16 / 43
04 星空の夜、夢見た永遠と現実
しおりを挟むなんだか、夢でも見てるみたい。
今日はじめて会った人と、昔から知ってる仲みたいなシビれる音楽をつくって、今は夜の世界を二人並んで帰っている。それも、私よりずっと大人に見える(でも、高校三年生らしい)男のひと。
「そういや……こっちの方向ってことはアスカちゃん、地下鉄?」
「あれ、スガさんもですか」
「そ。駅チカのとこ、わざわざ選んだしな……それじゃ、アスカちゃんの護衛はこれから俺がしっかり務めなアカンね」
少しだけ表情を引き締めるスガさんに、私は大げさな、と少し笑ってしまう。
「私みたいなチビッコ、構う人なんていませんよ」
「いや、夜の地下鉄ナメたらアカン。それに、アスカちゃん……これまで夜遅くまでかかるリハとか収録とか駆り出されたこと、多分ないやろ」
スガさんの指摘に、スタジオ・ミュージシャンとしてどれだけ自分がひよっこなのかを改めて自覚させられたような気がした。もちろん、スガさんの言葉がそういう意味じゃないっていうのは分かってる……でも事実、そういう『普通』の仕事はあまり回ってこない。
「……それがスタジオ・ミュージシャンとして普通の在り方なんだって、分かってるんです。でも、全然そういう仕事まわしてもらえなくて。実力も実績もないから、しょうがないのは分かってるんです。でも、こんなに夜遅くまで『仕事』絡みで外に出てたのなんて初めてで、なんかそれだけで浮かれちゃって……なんだか、ごめんなさい」
「いや、ええんよ。誤解させるみたいな言い方して、俺が悪かったわ。俺が言いたかったのはな、それきっと、社長が手ぇ回してるんだと思うんよ」
スガさんの言葉が、一瞬まったく意味が分からなくて首を捻った。
「社長が?あの忙しいひとが、そんなこと」
「あるで」
不意に真剣な表情で落とされた言葉に、ピタリと足が止まった。
「薄々思っとったけど、アスカちゃんは自分の音が持ってる価値、自覚してへんな?」
鋭く見透かすような視線が、私の瞳を覗き込む。
「アンタは、金の卵や。まだ世間のだぁれも知らん、社長だけの秘蔵っ子。ここぞという時に出すって決めてた。だから、中学から事務所ン中いたってのに、俺達が気付かないなんてアホなことが起きるんや」
「でも私……事務所の人から見ててもいいよって言われたアーティストさん達の練習、そばで見せてもらってただけで」
「俺とウツミも通ってきた道や……ほとんど同じ。社長の決めた、質の高い音楽だけを、気付かんうちにそうやって叩き込まれる。中学の時から、俺とアスカちゃんは同じ事務所で仕事してるんやで。それなのに、お互いの存在さえ知らなかった。意味、分かるやろ」
ゾクリと、した。それは、つまり。
「全部、社長の手の平の上?」
「そういうことや……なに、心強さこそあれ心配する必要はなんもないで?俺が言いたかったのは、そんだけアスカちゃんが大事にされてるってこと。あの人は敵に回したらごっつ恐ろしいけど、味方に回ったら敵なしや。アスカちゃんはなぁーんにも考えないで、音楽にだけ命賭けてればええ。な?」
安心させるように笑ってくれたスガさんに、少しだけ肩の力が抜けた。
「よし。アスカちゃん、自分で思ってるよりちゃんと『女の子』やし、そういうところ諸々含めて、しっかり自覚しとくこと。そういうわけで、お兄さんが責任持って最寄駅まで送り届けるから、どーんっと任せなさい」
「……はいっ」
ニヤリと笑って促したスガさんに、私は頷いてまた歩き始めた。
優しく頷いて歩幅を合わせてくれるスガさんに、きっとこの人は絶滅危惧種なくらいに『紳士』な人なんだと、なんとなくそう思った。
スガさんは、なんだか『男の子』っていうより『男性』って言った方が『しっくり』くる。私も高三になったらこんな風に大人っぽく(あ、ヒゲは抜きで)なれてるかなと思うと、全然そんな気がしない。
(それに『この』音)
静かな夜の世界に響く靴音。かすかな呼吸の音。身体の揺れるタイミング。
この人を取り巻く全てに、リズムがある。
その最果てに、今日聞いた重くて熱い……きっと一生忘れることのできないサウンドがあるんだ。そう思うと、ドキドキして心臓が壊れそうなくらいで。そんなすごい人達の隣で、私はこれからギタリストを任せてもらえるんだ。
フワフワした足取りで歩いていると、なんだか楽しくなってきて、気付けば鼻歌を歌い始めていた。
「なんや、楽しそうやね」
「あ、すみません」
ピタリと私が鼻歌をやめると、スガさんはパタパタと手を振った。
「ええよええよ。感想言っただけだから、気にせんで続けてて」
「そうですか?」
首を傾げて、とりあえず鼻歌を続けてみる。
「その曲は……ダメだ、分からん。割と音楽は手広く聞いてるつもりなんやけど。もしかして、アスカちゃんが作った曲なん?」
「私は作曲しませんよ?えーと『I-kis-0』作曲の『ロング・ロング・ストーリー』です」
スガさんが絶句して、私の顔をマジマジと見つめた。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる