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15、占い師とリナ
しおりを挟むナターシャ姫がお店から出ると、占い師は金貨5枚を手にしてほくそ笑んでいました。
「フフフ、馬鹿な女だよ。見知らぬ亡霊のいい加減なアドバイスを真に受けて、こんなにも大金を落としていくんだから。」
その時、ナターシャ姫の遠吠えをする声が占い師の耳にも届きました。
「アッハハ、完全に騙されとるわ!あの馬鹿女。」
「‥‥‥あの~、次いいですか?」
オホン、
「はい。どうぞお入り下さい。」
占い師は笑いを堪えて、次のお客様を占い部屋へ招き入れました。
ショールを被った若い女を挟んで、両側におじさんが二人腰掛けました。
「‥‥あんた達、お忍びで来たお嬢様とその護衛達といったところかい?」
占い師は三人が一見すると上客に見えたので、そう言ってニヤリとしました。
「‥‥えっお嬢様と護衛?‥私達は普通の親子とその付き添いですが‥。」
「‥へぇ、そうかい。ふ~ん‥。」
占い師はさっきのお客の様に、このお客達も上客だと思ったのでしょう。もしそうなら、法外な値段を設定して大儲けするつもりだったのです。
‥特に女の子は、一瞬高貴な雰囲気を漂わせてましたが、よく見れば粗末なワンピースを着ていました。占い師は当てが外れてがっかりしました。
「‥‥はぁ、‥で何を占いたいんだい?」
占い師がヤル気なさげにそう言うと、リナが被っていたショールを頭からとり、占い師の方を見上げました。
「‥特に悩みはありませんが、結婚運を見て下さい。」
「‥‥あんた、さっきの‥。」
占い師がリナの顔を指差して、まるでお化けでも見たかのように、驚いた顔を見せました。
つい先程リナの双子の妹であるナターシャを占ったばかりなのに、また同じ顔をしたリナが続けてやってきたのですから、驚くのも無理はありません。
リナがキョトンとしていると、占い師は頭を横に振り、ようやくリナの方に向き合いました。
「‥まあ、世の中には他人の空似、と言う言葉もあるからな。気にしないでおこう。‥‥で、そちらのお嬢さんの結婚運を見ればいいんだね。」
占い師はだるそうに呪文を唱えると、口の中から白いモヤモヤした物を出し始めました。
白いモヤモヤは、しばらくすると人型になって話し始めました。
「‥あんた、同じ年頃の女の子の友達いないだろ!両側におじさん連れてるって事は、同じ年頃の異性とも話した事ないんじゃ無いのか?まぁ結婚したくても、相手なんか見つからないだろうな。なんなら俺が付き合ってやっても良いんだぞ。アハハハ‥。」
白いモヤモヤは、リナにそれだけ言うと、さっさと店から出て行ってしまいました。
「‥じゃあ、終わりだよ。代金は銅銭5枚ね。」
「‥‥‥。」
ラナン達は、二人分の夕食代に相当する銅銭5枚を占い師に渡して、お店から出ました。
「‥さっきの占い師、どうでしたか?」
ルーカスは、恐る恐るカルバンにきいてみました。
「‥あのインチキ占い師!亡霊の魂を呼んでおきながら、きちんと返って貰う事をしていないようだ。‥どうりで街中に亡霊達がウヨウヨしているわけだ!」
そうやって怒るラナンの隣では、リナもやはり怒り心頭に発したようで、占い師に対する文句を声を荒げて言うのでした。
「何あれ、占いでもなんでもないじゃない。ただ亡霊呼んだだけじゃない!それに、あんないい加減な亡霊の言う事なんか信じないわ!」
二人のとても怒ってる様子を見たルーカスは、とても済まなさそうに言いました。
「‥あの占いのお店には、近いうちに行政指導を行いたいと思います。本当にお二人には、不快な思いをさせてすみません。‥でも街の人には本当に評判が良かったのですよ。」
「‥人気が出て、お金を沢山貰うようになったからでしょうね。‥段々と占いが雑になり、いつしかお客様の事よりも、金儲けの事ばかり考えるようになってしまったのでしょう。そんな心で亡霊を召喚しても、悪霊しか呼べません。
‥‥このまま占い師が亡霊を召喚し続ければ、そのうち街の治安も悪くなりますよ。亡霊達は、生きてる人間を唆して悪さをするのが大好きですからね。」
ラナンとルーカスが先程の占い師の話で盛り上がっている時、リナは背後に誰かの気配を感じました。
「‥おい、こっち向けよ。」
リナが声のする方を向くと、先程の占いの家で現れた白いモヤモヤの亡霊がいました。‥どうやら付いてきてしまったようです。
「お前、前にいる二人とは赤の他人なんだろ?」
「‥‥。」
リナは亡霊の話には耳を傾けないようにしました。
「‥チッ無視かよ。‥お前さぁ、ひとりぼっちなんだろ。俺がついててやろうか。ずっと離れずにお前と一緒にいてやるぜ。それに‥なんでも願いを叶えてやるぜ。」
えっ、あんたごときがどうやって私の願いを叶えるって言うの?
リナは思わず心の中で、亡霊に話しかけてしまいました。
「アハハハ、どうやって叶えるかって?例えば‥‥今お前に好きな奴がいるなら、お前の事を好きになるようにしてやるし、嫌いな奴がいるなら、殺してやるよ。」
‥‥最低。
「最低だって?酷いな。これでも街の皆んなは、喜んで俺の話を聞くぜ。俺の言う通りにして、大金を手に入れた奴だっているし。」
「‥‥。」
「‥なぁ、無視するなよ。俺は無視されるのが大っ嫌いなんだ。‥‥お前がそんな態度なら、俺はお前の体だって乗っ取れるんだぞ!」
亡霊はそう言って、リナに襲いかかってきました。
リナは咄嗟に目を閉じて、胸の前で手を組み必死に祈りました。
神様、助けてー!
「‥‥‥。」
「‥‥‥あれ?」
リナはてっきり亡霊が体にぶつかってきたり何かするのかと思っていたのに、自分の身に何事も起きていないので、不思議に思いながらも恐る恐る閉じた目を開けてみました。
目の前ではラナンが驚いた顔をして、リナの事を見ていました。
「リナ‥その光‥。」
「‥光って何の事?」
「ほら、リナの胸元から光が溢れてきてるじゃないか。」
リナはラナンに言われてから、自分の胸元を見て驚きました。ちょうど十字架の痣のある辺りから大量の光が溢れていたのです。
「‥例の十字架の痣の‥加護の力が働いたんでしょうか。」
「‥ああ、凄いパワーだね。‥おかげで、さっきまでピッタリくっついて来てた亡霊が、消えてしまったようだ。」
「あの亡霊‥‥私の体を乗っ取ろうとしたのよ。怖かった‥。」
リナがそう言って泣きそうな顔をすると、ラナンはリナの頭を撫でて褒めてくれました。
「‥リナは偉いよ。あの亡霊の戯言を無視して、聖なる加護の光を発動させて消してしまうんだから。」
「‥本当に体を亡霊に乗っ取られるかと思って、必死に祈っていたのよ。」
リナはこの時ふと、夢の中で養父が最後に何と言っていたのかが、分かった気がしました。
夢の中で、養父が最後に言った言葉は‥
『君に生前授ける事の出来なかった加護を与えよう。‥‥加護の聖なる力は「祈り」で発動するよ。』
つまり、「祈り」で聖なる加護の力が発動する、と養父は私に言いたかったのだと思います。
リナは、養父にあらためて感謝の祈りを捧げたのでした。
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