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第四十八夜 古いバス停
しおりを挟む僕らは、夏休みの朝のラジオ体操の為に、公園に向かっていた。
途中の道にある錆だらけの古いバス停と、木のベンチが、僕らはどうしても以前から気になっていた。
祐司が、バス停の近くで立ち止まった。
「なぁ、そういやこのバス停、誰か使ってるの見た?」
「ない。っていうか、あれってもう廃線になったんじゃね。誰かが記念に残しといたんだろ。」
「バーカ。廃線になったら、バス停も撤去するに決まってんじゃん。」
「そっか‥。」
僕も気になって、バス停に近づいてみた。バス停には時刻表もついていた。
「朝10時28分の便しかないや。」
「行き?それとも帰りの時刻?」
「‥行きとか帰りとかないよ。バスの運賃もついてない。」
「えっ?何だよそれ。‥‥バスがどこから出てて、どこへ行くか分からないなんて怖くね?」
「‥皆んなで朝10時28分のバスが来るか待ってみようか。」
「‥バス来るかな?」
「‥面白そうじゃん。別にバスが来なかったら、皆んなで公園で遊べば良いし。じゃあ、朝10時25分頃にここ集合な。」
僕らは10時25分に、皆んなでまたこのバス停へ来る約束をした。
ラジオ体操を終えて、一旦帰宅し、家でのんびり過ごすとすぐ時間が来た。
10時25分、古いバス停に皆んなが集まった。皆んなで来るはずのないバスを待った。待つこと10分。結局何も来なかった。皆んな特にガッカリもせず、やっぱりな、といった感じで、黙ってバス停を離れた。
そして公園へ行ってバスケやキャッチボールをして遊んだ。
「‥おい、あれ見ろよ。」
祐司が公園の近くの道路を走るバスを指差した。バスはちょうど交差点の信号が赤の為、とまっていた。
「‥何か古臭いバスだな。錆だらけだし、窓開いてんじゃん。天井に扇風機あるぜ。エアコンついてないのかよ。
ってか、乗客一人しかいないじゃん。アハハハ、あの客さぁ、お前のじいさんに似てんな。どこ行くんだよ。」
「‥本当だ。僕んちのおじいちゃんじゃん。病院に入院してたはずなのに‥。帰ったらどこ行ったのか聞いてみるわ。」
バスは信号が青になるとさっさと行ってしまった。
しばらくして、皆んな遊び疲れて家に帰ろうとすると、僕のお母さんが慌てだ様子で走ってきた。
「朋樹、おじいちゃんが病院で亡くなったって。急いで行くよ。」
「えっ、だってさっきバス乗ってたの見たけど。」
「‥何言ってんの!おじいちゃんがバス乗るわけないでしょ。寝たきりなんだから。」
「‥えっ。」
僕はお母さんに連れられて病院に行った。おじいちゃんはすでに亡くなっていた。とても安らかな死顔だった。
後から祐司達に聞いた話によると、公園からの帰り道に、残りのメンバーでまた古いバス停へ行ったそうだ。その時、古いバス停の時刻表からは、10時28分の時刻の表示はなくなっていたらしい。
10時28分‥病院で僕のおじいちゃんが亡くなった時刻とほぼ同じ時刻だった。
偶然ではない気がした。
あれは亡くなった人をあの世へ連れていくバスなのかもしれない。
僕らは夏休み中も冬休みも、平日の土日も公園で遊ぶ度に古いバス停の時刻表を確認した。
あれから時刻表は空白のままだった。
木のベンチには、時々近所のおばあちゃんが2、3人で座って喋っていた。
僕らは中学に上がると、もう公園も古いバス停にも行かなくなった。
気付けば、古いバス停もなくなって、木のベンチだけが残されていた。
結局古いバス停や、古いバスの謎は分からないままだった。僕らの中でその話題すら出てくる事はなくなった。それどころか僕以外の皆んなが古いバス停と古いバスなんて知らない、と言い張るのだった。
僕だけが古い記憶の中に取り残されていた。
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