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第七十九夜 図々しい女
しおりを挟む妻が、二人目の子を出産した。名前は麗華と名付けた。
麗華の首が座るようになると、姉の香奈が小学校へ通っている時間帯を利用して、妻が赤ちゃんサークルとやらに通いだした。
「‥今日も赤ちゃんサークルへ行って来たのか?」
「うん。‥でもね、なんだかグループが既に出来てて、私と麗華だけ浮いてた。」
「‥まあ、はじめの内は仕方ないさ。」
妻は元々人見知りで、自分から他人に話しかけに行くのが苦手な性格だった。だから、妻が赤ちゃんサークルへ行くと言い出した時も、今も、どうせすぐにやめるだろうと思い、妻の話にも適当に相槌をうっていたのだった。
ところが意外にも、妻の赤ちゃんサークル通いは、半年程経った今も続いていた。
「‥今日の赤ちゃんサークル、どうだった?」
「うん、何かね新しい人が来てた。」
「そっかぁ、で、その人とは仲良くなれそう?」
「‥うーん、なんかね、沢山話しかけて来た。」
「良かったなぁ。」
「‥うーん、でね、車乗ってるか聞かれた。車に乗ってるって言ったら、何の車種に乗ってるか聞かれた。」
「‥まぁ、良くある話題だからな。」
「‥‥私は軽の小さい車だよって答えたの。」
「‥新車だけどな。」
「そうしたら、その人が、行きは歩きでサークルまで来たけど、帰りは車で帰りたいから、私の車に乗せてって言ってきたの。」
「‥図々しいな。っていうか、お前に話しかけた目的それだろ。」
「‥うん。そうだと思う。」
「‥乗せてないよな?」
「‥近くのスーパーに寄るかって聞かれた。」
「‥乗せてないよな。」
「‥その人ね、赤ちゃんと三歳児を連れてたの。だから、4人しか乗れないから無理だって断ったんだけど‥‥。」
「‥乗せたのか。」
「その人ね、サークルの帰りに私の車まで付いてきたの。でね、私の車を見て〝狭いけど我慢できるから大丈夫″って言って後部座席に乗ってきたの。でね、スーパーまでで良いから乗せてって言って、座席に座りこんじゃったの。」
「乗せたんだな!」
「うん。だってもう乗っちゃってたし。」
「そんな得体の知れん女乗せて、麗華に何かされたらどうするんだ!っていうか、知らない人を簡単に車に乗せるな!」
「はい、‥ごめんなさい。」
俺は妻をしっかりと叱ってやった。
妻は本当にお人好しなので、これまでにも、知らないおばさんに電車代を貸したり、知らない高校生を駅まで乗せてしまう事もあった。
俺としては、子供が二人もいるんだから、妻には、もう少ししっかりして欲しいと思っていたのだ。
だから俺はこの件で、妻にはしっかりと反省してもらい、少しはお人好し癖が治る事を期待した。
それから実は‥‥この件の話には、まだ続きがあった。
この図々しい女は、車がスーパーに着くと、自分の3歳の女の子をおんぶ紐でおんぶし、折りたたんだベビーカーを車から下ろし、赤ちゃんをそこに乗せると、そのまま動かずに車の側にずっと立っていたのだそうだ。
妻がその女の人親子を下ろして、車でその場を立ち去ろうとすると、少し怒った様子で立ち去ろうとするのを止めたそうだ。
そして‥
「あなた、買い物は?買い物するんでしょ!早く行きましょうよ!」
妻にそう言ってきたそうだ。
この時、流石の妻も『このままだと、この女の人の買い物にも付き合わされて、絶対に帰りも家まで車で送れって言われちゃう‥。』と警戒し始めたらしい。
「‥ごめんなさい!もう家に帰らないといけない時間だから!ここで、失礼しますね。」
妻はそう言って、その女の人親子から逃げるようにして、家に帰って来たという。
結局、その後妻は赤ちゃんサークルを辞めた。あの女の人親子を避ける為だった。
サークルを辞めたとはいえ、あれから妻は行きつけのスーパーで、その女の人親子をよく見かけたそうだ。勿論妻が見かける度に避けているせいか、その人に話しかけられる事は一切なかったそうだが‥‥。
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