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第2章
第2章 9
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「あらあら、どんどんと余裕がなくなっていますわねぇ」
クレア先輩が細剣を突き出しながらそう言った。
「剣技だけなら、勝てるのではなくて?」
余裕の笑みを浮かべるクレア先輩。本来なら安堵することができるその顔を見ても、俺の心が安らぐことはない。【仁王】に使う集中力は、尋常なものではない。しかも、出血のこともあり、短期決戦は必須。このままではジリ貧だ。
『こちらの準備は整いました。後はレイのタイミング次第です』
リアからの通信の言葉に、少しだけほっとする。後は、自分だけ。
最大限集中力を高め、刀のほころびにクレア先輩の突きを当て、その刃が砕けるのを見届ける。
近距離での射撃をもう一本の刀で弾き飛ばし。魔術戦の間合いまで飛び退く。それと同時に、クレア先輩の魔術によってつくられた氷で出来た剣山が、着地地点に出来上がる。
土台は仕上がった。後は一言。インカムのマイクをオンにし、呟く。
「『起動』」
「ッ!『誉れ高き守護神よ その聖盾を此度眼前に与えたまえ』」
爆発、轟音。
その瞬間、暴力の塊のような衝撃波が身体にたたきつけられ吹き飛ぶ。スルトに用意させていた五重の結界によって、ダメージは極限まで抑えているが、それでも実験的につくった弓よりかなり強力な衝撃波が飛んできた。
クレア先輩の方を見やると、固有魔術である【女神の聖盾】と共に、転移されていくガートレン先輩の姿が見えた。
やはり、ガートレン先輩がここで出てくるか、できればクレア先輩諸共転移してくれれば良かったのだが、そうはならなかったか。この作戦は、基本的に結界の中にいる俺と、ぼろぼろの状態のリアしか残れないからな。
『撃破報告です。こっちにいた敵は転移しました。ルカさんも同様です』
「こっちはガートレン先輩とスルトが転移した。後はこっちに任せろ」
『了解です。私も転移した方が良いですか?』
「いや、万が一俺が負けたら戦うやつがいないとだから休んでてくれ」
リアとの通信を終わって、先輩達が居た方向を見ると、瓦礫を押し退け、クレア先輩が這い出るようにして立ち上がる。その身体は、先程の攻撃で、あちこちに傷かついていた。
「……全部、計算通りですの?」
「まぁそうですね。【仁王】にかかってくれるかどうかは賭けでしたけどね」
俺の言葉を聞いて、クレア先輩は笑った。
「【仁王】ですか……。ちゃんと対策はしたはずなのですけれど」
「まあ、ここからは俺の本分ですが、しっかりついてきてくださいよ?」
俺がクレア先輩に突きつけるのは、今日持ってきた三本のうち最期の一刀、擬似魔刀。玉虫色の刃からは、既に純白の魔力が漏れ出している。恐らくこの刀が普通とは違うということには気付いているだろう。
「えぇ、勿論ですわ。貴族の女性の多くは、男性の望みを叶えるのが本望なのですから」
クレア先輩も得物の細剣を構え、笑みを浮かべて見せた。
クレア先輩の姿が消える。飛んでくる攻撃の方向は、おそらく、左!
金属同士がぶつかり合い、甲高い音を鳴らす。細剣が弾かれたことでクレア先輩の体勢が崩れる。
脇腹を狙って一撃。だがその攻撃は、超人的な反射神経によって弾かれる。
一度距離をとってもう一度。次に狙うのは剣を持たない左腕!
「セァッ!!」
右手で上段からの斬り払いでフェイント、左手に持ち替え真横に振り切る。
切断された腕が宙を舞い、クレア先輩の顔に驚愕と焦燥の色が映る。
「これで、タイムリミットは同じぐらいですか?」
クレア先輩のなくなった左腕を見ながら嗤ってみせる。
「そうかもしれないですわね」
これでクレア先輩のアドバンテージもなくなった。ここからは、どちらの体力が先に尽きるかの勝負。絶対に負けられない。
擬似魔刀の纏う純白の魔力の輝きが呼応するように強くなる。
「『付加魔術、身体能力強化、全能力強化』──行きますよ」
先程とは比べものにならないほどの速さで距離を詰め、一撃。カウンターの刺突を身体をひねって回避し、そのまま斬り結んでいく。剣がぶつかるたびに周囲に衝撃波が発生し、更地になっていく。
隙のないクレア先輩の剣の、普段なら隙と呼べないほどの隙を探して、剣を振る。
「そこ、だぁぁぁ!!」
剣戟音の後、静寂が訪れる。クレア先輩の細剣は、後方へ弾き飛ばされ、カラリと音を立てた。
「……私の負けですわね」
一言だけ言って、クレア先輩は首を差し出す。
「後でクレア先輩の所に行きますね。話したいこともあるので」
刀を振るうと、首に当たる寸前で、命の危険性のある攻撃と判断され、クレア先輩が強制転移されていく。
勝利が決まった瞬間、全身の力が抜けて崩れ落ちてしまった。
「ははっ、ははははっ!」
勝てた。その事実が嬉しい。これでまた、ティナの前に立つことが出来る。
元の円形の闘技場に戻り、観客席の声が聞こえてくる。
『鳳レイ、クレア・ラナ・シュタイン撃破……これにより、二回戦出場は、鳳レイ率いるスミスチームに決まりましたぁぁ!!!』
実況の声に応えるように、観客達が、一斉に歓声を浴びせてくる。
その後まもなくして、俺とリアは医務室に運ばれ、生徒からすれば大番狂わせの結果で今日の試合は幕を閉じた。
クレア先輩が細剣を突き出しながらそう言った。
「剣技だけなら、勝てるのではなくて?」
余裕の笑みを浮かべるクレア先輩。本来なら安堵することができるその顔を見ても、俺の心が安らぐことはない。【仁王】に使う集中力は、尋常なものではない。しかも、出血のこともあり、短期決戦は必須。このままではジリ貧だ。
『こちらの準備は整いました。後はレイのタイミング次第です』
リアからの通信の言葉に、少しだけほっとする。後は、自分だけ。
最大限集中力を高め、刀のほころびにクレア先輩の突きを当て、その刃が砕けるのを見届ける。
近距離での射撃をもう一本の刀で弾き飛ばし。魔術戦の間合いまで飛び退く。それと同時に、クレア先輩の魔術によってつくられた氷で出来た剣山が、着地地点に出来上がる。
土台は仕上がった。後は一言。インカムのマイクをオンにし、呟く。
「『起動』」
「ッ!『誉れ高き守護神よ その聖盾を此度眼前に与えたまえ』」
爆発、轟音。
その瞬間、暴力の塊のような衝撃波が身体にたたきつけられ吹き飛ぶ。スルトに用意させていた五重の結界によって、ダメージは極限まで抑えているが、それでも実験的につくった弓よりかなり強力な衝撃波が飛んできた。
クレア先輩の方を見やると、固有魔術である【女神の聖盾】と共に、転移されていくガートレン先輩の姿が見えた。
やはり、ガートレン先輩がここで出てくるか、できればクレア先輩諸共転移してくれれば良かったのだが、そうはならなかったか。この作戦は、基本的に結界の中にいる俺と、ぼろぼろの状態のリアしか残れないからな。
『撃破報告です。こっちにいた敵は転移しました。ルカさんも同様です』
「こっちはガートレン先輩とスルトが転移した。後はこっちに任せろ」
『了解です。私も転移した方が良いですか?』
「いや、万が一俺が負けたら戦うやつがいないとだから休んでてくれ」
リアとの通信を終わって、先輩達が居た方向を見ると、瓦礫を押し退け、クレア先輩が這い出るようにして立ち上がる。その身体は、先程の攻撃で、あちこちに傷かついていた。
「……全部、計算通りですの?」
「まぁそうですね。【仁王】にかかってくれるかどうかは賭けでしたけどね」
俺の言葉を聞いて、クレア先輩は笑った。
「【仁王】ですか……。ちゃんと対策はしたはずなのですけれど」
「まあ、ここからは俺の本分ですが、しっかりついてきてくださいよ?」
俺がクレア先輩に突きつけるのは、今日持ってきた三本のうち最期の一刀、擬似魔刀。玉虫色の刃からは、既に純白の魔力が漏れ出している。恐らくこの刀が普通とは違うということには気付いているだろう。
「えぇ、勿論ですわ。貴族の女性の多くは、男性の望みを叶えるのが本望なのですから」
クレア先輩も得物の細剣を構え、笑みを浮かべて見せた。
クレア先輩の姿が消える。飛んでくる攻撃の方向は、おそらく、左!
金属同士がぶつかり合い、甲高い音を鳴らす。細剣が弾かれたことでクレア先輩の体勢が崩れる。
脇腹を狙って一撃。だがその攻撃は、超人的な反射神経によって弾かれる。
一度距離をとってもう一度。次に狙うのは剣を持たない左腕!
「セァッ!!」
右手で上段からの斬り払いでフェイント、左手に持ち替え真横に振り切る。
切断された腕が宙を舞い、クレア先輩の顔に驚愕と焦燥の色が映る。
「これで、タイムリミットは同じぐらいですか?」
クレア先輩のなくなった左腕を見ながら嗤ってみせる。
「そうかもしれないですわね」
これでクレア先輩のアドバンテージもなくなった。ここからは、どちらの体力が先に尽きるかの勝負。絶対に負けられない。
擬似魔刀の纏う純白の魔力の輝きが呼応するように強くなる。
「『付加魔術、身体能力強化、全能力強化』──行きますよ」
先程とは比べものにならないほどの速さで距離を詰め、一撃。カウンターの刺突を身体をひねって回避し、そのまま斬り結んでいく。剣がぶつかるたびに周囲に衝撃波が発生し、更地になっていく。
隙のないクレア先輩の剣の、普段なら隙と呼べないほどの隙を探して、剣を振る。
「そこ、だぁぁぁ!!」
剣戟音の後、静寂が訪れる。クレア先輩の細剣は、後方へ弾き飛ばされ、カラリと音を立てた。
「……私の負けですわね」
一言だけ言って、クレア先輩は首を差し出す。
「後でクレア先輩の所に行きますね。話したいこともあるので」
刀を振るうと、首に当たる寸前で、命の危険性のある攻撃と判断され、クレア先輩が強制転移されていく。
勝利が決まった瞬間、全身の力が抜けて崩れ落ちてしまった。
「ははっ、ははははっ!」
勝てた。その事実が嬉しい。これでまた、ティナの前に立つことが出来る。
元の円形の闘技場に戻り、観客席の声が聞こえてくる。
『鳳レイ、クレア・ラナ・シュタイン撃破……これにより、二回戦出場は、鳳レイ率いるスミスチームに決まりましたぁぁ!!!』
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