17 / 22
第2章
第2章 7
しおりを挟む
俺は、目の前にそびえるビル群に目を細める。
空間投影型闘技場第6ステージ、大型都市。10まである闘技場のステージの中で最大の大きさを誇り、唯一現代的な建造物のあるステージとなっている。その直径は3キロあり、今回のランク戦では、全員がランダムにこのステージの中に配置されるようになっている。そのため、生徒にはインカムが配られ、そのインカムでやりとりが出来るようになっている。
だがそんなことよりも、今は一昨日の夜クレア先輩にひどいことを言ってしまったことが気にかかる。いざ当日になり、思考がクリアになってみると、あの時クレア先輩が挑発してきたとはいえ、それ以外には特に何もされていないことに気付いてしまい、朝から若干気が重い。あんな言葉を放ってしまった俺が悪いのだが、だとしてもクレア先輩が気に病んでいないか心配な面がある。
「だが今は、そんなことをいってられないな」
口に出して、気持ちを整理する。この試合に勝たなければ、ティナと同じように戦場に出ることはできない。個人的な恨みがないことに気付いたにせよ、クレア先輩のことを倒さなければいけないことに変わりはない。
『今回の試合は特別に、解説にクヴィナ理事長先生に来てもらいました!理事長先生から見て、どんな試合展開になると思われますか?』
実況のアナウンスが入り、その声の後ろから、会場の熱気が伝わってくる。
『どうだろうな?そんなことはどうでも良いことだ。さっさと始めてくれ』
実況の生徒の問いにクヴィナはぶっきらぼうに答える。生徒は、「あはは、そうですか」と、苦笑いを浮かべ、試合開始を宣言する。
『さぁここからは真剣勝負!実況の音声も聞こえなくなる。集中して、思う存分戦ってくれ!…………3、2、1スタート!!』
「こちらレイ。聞こえてるか、リア」
インカムを叩き呼びかける。
『大丈夫です。聞こえています』
すぐに返事が返ってくる。コレが出来なきゃ話にならない。特に今回の作戦では。
「今回は俺とリアが主軸だ。気を引き締めていくぞ。作戦開始だ!」
そう言った瞬間、視線の先、かなり遠方に見えるビルの屋上で、何かが光った。
「ッ!」
瞬時に抜刀し、そのまま切り上げる。心臓の前辺りで、金属と金属が当たるような音が鳴り、後方のアスファルトが爆発する。それと同時に、今度は頭上から周囲を囲むように短機関銃の銃弾が着弾。落下の勢いで威力の増した蹴りが飛んでくる。
「銃やら仕込み武器なんか使ってたら自慢のスピードが鈍るんじゃないですか?クレア先輩」
刀で靴のかかとから飛び出た刃を受けながら笑ってみせる。
「貴方こそ、これほど簡単な作戦にかかるなんて刀を多く持ちすぎて動けないのではなくて?レイ君」
飛び退きながら、クレア先輩も同じように笑う。
数瞬の後、同時に静から動に切り替わる。10メートルほどあったクレア先輩との距離は一瞬でなくなり、剣戟の応酬が始まる。
一撃、二撃、三撃。打ち合う数が増すほどに思う。この人は、正真正銘今まで戦ってきた相手で一、二を争うほどに強い。両手持ち一刀で刀を振るう俺に対して片手持ちの細剣一本でその勢いを殺し、すぐさまカウンターを入れてくる辺り流石と言えるだろう。
だが──。
「まだ剣術では負けてない!」
細剣を弾き、決定的なチャンスが出来る。
「でも、まだ剣術だけしか勝てていないでしょう」
この状況でクレア先輩は、そう言って笑った。
身体中に悪寒が走る。咄嗟に横に跳ぶが、もう遅かった。機関拳銃が左の脇腹に風穴を幾つか空けていった。
もう一度距離をとり、崩れた体勢と呼吸のリズムを整える。
『撃破報告です。パラディンの先輩を一人、倒しました。二人目も発見済み。そちらの位置もわかる場所にいます。首尾はどうですか?』
「あー、こっちは結構厳しいな。リアの方も覚悟しておいてくれ」
一つ目の合図を送る。気付かれないように、慎重に。「了解です。ではまた」と言って、リアとの通信が切れる。
「よくそんな傷を庇いながら平然と話せますわね」
クレア先輩が少し引いたようにそう言った。
「コレも一つの戦いである以上、味方にも敵にも自分が弱っていることがわかれば戦況が傾きますからね」
実際は合図としてあの言葉を言っているのでリアは俺の傷の状況も知っているのだが。
「……本当に、それだけですの?」
「さぁ。どうでしょうか?俺が勝ったら教えてあげますよ」
はぐらかしながら、しかし否定は出来ずにそう返す。
「もう一度、今度はコレで行きます」
もう一本。今度は西洋剣を抜き、二刀を構え、追求される前に強引に話を変える。
「二刀流、ですか貴方の得意分野は一刀流ではなくて?」
「生憎、出血のせいで時間がないので、それに関してもノーコメントでお願いします」
どうせ剣を交えているうちに分かることだ。言わなくても良い。
そしてまた、同時に相手に向かって駆け出す。第2ラウンドの開始だ。
空間投影型闘技場第6ステージ、大型都市。10まである闘技場のステージの中で最大の大きさを誇り、唯一現代的な建造物のあるステージとなっている。その直径は3キロあり、今回のランク戦では、全員がランダムにこのステージの中に配置されるようになっている。そのため、生徒にはインカムが配られ、そのインカムでやりとりが出来るようになっている。
だがそんなことよりも、今は一昨日の夜クレア先輩にひどいことを言ってしまったことが気にかかる。いざ当日になり、思考がクリアになってみると、あの時クレア先輩が挑発してきたとはいえ、それ以外には特に何もされていないことに気付いてしまい、朝から若干気が重い。あんな言葉を放ってしまった俺が悪いのだが、だとしてもクレア先輩が気に病んでいないか心配な面がある。
「だが今は、そんなことをいってられないな」
口に出して、気持ちを整理する。この試合に勝たなければ、ティナと同じように戦場に出ることはできない。個人的な恨みがないことに気付いたにせよ、クレア先輩のことを倒さなければいけないことに変わりはない。
『今回の試合は特別に、解説にクヴィナ理事長先生に来てもらいました!理事長先生から見て、どんな試合展開になると思われますか?』
実況のアナウンスが入り、その声の後ろから、会場の熱気が伝わってくる。
『どうだろうな?そんなことはどうでも良いことだ。さっさと始めてくれ』
実況の生徒の問いにクヴィナはぶっきらぼうに答える。生徒は、「あはは、そうですか」と、苦笑いを浮かべ、試合開始を宣言する。
『さぁここからは真剣勝負!実況の音声も聞こえなくなる。集中して、思う存分戦ってくれ!…………3、2、1スタート!!』
「こちらレイ。聞こえてるか、リア」
インカムを叩き呼びかける。
『大丈夫です。聞こえています』
すぐに返事が返ってくる。コレが出来なきゃ話にならない。特に今回の作戦では。
「今回は俺とリアが主軸だ。気を引き締めていくぞ。作戦開始だ!」
そう言った瞬間、視線の先、かなり遠方に見えるビルの屋上で、何かが光った。
「ッ!」
瞬時に抜刀し、そのまま切り上げる。心臓の前辺りで、金属と金属が当たるような音が鳴り、後方のアスファルトが爆発する。それと同時に、今度は頭上から周囲を囲むように短機関銃の銃弾が着弾。落下の勢いで威力の増した蹴りが飛んでくる。
「銃やら仕込み武器なんか使ってたら自慢のスピードが鈍るんじゃないですか?クレア先輩」
刀で靴のかかとから飛び出た刃を受けながら笑ってみせる。
「貴方こそ、これほど簡単な作戦にかかるなんて刀を多く持ちすぎて動けないのではなくて?レイ君」
飛び退きながら、クレア先輩も同じように笑う。
数瞬の後、同時に静から動に切り替わる。10メートルほどあったクレア先輩との距離は一瞬でなくなり、剣戟の応酬が始まる。
一撃、二撃、三撃。打ち合う数が増すほどに思う。この人は、正真正銘今まで戦ってきた相手で一、二を争うほどに強い。両手持ち一刀で刀を振るう俺に対して片手持ちの細剣一本でその勢いを殺し、すぐさまカウンターを入れてくる辺り流石と言えるだろう。
だが──。
「まだ剣術では負けてない!」
細剣を弾き、決定的なチャンスが出来る。
「でも、まだ剣術だけしか勝てていないでしょう」
この状況でクレア先輩は、そう言って笑った。
身体中に悪寒が走る。咄嗟に横に跳ぶが、もう遅かった。機関拳銃が左の脇腹に風穴を幾つか空けていった。
もう一度距離をとり、崩れた体勢と呼吸のリズムを整える。
『撃破報告です。パラディンの先輩を一人、倒しました。二人目も発見済み。そちらの位置もわかる場所にいます。首尾はどうですか?』
「あー、こっちは結構厳しいな。リアの方も覚悟しておいてくれ」
一つ目の合図を送る。気付かれないように、慎重に。「了解です。ではまた」と言って、リアとの通信が切れる。
「よくそんな傷を庇いながら平然と話せますわね」
クレア先輩が少し引いたようにそう言った。
「コレも一つの戦いである以上、味方にも敵にも自分が弱っていることがわかれば戦況が傾きますからね」
実際は合図としてあの言葉を言っているのでリアは俺の傷の状況も知っているのだが。
「……本当に、それだけですの?」
「さぁ。どうでしょうか?俺が勝ったら教えてあげますよ」
はぐらかしながら、しかし否定は出来ずにそう返す。
「もう一度、今度はコレで行きます」
もう一本。今度は西洋剣を抜き、二刀を構え、追求される前に強引に話を変える。
「二刀流、ですか貴方の得意分野は一刀流ではなくて?」
「生憎、出血のせいで時間がないので、それに関してもノーコメントでお願いします」
どうせ剣を交えているうちに分かることだ。言わなくても良い。
そしてまた、同時に相手に向かって駆け出す。第2ラウンドの開始だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる