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ランクス様
しおりを挟む私は前世の記憶が戻った衝撃の日から、約一週間ほど家に引きこもっていました。そしてその間にゆっくりと頭の中の整理をしていました。
私のもとへ心配してお見舞いに来てくれたのは、隣国のランクス王子ただ一人のみでした。ちなみにランクス王子とは、遠縁の親戚なのです。
「ルナール、ゲーテ王子は君のお見舞いには来たのかい?」
「‥いいえ。」
「あんまり言いたくないが、あいつらとはもう付き合わない方が良い。バラードは君をライバル視してるし、ラッセンは君を貶めてばかりいるじゃないか。それにリリー、彼女はしたたかだ。
ゲーテ王子だって頼りなさ過ぎる。君の婚約者だと言うのに、いつもあの三人とつるんでばかりじゃないか。」
「ええ、そうですね。」
ランクス様の言う通りです。あの三人の事は、私だって苦手でした。
そもそも、私が昔から五人で遊んでいたのは、婚約者のゲーテ王子と一緒に過ごすよう親に言われていたから、ただそれだけの理由なのです。
ゲーテ王子と一緒に過ごしたいと思っていても、ゲーテ王子とあの三人はいつも一緒だったので仕方がなく五人で遊んでいたのです。
まぁ向こうからしたら、私の方こそ邪魔者だったのでしょうけど‥‥。
それに、なぜゲーテ王子が婚約者である私と二人でいる事よりも、あの三人と一緒にいる事を選ぶのか、私はその理由を知っていました。
「‥‥。」
黙ったままの私に、ランクス様は話を続けます。
「君がこの国でなぜ悪役令嬢と呼ばれているのか、僕には理解できないよ。君はこんなにも人畜無害な令嬢なのに。
察するに、あの三人が君の悪口を広めているに違いない。」
ええ、私もそう思います。私は心の中で同意しました。
「君は、相変わらずこの国の結界を人知れず一人で守っているのかい?」
「はい。これは私の償いでもあるのです。」
「君が一体何をしたというのだ!君は罪など犯してはいないだろう?」
ランクス様は知らないのです。私が前世でどれほどの罪を犯したのかを‥‥。
「君のその結界は素晴らしいよ。実に見事にこの国を守り抜いている。魔物や敵国の間者も入れぬ程にね。だが、その功績は誰の物になっている?リリーの手柄とされてしまってるではないか!」
「私はそれでも良いのです。何も求めてはならないのです。」
ランクス様はとうとう頭を抱えて黙ってしまいました。私の言葉に呆れてしまったのでしょう。
「ルナール‥‥君を我が国へ連れて行ってあげたいよ。君を幸せにできるのは僕だけだ。」
ランクス様‥‥私もあなたをお慕いしております。でも‥‥
「ランクス様。私は前世で、重い罪を犯してしまいました。だから、どんなに嫌われても、功績を他の方に奪われてしまっても、私はこの国を守り続けます。‥‥私はゲーテ王子にお詫びをし続けなければならないのです。」
「ルナール‥何があったと言うのだ。‥‥いつか僕に話してくれるね、君の罪とやらを。そして、君の気がはれたら‥その時こそ僕から君に求婚しよう。」
ランクス様は、そう言って私の手の甲に口付けをして去って行かれました。
いつか‥許されるなら、ゲーテ王子が心から幸せになれる日が来たら、全てをランクス様に告白して、私も幸せになっても良いのでしょうか。
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