令和百物語

みるみる

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第九十八夜 キャンプ場

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夏休みに爺ちゃんが、僕をキャンプ場へ連れて行ってくれた。

キャンプ場の駐車場からすぐ横の長い階段を降りると、階段の真横には滝があった。

「爺ちゃん、すげ~。滝があるよ!」

「‥アハハ、マサルは滝を間近で見るのは初めてか?」

「うん!スーパー銭湯の打たせ湯しか見た事ないや。」

「アッハハ、そうか、そうか。」

階段を降りると川沿いの岩場の上に、屋根と柱だけの小さな建物があった。柱の下方には、丸太を二本ずつ横にわたして作った手すりがあった。

爺ちゃんは、靴を脱いでその建物の中に入ると、脱いだ上着を早速丸太の手すりにかけて座ってしまった。

「爺ちゃん、ここに泊まるの?テントは?」

「ここの座敷の天井に蚊帳を吊るせばテントになるから大丈夫だ。

‥ここはな、渓流キャンプ場なんだ。渓流釣りもできるんだぞ。この建物は、川の上に建ってるんだ。‥‥結構深いから、マサルは落ちないように気をつけろよ。」


「‥すげ~。って言うか、滝の音うるせー!」

「アッハハ。滝の音や川の音が煩いだろ、どうだ、大自然の中にいる感じがするだろう?」

爺ちゃんは僕以上にはしゃいでいた。爺ちゃんと僕は、川に石で囲いを作り、その中にスイカとビール、ジュース、枝豆や袋入りの肉を入れておいた。

その後、早速水着に着替えて川へ行った。爺ちゃんは、僕の紐付きの浮き輪をひいて川の中をひたすら歩いてくれた。浮き輪をひいて貰いながら見る山の景色は、とても迫力があった。

「爺ちゃん、超楽しい!めっちゃ山の中って感じ!」

「アッハハ、そうか。良かった。」

僕達は川で散々遊んだ後、お腹が減ったので、二人でカレーを作って食べた。カレーは野菜が固くて汁っぽかったが、何とか食べられた。

夜になり暗くなると、爺ちゃんがランタンと蚊帳を天井に吊るしてくれたので、僕達はその中で寝た。

グーグー、

ザザザザザ、ザザザザザ、

グーグー、

ザザザザザ、ザザザザザ‥‥

「‥‥‥あー!眠れない!爺ちゃんのいびきうるせー‥。滝の音も煩すぎ‥。」

僕は全く眠れずに困っていた。おまけにおしっこまでしたくなってきた。

僕は、ランタンを持って建物の下で用を足した。そして建物に戻ると、爺ちゃんはイビキをかくのをやめて、静かに眠っていた。

僕は爺ちゃんのイビキがないせいか、すぐに眠ってしまった。


翌朝僕が目を覚ますと、何故か爺ちゃんが荷物の片付けをしていた。


「‥爺ちゃん?あと一泊するんじゃないの?」

「‥済まん、マサル。早く帰ろう。」

「‥まぁ、昨日散々楽しんだから良いけど‥。何かあったの?」  

「‥‥。」

爺ちゃんは、黙ったまま片付けを続けて、何があったかは教えてくれなかった。

キャンプ場からの帰り道、車の中で爺ちゃんはようやく何があったかを教えてくれた。


「マサル、‥夜中にお前がおらんくなったから、爺ちゃんお前を探しに行ったんだよ。そうしたら、お前が暗がりの中を灯りも持たないで、階段を登って行くじゃないか‥。

爺ちゃん、お前を追いかけて、手探りで山の階段を登ってたんだよ。‥そうしたら、お前が今度は滝の真上に立ってるじゃないか‥。爺ちゃん、慌ててお前を連れ戻しに行ったんだよ。

お前の腕を掴んで、引き寄せた途端‥‥お前が知らない男の顔で笑って、爺ちゃんを‥滝の真上に引っ張って行って、突き落とそうとしたんだ‥。

その時‥滝の下を覗いてみたら、無数の白い手が爺ちゃんに向かって、『おいで、おいで』をしていたんだ。‥‥爺ちゃん、下に吸い込まれそうになるのを必死で堪えて、階段じゃない方の、遠くの砂利道を必死で走って、元居た建物へ戻ってきたんだ。

‥‥そうしたら、お前は建物内でちゃっかり寝てるじゃないか‥。‥‥結局爺ちゃんは、それから朝まで怖くて寝られんかったんだ‥‥。」


えっ‥‥

「僕‥夜中に階段なんか登ってないよ。それに‥‥僕が建物の下で用を足したあと、爺ちゃん蚊帳の中で静かに寝てたよ。」


「‥それは爺ちゃんじゃねぇぞ。」


「‥‥。」


じゃあ、僕が爺ちゃんだと思っていたのは、一体誰だったんだろう?


爺ちゃんも僕も、その日からもう二度とキャンプに行こうとは思わなくなった。

それに‥夜の山にはなるべく近づかないようにしようと思ったのだった。
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