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第三十一夜 廃墟
しおりを挟む学校から帰ると、私はランドセルを玄関に放り投げて水筒を首にぶら下げたまま、また学校へ戻りました。
私のクラスの給食班の皆んなで、今から有名な廃墟へ行くからです。
私の給食班の皆んなは全員怖い話が大好きで、給食後の長い放課の時に、体育館の渡り廊下でコックリさんをした事もあります。
私達は、とにかく怖いものに興味深々でした。
学校に着くと、班長や他のメンバーが既に集まっていました。班長の竜矢が点呼をとり始めました。
「俺と、陽平、賢一、将生、奈緒、由良、未知、七人皆んな揃ったな。じゃあ、いこうか。」
班長の竜矢を先頭にゾロゾロと私達は歩き始めました。
今から行く廃墟とは、学校で幽霊が出るとして一番有名な廃墟です。
廃墟に子供達だけで入ること自体ワクワクしますが、幽霊が出るというので、皆んなとてもテンションが上がっています。
灰色のコンクリート造りの喫茶店兼住居といった建物が見えてきました。庭は草が茂っていて、建物もツタに覆われていました。
「なんか雰囲気あるよな。近くで見ると不気味だな。」
「俺さぁ、実はこの建物に近づくなって親に言われてたんだよな。なんかやばいんだって。」
「幽霊が出るんだろ。知ってるって。だから来たんだから。」
男子達は、話しながら建物の中へ入って行きました。
女子三人は、三人で抱き合いながら少しずつ中へ入って行きました。
「わぁ!」
「キャーッ!」
「あはは、ビックリしてやんの。」
「んもう、男子達やめなよ!」
先に入っていた男子達が、後から来た女子を脅かしたのです。驚いた女子を見て、男子達は満足そうに笑っていました。
楽しい雰囲気で始まった廃墟探検でしたが、既に異変は始まっていました。
「あはは、びびり過ぎじゃね?あはは。」
『あははは。』
「‥‥!」
「今誰か笑ったよな?陽平が笑った後に、続けて笑ったよな。」
「誰も笑ってないよ。」
「でも笑い声が聞こえたんだ。」
「私も聞こえた。」
七人の中で二人だけが笑い声を聞いたと言います。
「‥でも、まだ外も明るいし、せっかくだからささっと中を一周して帰ろうぜ。」
私達は、誰一人帰ろうとせずに先を進んで行きました。
パリン、パリン、
ガラスの破片がたくさん床に落ちています。
噂だと一階は喫茶店だったようです。私から見ると、喫茶店というより大人のお酒のお店のような雰囲気がしましたが‥‥。
白黒の格子タイルの壁も床の赤いカーペットや赤いソファーも、いかにも古臭くて、幽霊が出そうな雰囲気を醸し出していました。
客席とカウンターの間にある仕切り戸をくぐり、皆んなでカウンターの中に入ってみました。埃とクモの巣だらけの棚には、空瓶が数本立っていました。目の前のカウンターの長テーブルには黒い染みがありました。その黒い染みを見て、
「ここで、従業員が二人心中したんだってさ。」
誰かがそう言った時、
バリンッ!
ガラスが割れる大きな音がしました。
「‥‥。」
「ねぇ、もう帰ろうよ。何かやっぱりいるよ。怒ってるんじゃない?」
さっき幽霊の笑い声を聞いたという由良ちゃんが怖がって、帰ろうと言い出しました。
男子達は無視して二階へ行ってしまいました。
「待って、置いて行かないでよ。」
結局女子三人も男子がいないと怖いので、男子を追いかけて二階へ上がって行きました。
二階は住居というより休憩所のようでした。和室が二間ありました。
二階の窓から見る景色は、一瞬ここが幽霊が出る廃墟だと言う事を忘れさせてくれました。
「キャーッ!」
「由良、由良!どうしたの?」
「シーっ。後で言うから、お願いだから、一旦外へ出よう。」
皆んなも、建物内をひと通り見る事が出来て満足したのか、素直に外へ出て行きました。
班長の竜矢が、先頭になって先に出て、点呼をとりました。
「一、二、三、四、五、六、七、八人いるな。ヨシ!帰ろうか。」
そう言って竜矢が学校へ戻ろうと歩き始めると、賢一が竜矢の腕を掴んで止めました。
「俺ら七人じゃね?何だよ八人って、お前わざとだろ!怖がらそーとしてんだろ。」
賢一が怒っています。
「違うって。ちゃんと俺を最初にカウントして、後から賢一、陽平って足元を見ながらカウントしていったんだ。確かに俺を含めて八人いたんだ。」
「だから!俺ら最初から最後まで七人だったろ。」
賢一以外の私達も今気づきました。
「本当だ。七人だよね、何でさっき八人って言われても気にならなかったんだろう。」
私と奈緒も不思議に思いました。
「あのね、さっきだけどね、押し入れから女の子がこっちをずっとみてたの。そしてね、私達の後をずっとついて来てたの。だから怖くて、さっきも言えなくて‥‥。」
由良がさっきの悲鳴の理由をやっと教えてくれました。
「‥まだ私達に付いてきてるかな?」
「分からない‥。ただ、もう二度と行かない方がいいかも。」
由良はそう言って黙ってしまいました。私達も何となく黙ったまま、学校へ戻り解散しました。
あれから一ヶ月後、ふとあの廃墟の事が気になって、塾の帰りに親に頼んで車で少し遠回りして、廃墟の側を通って貰いました。
不思議な事に、あの廃墟はなくなっていました。草だらけの空き地があるだけでした。
私は翌日皆んなにその事を話しましたが、誰も廃墟に行った事を覚えていませんでした。
廃墟があったことすら知らないようです。
私は夢を見ていたのか、それとも皆んなの記憶が消されたてしまったのか、一ヶ月前とは違う世界にでも来てしまったのでしょうか。
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