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第九十七夜 着ぐるみの人
しおりを挟むお盆の帰省からの帰り道、俺はとあるサービスエリアに寄った。助手席には妻が寝ており、後部座席では小学二年生の娘、紗奈がゲームに集中していた。
「紗奈、トイレは大丈夫か?」
「あっお父さん、サービスエリアに着いたんだ。紗奈ね、何かお土産を買いたい。」
「よし、一緒に行こう。ソフトクリームも買おうな。」
「わーい‥あっ、お母さんは車に置いてくの?」
「‥うん。エンジンかけて、エサコン付けっぱなしにしとくから大丈夫。そのまま寝かせておこう。」
俺と紗奈は、妻を車に残してサービスエリアの中のお店に入った。
「お父さん、私可愛い人形やペンを見に行きたい!」
「‥分かった。お父さんと一緒に見に行こう。‥人が多いから、お父さんから離れるなよ。」
「はーい。」
お盆で混雑した店内を、俺は紗奈に付いてまわっていた。
ところが、一緒にレジの列に並んだところで紗奈が突然消えてしまった。
「‥紗奈、紗奈!」
俺は、慌てて紗奈を探した。ついさっきまで一緒にレジの列に並んでいたじゃないか!
一体どこへ行ったと言うんだ!
俺は気が狂いそうだった。大事な紗奈が、どこかで迷子になって泣いているかもしれない。
それとも、誰かに無理やり誘拐されて怖い思いをしているかもしれない。
俺は案内所で、迷子の放送を頼んで再び紗奈を探した。
あっ、もしかして!妻がいる車に戻ったのかもしれない。
俺は駐車場の車に戻ってきたが、車には妻が寝ているだけだった。
「おい、おい、可奈子!紗奈がいなくなったんだ、探してくれ!」
俺は妻を起こし、一緒に案内所へ向かった。
「‥先程迷子の放送を頼んだ者ですが‥娘の紗奈は‥。」
「‥まだ見つかってないです。‥もう一度放送をかけてみますね。」
そう言って案内係の人が放送をしようとしたところ、紗奈がやってきた。
着ぐるみの人に連れられて、案内所へと歩いて来たのだ。
「‥ごめん、お父さんにそっくりな後ろ姿の人がいたの。だから、間違えてついて行っちゃった。
でもね、私が困ってたら、このうさぎの着ぐるみが助けてくれたんだよ。迷子の放送で私が呼ばれてたのも、教えてくれたの。」
紗奈がそう言うと、着ぐるみの人はペコリと頭を下げて去って行こうとした。
「あっ、ちょっと待って下さい。何かお礼がした‥‥。」
俺が慌てて走って行って、着ぐるみの腕を掴んだ途端、着ぐるみがその場でクシャッと崩れて潰れた。
恐る恐る着ぐるみが崩れたところを覗きこみ、手を当ててみるが‥着ぐるみは空っぽで、中に人が入っていた形跡はなかった。
「あっ、着ぐるみの中にはね、由布子ちゃんと正樹君が入っていたんだよ。二人はね、この近くで変なおじさんに連れ去られて亡くなった子達なんだよ。
二人共亡くなってからは、私みたいに迷子の子や、知らない人に連れ去られそうな子を、こうして助けてあげてるんだって。優しいよねぇ。」
紗奈は、潰れた着ぐるみに向かってそう言った。
俺はとりあえず案内所の人に娘が見つかった報告をしてお礼を言い、再度の放送を断った。それから妻と紗奈のもとに戻った。
すると、先程まであった着ぐるみは消えていた。
妻と紗奈が少し目を離した隙に、着ぐるみはいなくなってしまったようだ。
もしかして着ぐるみは、また違う誰かを助けに行っているのかもしれない‥‥。
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