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第九十六夜 見知らぬ家族
しおりを挟むある日突然、僕の家に見知らぬ家族が増えました。どうやら僕の兄のようなのですが、僕はどうしても兄の事を受け入れる事が出来ないでいました。
本当に僕に兄なんていたのか?
確かめたくて家族アルバムを開いて見てると、兄はちゃんとどの写真にも家族の一員としてうつっていました。
それに‥写真の兄と、今すぐそばにいる兄の姿があまりにも違うのだが、それも僕だけがおかしいのだろうか?
写真に写った兄は、ごく普通の男の人でしたが、今僕の側にいる兄は‥かなり人間らしくない姿形をしていました。
鼠色の体にブラックホールのような目、鼻のないのっぺりした顔、それに‥やたらと細長いスタイルをしていました。‥頭なんか天井についてしまいそうな状態でした。
それに、僕には機械音にしか聞こえない音も、他の家族にはきちんと人間の会話として認識されているようでした。
僕だけがおかしいんだ、僕の脳や目だけがおかしくなったのだとようやく分かりました。
それからは、僕は一生懸命に兄の事を受け入れようと努力しました。
「兄さん、これからコンビニに行くけど、何かいるものある?」
「キー、イー、」
‥だめだ、兄が何を言っているのか全く分からない‥。
僕は兄とコミュニケーションをうまくとれない事に悩んでいました。
すると、兄が僕の額に指を当てて何かを伝えようとしてきました。
兄の指を通して、僕の頭の中に兄の声というのか何らかの情報が入ってきました。
『私はM-205星からやってきた生命体です。私の本体は私の星にありますが、私は意識体として、この地球にしばらく滞在するつもりでここに来ました。‥私の星は、まもなく宇宙の意思により消滅します。‥‥その時私の本体も意識も全て消滅するのです。
その前に、あなたに会いに来ました。‥私の事を覚えてないですか?‥まあ、記憶を消されているようなので、仕方ありませんね。』
兄が僕の頭に直接話しかけてきた?内容に、僕は何と答えて良いのか分かりませんだしたが、何となく兄とは仲良くしてあげなきゃな‥と思いました。
兄と僕はテレパシーで語り合い、いつしか心も通い合うようになりました。
すると、心なしかのっぺりしていた兄の顔にも表情らしきものが見られるようになりました。
兄と些細な事で喧嘩をした際には、喜怒哀楽のあまりなかったはずの兄が、とても怒った様子を見る事ができましたし、かなしい映画を見ながら泣いている?様子も見られるようになりました。
僕にとっていつしか兄はかけがえのない存在になっていました。
そんなある日、兄が突然消えてしまいました。家族の誰も兄の存在なんて最初からなかったと言うのです。
家族アルバムからも兄の姿は消えていました。
兄は、どうやら自分の星へ帰ったようでした。僕に何も言わずに‥‥。
兄が突然いなくなったその晩、何となく見上げた夜空に、閃光が走って行くのが見えました。その瞬間、僕の目からは涙が溢れました。
何故かは分かりませんが、これまでに感じた事のない悲しみが、急に胸にこみ上げてきたのです。
その時ふと、兄が言っていた言葉が頭に蘇りました。
『私の事を覚えてないですか?』
‥‥この時、遠い昔の地球ではないどこか別の星の景色が一瞬僕の頭に蘇りました。
それは‥僕が遠い昔にいた故郷星、M-205星の景色でした。僕は故郷星で遠い昔に兄と一緒に過ごしていた事をやっと思いだしたのです。
兄は‥この地球に転生した僕の事を心配して、最後に僕に会いに来てくれたのでしょう。
閃光が消えて、静まりかえった地球の夜空を、僕はいつまでも眺めていたのでした。
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