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第2章
第2章 6
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日をまたいでクレア先輩との試合当日。試合前の選手控え室は、ピリピリと緊張した空気が流れていた。
「今日までオーダーを隠していたのは謝る。どうか、俺に力を貸して欲しい」
俺の一言に、三人が目を丸くする。パーティーごとに予選トーナメントのオーダーは配られていたのだが、俺は、三人にそれを見せず、隠していたのだ。三人が試合の前にやる気を失うことがないようにという考えでやったことだったのだが、それが逆効果であることは、目の前にいる三人の雰囲気を見れば簡単に予想できることだった。
「疑問です。隠していたから何なのですか?私達はパーティー、仲間です。少し、悲しいとは思いましたが、それぐらいで逃げ出すのなら、昨日みたいなハードスケジュールな一日を一緒に過ごしてないですよ」
「っ!!」
リアの言葉が、深く心に刺さった。そして、他の二人も頷いてくれたことに、思わず、熱い物がこみ上げそうになる。リアが言ったとおり、昨日はかなりのハードスケジュールだった。あのあともう一度闘技場に行き、全員が俺に一撃を与えられるまで一対一での試合を続けるという地獄の様な鍛練を行い、三人の能力の底上げをしたのだ。確かに、普通なら途中で投げ出すような事を三人はやり遂げてくれた。
「ありがとう」
思わずその言葉が口から零れた。別に恥ずかしいことではないはずのに、顔がカッと熱くなり、三人から顔を背けてしまう。三人は、そんな俺を見て声を上げて笑った。
「レイが本気でありがとうって言ったぞ!あのレイが、本気で!」
「ボクも初めてだよ。レイが本気で人にお礼するの見たの!いやーまさかお礼をするだけであんなに恥ずかしがるとは思ってなかったけどね!」
「同感です。まさか、こんな所に弱点があったとは驚きです」
別にいつも本気でお礼していないわけでもないのに、ひどい言いがかりだな。とは反論できない。確かに周りから見たら気持ちがこもってないようにとれるような言い方だった気がしなくもない。
「……まぁ、そもそも怒ってないし、オーダー表のことは知ってたよ。というか、拡大コピーされて張り出されてたから今日の試合で当たることは知ってるよ。多分、君以外の全校生徒が」
「え?」
ルカの一言で、時が止まったような感覚に陥る。オーダーヒョウノコトハシッテタ?ゼンコウセイトガシッテル?
「まじで?」
「まじで」
「まじか……」
自分の努力がいかに無駄だったか痛感する。やはり誰に対してどうやっても隠し事はうまくできない。俺の顔を見て、ルカが「普通にみんな緊張してただけだよ」と付け足した。
「………………」
「………………」
「…………それじゃあ、緊張も解けたようだし、今日の作戦会議だ」
誤魔化せるとは思っていないが、出来るだけ誤魔化そうと努力はする。……後ろで「誤魔化しましたね」という声が聞こえたのは気のせいだ。
「今日のランク戦の試合は、知っての通りクレア先輩達との試合になる。こちらからしてみればかなりの格上が相手のように見えるが、勝機は、ある」
言っているこちらの方が緊張で身体が強張る。その身体をほぐすように息をしてもう一度口を開く。
「今回は二人一組で戦う。ただし、相手には俺が一人だけでクレア先輩と、残りの三人が他の奴らと戦う構図になるようにだ。……そして、今回の作戦で一番重要なことが二つ。必ず二対一になるように戦え。そして、リアと俺以外は姿を見せるな」
リアが手を挙げる。俺が頷くと、それを確認し、当然の疑問を口にする。
「質問です。何故、レイと私なのですか?ここは、前衛向きのスルトさんの方が良いのでは?」
「確かに、スルトが前衛でリアとルカが後ろから叩いた方が良いかもしれない。だが、今回は違う。……正直、前衛として、今のままではスルトは力不足だ。多分二人目を倒しきる頃にはかなりの被弾をしている可能性がある。それなら、リアを前に置いて中距離戦を中心に叩く。それから──」
リアの質問に答え、そのまま作戦の細かい説明をし終えた頃には試合開始の放送がなっていた。
『今日最期の試合です!ついに我が学園の誇る【氷妃】が、登場します!果たしてどんな美しい戦いを見せてくれるのか!?それでは両選手の入場です!!』
勿論、スミスである俺たちに紹介文はない。だが、それでいい。
この戦いに勝つための一歩目を俺は踏み出した。
「今日までオーダーを隠していたのは謝る。どうか、俺に力を貸して欲しい」
俺の一言に、三人が目を丸くする。パーティーごとに予選トーナメントのオーダーは配られていたのだが、俺は、三人にそれを見せず、隠していたのだ。三人が試合の前にやる気を失うことがないようにという考えでやったことだったのだが、それが逆効果であることは、目の前にいる三人の雰囲気を見れば簡単に予想できることだった。
「疑問です。隠していたから何なのですか?私達はパーティー、仲間です。少し、悲しいとは思いましたが、それぐらいで逃げ出すのなら、昨日みたいなハードスケジュールな一日を一緒に過ごしてないですよ」
「っ!!」
リアの言葉が、深く心に刺さった。そして、他の二人も頷いてくれたことに、思わず、熱い物がこみ上げそうになる。リアが言ったとおり、昨日はかなりのハードスケジュールだった。あのあともう一度闘技場に行き、全員が俺に一撃を与えられるまで一対一での試合を続けるという地獄の様な鍛練を行い、三人の能力の底上げをしたのだ。確かに、普通なら途中で投げ出すような事を三人はやり遂げてくれた。
「ありがとう」
思わずその言葉が口から零れた。別に恥ずかしいことではないはずのに、顔がカッと熱くなり、三人から顔を背けてしまう。三人は、そんな俺を見て声を上げて笑った。
「レイが本気でありがとうって言ったぞ!あのレイが、本気で!」
「ボクも初めてだよ。レイが本気で人にお礼するの見たの!いやーまさかお礼をするだけであんなに恥ずかしがるとは思ってなかったけどね!」
「同感です。まさか、こんな所に弱点があったとは驚きです」
別にいつも本気でお礼していないわけでもないのに、ひどい言いがかりだな。とは反論できない。確かに周りから見たら気持ちがこもってないようにとれるような言い方だった気がしなくもない。
「……まぁ、そもそも怒ってないし、オーダー表のことは知ってたよ。というか、拡大コピーされて張り出されてたから今日の試合で当たることは知ってるよ。多分、君以外の全校生徒が」
「え?」
ルカの一言で、時が止まったような感覚に陥る。オーダーヒョウノコトハシッテタ?ゼンコウセイトガシッテル?
「まじで?」
「まじで」
「まじか……」
自分の努力がいかに無駄だったか痛感する。やはり誰に対してどうやっても隠し事はうまくできない。俺の顔を見て、ルカが「普通にみんな緊張してただけだよ」と付け足した。
「………………」
「………………」
「…………それじゃあ、緊張も解けたようだし、今日の作戦会議だ」
誤魔化せるとは思っていないが、出来るだけ誤魔化そうと努力はする。……後ろで「誤魔化しましたね」という声が聞こえたのは気のせいだ。
「今日のランク戦の試合は、知っての通りクレア先輩達との試合になる。こちらからしてみればかなりの格上が相手のように見えるが、勝機は、ある」
言っているこちらの方が緊張で身体が強張る。その身体をほぐすように息をしてもう一度口を開く。
「今回は二人一組で戦う。ただし、相手には俺が一人だけでクレア先輩と、残りの三人が他の奴らと戦う構図になるようにだ。……そして、今回の作戦で一番重要なことが二つ。必ず二対一になるように戦え。そして、リアと俺以外は姿を見せるな」
リアが手を挙げる。俺が頷くと、それを確認し、当然の疑問を口にする。
「質問です。何故、レイと私なのですか?ここは、前衛向きのスルトさんの方が良いのでは?」
「確かに、スルトが前衛でリアとルカが後ろから叩いた方が良いかもしれない。だが、今回は違う。……正直、前衛として、今のままではスルトは力不足だ。多分二人目を倒しきる頃にはかなりの被弾をしている可能性がある。それなら、リアを前に置いて中距離戦を中心に叩く。それから──」
リアの質問に答え、そのまま作戦の細かい説明をし終えた頃には試合開始の放送がなっていた。
『今日最期の試合です!ついに我が学園の誇る【氷妃】が、登場します!果たしてどんな美しい戦いを見せてくれるのか!?それでは両選手の入場です!!』
勿論、スミスである俺たちに紹介文はない。だが、それでいい。
この戦いに勝つための一歩目を俺は踏み出した。
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