最弱の少年は、最強の少女のために剣を振る

白猫

文字の大きさ
21 / 22
第3章

第3章 2

しおりを挟む
 レイが寮に戻ってきて五分ほど、私に正座させられたレイは、いつものような雰囲気ではなく、母親に怒られた子供のようになっていた。
「で、謝りに行ったらどうやって修練にいれてくださいってなるの!」
「……ごめんなさい」
 私の一挙手一投足すべてに怯えるようなその態度はレイと別人だと錯覚するほどだ。だが、今ばかりは私も心を鬼にしなければいけない!
「負担が増えるのはレイ一人だけど、こっちにも色々都合があるんだよ!?」
 レイとあんまり話せないとか、レイに直接剣技教えてもらえないとか、レイにくっつけないとか!他にも色々!
「いや、その、だから、さっきから言ってるけど──」
「私はレイに──」
「話を聞いて、ティナ!」
「は、はひ」
 びっくりした。まさか肩をつかまれると思ってなかった。一応事情は知ってるけど、レイにここまで強引にさせるってなんなのクレア先輩。まあ掴まれたのは嬉しいけど!
「最初は失敗したと思ったんだ、でも、俺は魔術は出来ないから教えることも出来ない。茜と葵先輩は固有魔術スキルは使うが魔術はあまり使わない。でもクレア先輩は魔術をよく使うだろ?しかも、ティナの固有魔術スキルのように複数のものを同時に操るようなものだ。……これなら、もっとティナの修練の幅も広がると思って、断りに戻らず帰ってってきたんだが……」
 そういうことじゃないんだけど、こう言っている間までそんな悲しそうにされるとこっちが折れなきゃいけないみたいになってくるじゃん!
「……もういいよ!じゃあクレア先輩も一緒にやろう。その、私のためなんでしょ?レイにちゃんと活躍してるところも見て欲しいし……」
 だんだん言ってて恥ずかしくなってきた。何言ってるんだろう。なんか突き放すみたいな態度になってるし!
「そのかわり!クレア先輩についてあとで詳しく教えて!それとクレア先輩と一対一で話せるような時間を作って!」
「い、いやでもクレア先輩一応生徒会長で──」
「いいから!それだけ仲がいいんだからそれぐらいとれるでしょ!」
「は、はい。分かりました」
 なんか条件まで出してレイ脅してるし!
 自分で色々言っておいてだが既に後悔している。相手が女の子だからといって過剰に反応しすぎてることに自覚はある。レイがこの話を持ってきたというのもあるのだと思うけど……。
「もう少し自分を抑えなきゃなぁ」
 近くに居るレイにも聞こえない程だったが、声が漏れてしまった。
 この学園にきて、人とふれあうことが多くなってから、今までよりもレイと一緒にいる時間が減ったことで、今まではなかった今日のように感情が爆発するような事が何度か怒っている気がする。
 これがレイが私を守るって言ってくれた理由なのかは分からない。けれど、その中のひとつには入っていそうだ。
「あの、ティナ?大丈夫か?」
 不安げに揺れるレイの瞳と視線が絡まる。私が倒れたときと、似たような目だ。まるで唯一の宝物をとられそうになった子供のような、今にも泣いてしまいそうな。
「うん、大丈夫。いつも心配かけてごめんね」
 この目を見るたび、愛しくなってくる。剣に全てを捧げていたレイの心は、私には人より若干幼く見える。本人が無意識にそれを隠そうとしていることも。
 本当は今だって抱きしめたい。この場で告白して、そのままいけるところまでいってしまいたい。でもきっとそれは、今のままでは禁忌なのだと思う。レイはきっと快諾してくれるだろう。そして、私を傷つけないようにどこまでも優しくしてくれるだろう。レイが死ぬその日まで、きっと私に縛られてしまうだろう。
「大丈夫ならいいんだ。じゃあ俺はクレア先輩に予定聞いてくるから、ティナはここで待っててくれ。分かり次第メールで伝えるから」
 安堵したように微笑んで、レイはドアの向こうに消えた。今度は表情に出なかったみたいでよかった。
 口ではレイが心配だから、なんて言っているけれど、結局自分が一人になりたくないだけなのかもしれないと考えたことも何度もある。否定は出来ない。だってレイが助けてくれなければ、今頃こんな風にレイを守るなんて言えなかったんだから。
 レイにリヴェラヴィアの剣術を教えて貰わなかったら。
 レイが私が同じ道を進むことを拒んだら。
 レイがこんな風に近くにいてくれなかったら。

 レイが、いなかったら。

 私がどんなことをしているのか、絶対に知りたいとは思わない。
 思いっ切り、両の頬を叩く。痛くて涙が出そうになるが、ぐっと堪えて笑顔を作る。
「こんなウジウジしてちゃダメ!私らしく、笑顔で行こう!」
 気合いを入れて、沈んだ気持ちを吹き飛ばす。明るく、笑顔で。レイに恩返しを出来る日を目指して頑張っていこう。
 テーブルの上にあった携帯が振動する。レイからのメールだ。
「『クレア先輩、話があるなら今から来てください。とのことなので今から生徒会室に向かってくれ』って、えぇ!?今から!?」
 生徒会長に会うのに心の準備とかさせてくれないの!?という言葉を飲み込み、後で少しレイに文句を言ってやろうと考えながら、私は部屋を出た。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...