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第六十一夜 不思議な世界
しおりを挟むうちの母は、何度か不思議な世界を垣間見ていた。
母が初めて不思議な世界を見たのはお風呂場だった。
湯船に浸かって、浴室の壁のタイルの模様をぼーっと見ていると‥‥
壁のタイルの模様がグーンと伸びていって、いつの間にか消え去り、代わりにヨーロッパと江戸時代が混ざったような変な世界が見えたという。
しばらくはずーっとそのヘンテコな世界の様子を観察してたが、そのうちだんだんと視界がタイルの壁に覆われて、そのヘンテコな異世界は消えてしまったという。
またある時は庭の竹藪の中に、そこには無いはずの赤い鳥居とツチノコを見たという。
鳥居に関しては、今はもう取り去っていて庭にはなくなってるが、遠い昔確かに庭に鳥居があったらしい。
だとすると、母がみた鳥居のある光景は、母が昔にタイムスリップして見た景色だというのか?
‥‥それにしても、ツチノコに関してよく分からない。カエルを飲み込んだ直後の蛇かもしれない。
母の話は変わり過ぎていて、やはり信じられないと思った。
それから他にも、母は不思議な世界を見ていた。
不思議な世界をよく見るのは、夜中にトイレへ行った時が多いとの事だった。トイレの扉を開けると、時々トイレではない空間が扉の向こうに広がってる事があるというのだ。そんな事があった時は、扉を閉めてからまた開け直すと、ちゃんといつものトイレに戻るそうだ。
ここまで聞いて、母の話の全てを疑う訳ではないが、私はやはりそんな世界は信じない性質だった。
「お母さんの頭がおかしいんじゃないの?幻覚的なものが見えるとか、脳の問題じゃないの?」
「いやいや、私は変な薬もやってないし、頭もおかしくないから。」
「私もお母さんと同じような世界が見えたら、信じられるのになぁ。」
「あっ、それだったら‥‥。」
母がその時紫色の鉱石を自分の部屋から持ってきて、私に見せてくれた。
「これを枕元に置くと良いかも、アメジストなんだけど。誕生日プレゼントに、友達から貰ったんだけど、妖精界の入り口みたいでしよ。」
「ええっ‥いい年した母親の口から、妖精とかそんなワード聞きたくれたなかったわぁ‥‥。」
「まあまあ、とりあえず今晩試してみて。」
「‥‥。」
私は、母の話を信じたい訳ではないが、少しはそんな世界を覗ける事を期待して、アメジストを枕元に置いて寝た。
ベッドに横になり、寝惚け眼でベッド脇の壁をぼーっと見続けていると、壁の一部に紫色のキラキラした小さな穴を見つけた。
穴はどんどん広がっていき、人が一人入れるほどの大きさになった。私はベッドに横になっていたはずなのに、何故か壁の紫色の穴の前にいた。そして穴の中をじっくりと覗いて見た。
紫の鍾乳洞のようなもので覆われた空間の向こうに、いかにもメルヘンチックなお花畑や澄んだ夜空が広がっていた。
太陽の光というよりも、月明かりに照らされた世界だった。
私はこれが現実なのか夢なのか分からないまま、しばらく観察していたが、ふと気がつくと、その世界はパッと消え去り、ベッドの中ではっきりと目が覚めた。
「‥やっぱり夢?でも、どこからどこまで夢だったのか‥‥。」
私は、とりあえず次の日も、またその次の日もアメジストを枕元に置いて寝たが、もう二度とあの不思議な光景は見られなかった。
アメジストはとりあえず母に返した。
「どうだった?」
「‥うーん、紫色の世界の夢なら見たかな。」
「凄い!良いなぁ、私も見たかった。」
「‥あれ、お母さんも見たんじゃないの?」
「私はアメジストと相性がいいのか、これを枕元に置いて寝ると、疲れが取れてすぐに熟睡しちゃうの。だからまだ妖精の世界を見てないの。」
「‥‥すぐに寝ちゃうと見れないの?」
「妖精の世界に限らず、普段目に見えないような物を見たかったら、心を無にしてぼーっとするといいの。よくある3Dの絵本や写真を見る目でぼーっと見るの。そうするとよく見られるよ。
あとは、眠る前の半分意識があるような無いような状態の時も見られるんだけどね。」
「‥お母さん詳しいね。」
「フフ、一度でもそういう体験するとね、また体験してみたくなるの。」
母の話をやっぱり全て信じる訳ではないが、私は、何故か本屋で3Dの写真集を買っていた。
また不思議な世界を垣間見てみるのも悪くない気がしたからだ。
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