令和百物語

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第二十九夜 押し入れのおじさん

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押し入れには、知らないおじさんが住んでいます。

ご飯は、僕のおやつやご飯の残りをあげています。

おじさんは、皆んなが寝静まった頃に静かに家を出て行きます。仕事があるんだそうです。

おじさんは僕の家の鍵を持っています。お母さんが仕事へ出かけると、やってきて僕と一緒に遊んだりします。

おじさんは頭が良いので、時々本も読んでくれます。
 


「涼介、おじさんはもうここへは来られないかもしれない。今日でさよならだ。」

「えっ、嫌だよ。お母さんに言って一緒に住めるようにしてあげようか?」

「駄目だよ。おじさんを押し入れに匿ってる事がばれたら、涼介が怒られてしまうよ。」

「あっ、それは嫌だ。」

「おじさんからプレゼントだ。さようなら。」

そう言って、おじさんはまだ昼間なのに家を出て行ってしまいました。僕の手には大きな封筒が残されました。



ガチャ、

あっ、お母さんが帰って来た音がしました。

「ただいま。」

「お帰りなさい。」

「涼介、何を持ってるの?」

「おじさんがね、これを僕にってくれたの。」

「えっ、どこのおじさんが?」

お母さんは、僕の手から封筒を取り中を見ました。

「お金がたくさん入ってる。鍵‥これ家の鍵じゃないの?それと‥‥手紙が入ってる。」



涼介君のお母さんへ

私は悪い人間です。いつも泥棒や強盗をしたりする悪い人間です。

ここへもベランダから入って泥棒に入りました。

涼介君がいたので、びっくりしましたが、涼介君の目が見えないことが分かり、安心して泥棒をしようとしました。

涼介君があんまりにも人懐っこいので、最初は嫌でした。

でも、涼介君が鍵をくれて、また来てね、と言うので、時々来ていました。

お母さんが帰って来てしまった時は、押し入れへ隠れて、皆んなが寝静まった頃に家を出ました。

涼介君が、来年から学校へ行くと聞きました。

私の稼いだお金は汚いけど、あなたたちが使えば綺麗になります。

私は病気です。もう助かりません。ここにも来ません。安心して下さい。ここからは何もとっていません。

私は自首します。死ぬ前に罪を償いたい気持ちになりました。

最後にお願いです。涼介君には、おじさんが旅に出たと伝えて下さい。

鍵もお返しします。

押し入れのおじさんより



「涼介、お母さんがいない時におじさんを家に入れていたの?駄目だよ、殺されたかもしれないんだよ!もう二度としないで!」

そう言ってお母さんは僕を抱きしめました。

「このお金、どうしようかな。警察に届けた方が良いのかしら。」

「おじさんが僕らにくれたの?ならどうして警察に届けるの?おじさん悪い人なの?」

「‥‥違う。おじさんは悪い人じゃないよ。だって、私達にお金をくれたんだもの。

‥‥おじさんは、タイガーマスクなのよ。ほら、タイガーマスクがよく児童施設に寄付を贈ってるでしょ。ニュースでやってるじゃない。うちにも来てくれたんだって。おじさんは、また他の可哀想な子達の所へ行く為に旅に出たみたい。」

「おじさんの手紙に、そうやって書いてあったの?」

「そう、タイガーマスクよりって書いてあったよ。だから、やっぱりこのお金は私達が貰いましょうね。」

そう言ってお母さんは、お金を大切にタンスの引き出しにしまいました。
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