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第3章
第3章 1
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試合から一週間後、俺はクレア先輩に会うため、生徒会室に足を運んでいた。
本来なら試合後すぐに会いに行くつもりだったのだが、相当な無茶をしたため二日間医務室に監禁され、その後、ティナとの和解に一日を費やし、残りの四日間を三日間試合に出れなかった分予定がカツカツになった予選トーナメントの試合にあてられたため(しっかり優勝はした)、クレア先輩に会いに行くのが遅れてしまったのだ。
「どなたですか?」
「一年H組、鳳レイです。生徒会長に用があってきました」
ノックに対する返事をしたのはクレア先輩だったが、一応通例なので、しっかりと挨拶はしておく。
「そんなに畏まらなくて良いですよ。今は私しか居ませんから」
ドアを開け中に入ると、クレア先輩は、丁寧な口調で俺を迎えてくれた。
ん?クレア先輩はこんな話し方だっただろうか?試合のときもそうだったが、クレア先輩はもう少し上からな物言いをする人だったような気がするのだが──
「ああ、話し方はこっちが素ですよ。周りの皆さんからのイメージがいつもの話し方してるときの方なので、素の方を知っている人は少ないんですよ」
俺の疑問の答えは、思ったよりあっさりしたものだった。確かに、入学したときからあの口調だったから、あれが素だと思っていたが、こうやって話していて違和感もなく、ここで嘘をついても意味は無い。ということは、こっちが素だというのはおそらく本当なのだろう。
「……こっちの方が親しみやすくていいんじゃないですか?」
こっちの方が柔和な雰囲気になり、普段の気高さとは真逆の、儚げな印象を受ける。おそらく、男子受けはこっちの方が良いだろう。
「そうですか?中等部の頃はこっちの方が受けが悪かったので、今の話し方になったのですけど……」
クレア先輩は苦笑いを浮かべて、「座っていてください」と言って紅茶を淹れ始めた。
「そうなんですか?こっちの方が、確実に可愛く見えて、近寄りがたい感じはなくなると思うんですが」
ソファーに座りながら思ったことをそのまま伝えると、クレア先輩は紅茶を淹れていたカウンターの角に思いっ切り足をぶつけていた。
「か、かわ!?か、可愛いと仰いましたか!?」
顔を真っ赤にして、痛みで涙目になりながら、そんなことを聞いてくる。
そんなに驚くことだろうか。クラスの男子は、皆口を揃えて「クレア先輩は清楚な口調の方が良い」と言っていたし、実際俺もその時は、そっちの方が良いと賛同した。
「はい、言いましたけど……。それに、俺はこっちの方が師範──嫌いな人を思い出さないので話していて嫌悪感もないですし、良いことばっかりですね」
「あはは……。それが私のことを避けていらっしゃっていた理由ですか?」
素のクレア先輩を見ていると、今までの自分の態度に罪悪感が湧いてきて、申し訳なさで言葉が出ない。そのクレア先輩は、無言を肯定と受け取ったのか、「それでご用件とは?」と促すように俺の向かいに座った。
「では……、先日の理事長室での一件、ならびに今までの生徒会長への態度に関して、お詫び申し上げます」
なんとなく察していた。と言うような顔のクレア先輩を見据え、その言葉を待つ。
「気付いていらっしゃいましたか。理事長室では、急に呼び出されて、行ってみたら悪役をやらされて、散々でしたね。ですが、その言葉が聞けただけで十分です。それと、今までの態度も生徒が苦手とする人物を連想させるような立ち振る舞いを大勢の前でしていた私にも否がないとは言い切れません」
クレア先輩はこちらこそ、とそう言ってくれた。そして一拍おき今度は悪戯を思いついた子供のような顔で、笑う。
「それでは、私をレイ君達の修練の場に参加させていただけませんか?」
「……はい」
断れないとわかっていてこういう提案をしてくる辺り抜け目がないこの人に、二人きりのときに謝ってしまったことに深い後悔を覚えた。
本来なら試合後すぐに会いに行くつもりだったのだが、相当な無茶をしたため二日間医務室に監禁され、その後、ティナとの和解に一日を費やし、残りの四日間を三日間試合に出れなかった分予定がカツカツになった予選トーナメントの試合にあてられたため(しっかり優勝はした)、クレア先輩に会いに行くのが遅れてしまったのだ。
「どなたですか?」
「一年H組、鳳レイです。生徒会長に用があってきました」
ノックに対する返事をしたのはクレア先輩だったが、一応通例なので、しっかりと挨拶はしておく。
「そんなに畏まらなくて良いですよ。今は私しか居ませんから」
ドアを開け中に入ると、クレア先輩は、丁寧な口調で俺を迎えてくれた。
ん?クレア先輩はこんな話し方だっただろうか?試合のときもそうだったが、クレア先輩はもう少し上からな物言いをする人だったような気がするのだが──
「ああ、話し方はこっちが素ですよ。周りの皆さんからのイメージがいつもの話し方してるときの方なので、素の方を知っている人は少ないんですよ」
俺の疑問の答えは、思ったよりあっさりしたものだった。確かに、入学したときからあの口調だったから、あれが素だと思っていたが、こうやって話していて違和感もなく、ここで嘘をついても意味は無い。ということは、こっちが素だというのはおそらく本当なのだろう。
「……こっちの方が親しみやすくていいんじゃないですか?」
こっちの方が柔和な雰囲気になり、普段の気高さとは真逆の、儚げな印象を受ける。おそらく、男子受けはこっちの方が良いだろう。
「そうですか?中等部の頃はこっちの方が受けが悪かったので、今の話し方になったのですけど……」
クレア先輩は苦笑いを浮かべて、「座っていてください」と言って紅茶を淹れ始めた。
「そうなんですか?こっちの方が、確実に可愛く見えて、近寄りがたい感じはなくなると思うんですが」
ソファーに座りながら思ったことをそのまま伝えると、クレア先輩は紅茶を淹れていたカウンターの角に思いっ切り足をぶつけていた。
「か、かわ!?か、可愛いと仰いましたか!?」
顔を真っ赤にして、痛みで涙目になりながら、そんなことを聞いてくる。
そんなに驚くことだろうか。クラスの男子は、皆口を揃えて「クレア先輩は清楚な口調の方が良い」と言っていたし、実際俺もその時は、そっちの方が良いと賛同した。
「はい、言いましたけど……。それに、俺はこっちの方が師範──嫌いな人を思い出さないので話していて嫌悪感もないですし、良いことばっかりですね」
「あはは……。それが私のことを避けていらっしゃっていた理由ですか?」
素のクレア先輩を見ていると、今までの自分の態度に罪悪感が湧いてきて、申し訳なさで言葉が出ない。そのクレア先輩は、無言を肯定と受け取ったのか、「それでご用件とは?」と促すように俺の向かいに座った。
「では……、先日の理事長室での一件、ならびに今までの生徒会長への態度に関して、お詫び申し上げます」
なんとなく察していた。と言うような顔のクレア先輩を見据え、その言葉を待つ。
「気付いていらっしゃいましたか。理事長室では、急に呼び出されて、行ってみたら悪役をやらされて、散々でしたね。ですが、その言葉が聞けただけで十分です。それと、今までの態度も生徒が苦手とする人物を連想させるような立ち振る舞いを大勢の前でしていた私にも否がないとは言い切れません」
クレア先輩はこちらこそ、とそう言ってくれた。そして一拍おき今度は悪戯を思いついた子供のような顔で、笑う。
「それでは、私をレイ君達の修練の場に参加させていただけませんか?」
「……はい」
断れないとわかっていてこういう提案をしてくる辺り抜け目がないこの人に、二人きりのときに謝ってしまったことに深い後悔を覚えた。
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