
早く帰って、お母さんにも見せなきゃ!UFOだって!
僕は家に着くなり、玄関前に自転車を放り出して、母を外へ連れ出した。
「お母さん、UFO!東の空に浮いてるから、早く来て。」
モタモタする母に苛つきながらも、東の空が見える道まで連れてきた。
「‥‥あれ、UFOがない。」
あんなに大きな発光体が、ちょっと目を離した隙にもう消えていた。
「あら、今日は満月ね。どうりでこんなに外が明るいわけね。あんたはどうする?まだ外にいる?ご飯は準備できてるわよ。」
「お母さん、僕本当に見たんだ。信じてないでしょ、ねえ。」
「信じてるわよ。だって、お母さんもよく見るもの。西の空で半透明の大きなシャボン玉みたいなのを見たし、北西の空でオカリナみたいな飛行体を2機見たり、北の空でも三角のを見たわよ。」
「えっ、マジで?」
「ご近所さんもよく見るみたい。さっ、早くご飯食べて塾へ行かなきゃね。」
意外だった。僕だけが不思議な体験をしたつもりでいたのに、UFOってそんなにしょっちゅう見られるものだったのか。
翌日学校で早速この話をしたが、学校の中には、誰も昨日のUFOを見たやつはいなかった。
僕は皆んなより少し大人になった気がした。
あれから三十年たった。僕は就職して結婚もし、職場では課長になっていた。そして今年の社員旅行の食事の席で、ある話から不思議体験の話がでたので、僕は中学の頃のUFOの話をした。
すると、僕の食事のテーブルにいた社員四人のうち一人だけ除いて、皆んながあの日のUFOを見ていたのだった。
「あのUFOを見てから、僕はUFOの存在を信じらようになったしUFOの勉強もしてるんだ。」
僕の上司にあたる人が言った。
「私も、あのUFOは忘れられないわ。あれ以来UFOはもう見てないけどね。」
隣の課の女性事務員も言った。
僕はまさか、こんなところで、しかも同じ食事テーブルについた三人が同じ体験をしていた事に驚いた。
三十年前にA県O市で見られた大きな発光体。
きっと他にも見た人はたくさんいるはず。
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