ごんぎつねが悪役令嬢に転生して、兵十の生まれ変わりの王子様にお詫びをし続けるお話

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全てを思い出した日

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私はフォックス公爵家次女のルナールと申します。

今日は我が婚約者のゲーテ王子が狩猟に行かれた為、私は他のご婦人やご令嬢達と共に男性達の帰りを待っていました。

遠くからたくさんの馬の蹄の音が聞こえてきます。どうやら王子達も帰って来たようです。

「ルナール見てごらん、狐だよ。僕が捕まえたんだ。」

そう言って、ゲーテ王子が狩猟で捕らえた狐を片手で持ち上げたのを見た瞬間、私は前世を思い出してしまいました。

頭の中に前世の記憶が凄まじい勢いで流れこんできました。



前世、私はごんという名の狐でした。家族もおらず、ひとりぼっちで寂しい毎日を送っていたのです。

毎日村人にいたずらをしては叱られていた、嫌われ狐でした。

ある日私は川で兵十を見かけ、兵十の魚籠にいた鰻を、いたずら心を起こして川へ逃してしまいました。

その後兵十のお母さんは亡くなってしまい、兵十はひとりぼっちになってしまったのです。

兵十のお母さんは、死ぬ前に鰻を食べたかったのに、私のいたずらのせいで食べられずに亡くなってしまったのです。

兵十のお母さんは、あの時の鰻を食べて精力をつけていれば命が助かったのでしょうか。

悔やんでも悔やみきれぬ思いと、償っても償いきれぬ罪を背負って、私は兵十の生まれ変わりであるゲーテ王子を追ってこの世界へ転生してしまったようです。



「ああ、王子は兵十でしたか‥‥。私はあなたの幸せを奪ってしまった狐のごんです。ごめんなさい。どうすれば‥この罪は償いきれるのでしょう‥‥。」

「ルナール!?どうしたんだ、誰か医師を呼んでくれ!」   

私はゲーテ王子の腕に抱かれたまま、意識を失ってしまいました。



気が付けば、私は自室のベッドで寝ておりました。目を開くと、心配そうに私を見下ろすお父様とお母様、お姉様の顔がありました。

「ご心配をおかけしました。捕らえられた狐にびっくりして、つい気絶をしてしまったようです。すみません。」

「ルナール、まだ無理はせず寝ていなさい。日頃から頑張り屋のお前の事だ。きっと知らないうちに疲れを溜めていたのだろう。」

そう言って、お父様は私の頭を優しく撫でてくれました。お母様とお姉様も私の背中を優しく撫でてくれました。

私が再びベッドに横になり目を閉じるのを見届けると、お父様達はそっと静かに部屋を出ていかれました。

家族とはなんと温かくて心地よいものなんでしょう。

私は前世、ひとりぼっちだった記憶が蘇った事もあり、そのありがたみが身に染みました。

ああ、なのに私は前世で、あなたのたった一人の家族であったお母様を、死なせてしまったのですね。

この罪の意識から、私は一体いつ解放されるのでしょう。

あなたは今幸せですか、ゲーテ様。





「ゲーテ様、ぼーっとされてどうしましたか?」

「ああ、すまない。リリー、ちょっと考え事をしていたんだ。」

ゲーテ王子はリリー・プランタン侯爵令嬢や公爵子息のバラード、侯爵子息のラッセンとお茶会をしていました。

昔はこのメンバーにルナール公爵令嬢も加えた五人でよく遊んでいたのです。つまり、幼馴染みでした。

「ルナールはまだ体調悪いのか。どうせ仮病だろ、あいつって悪知恵働く奴だから、王妃教育が嫌でさぼってるんじゃないのか?」

バラードは、昔からルナールの事を勝手にライバル視しており、よく突っかかっていました。

「まぁ、バラード様は昔からルナール様に対して厳しいのですね。ルナール様の事は私も心配ですわ。」

リリーは、いかにも心配そうな顔でそう言いました。

「リリーは、優しいからな。何せ聖女様だものな。」

そう得意気に言うのはラッセン。昔からリリーを慕っており、ルナールには冷たい態度をとっていました。

「殿下はルナールの事は実際どう思ってるのですか?」

バラードは王子に素直な疑問をぶつけてみました。

「いや、そんなに皆んなが言うほど悪い印象は持っていない。それよりも、皆んなが何故そんなにルナールを嫌うのか不思議なくらいだ。」

ゲーテ王子がそういうと、リリーは王子の手にその手を添えて、首を傾げながら言いました。

「ゲーテ様は、お優しいから。ええ、分かっております。ルナール様はゲーテ様の婚約者ですものね。ゲーテ様もきっと無碍にできないのでしょう。」 

「ルナールは昔からツンケンしていて、ガリ勉で愛想もないから、若い貴族達の中でも相当嫌われてるぞ。それにルナールの父上のフォックス公爵もやり手とは言え冷たくて融通も効かない堅物だ、と言われてまわりの貴族達に嫌われている。今からでもルナールとは婚約破棄をすべきだ。未来の王妃として相応しくない。

それに比べてリリーは慈愛に満ちた聖女様だものな、ルナールとは本当に正反対だ。」

ラッセンは、相変わらずルナールを貶めては、リリーを褒めています。

当のゲーテ王子は、何故こんなにもルナールが自分以外の貴族達に嫌われているのかが分かりませんでした。

そもそも、ルナールとの婚約は自分の父である王様が決めた事で、特に疑問も感じてなかったのです。

ルナールの母はゲーテ王子から見れば叔母上だし、血統的にも申し分ないですし、ルナール自身もそんなにも人格的に問題があるようには思えませんでした。

ただ、好きかどうかと言われると即答はできません。優しくて可愛らしいリリーに好意を抱いていたのは事実です。

ゲーテ王子は、願わくばリリーと婚約をしたかったのです。
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