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雪白楽

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04  星空の夜、夢見た永遠と現実 ②

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「……あれや、独創的な解釈」
「……普通に音痴って言って下さい。社長に言わせると、不治の病らしいです」
「なんかスマン」

 またガシガシと頭をかくスガさんに、私は笑って頷いた。

「でも、意外だったわ」
「何がですか?」

 私の質問に、スガさんは少し考えて言葉を落とした。

「なんとなく、アスカちゃんって『アイキス』みたくミーハーな音楽は聞かないイメージやなーって」
「そう、なんですかね?」

I-kis-0アイ・キス・オー』……通称『アイキス』

 最近、私の中……というよりも、日本全国的に急上昇中のホットワードだと思う。
 ここ最近、パッとしない曲ばかりだった有名アーティストに『アイキス』が楽曲提供した途端に爆発的ヒット、なんて冗談みたいな本当のデビューを飾ったのはつい一年前の話。
 それからは出す曲出す曲、全てがバカ売れで、なんとなく盛り下がり気味なままの音楽業界がにわかに『アイキス』旋風で盛り上がり始めているらしい。

「俺は好きになれん」
「『アイキス』が、ですか?」

 なんとなく、好き嫌いをハッキリさせたがらない人なのかと思ったから、その言葉は意外だった。

「……所詮は『出来損ないのLeni』やん」

 呟くように告げられた言葉が、どうしてか心臓に突き刺さった。私達も、一歩間違えたらそういう場所に立っているから。
 名前に反して個人で活動しているらしい『アイキス』は、名前も年齢も姿も、誰一人知らない謎めいた存在だったりする……まるで『Leni』みたいに。
 実際『アイキス』の曲は、なんとなく『Leni』の曲に似ていて、業界では皮肉と尊敬をこめて『大衆向けのレニ』とか呼ばれてるらしい。

「アスカちゃんは『アイキス=Leni説』どう思う?」
「全くの別人だと思います」

 自信を持って言い切った私に、スガさんは目を見開いた。

「……なんで、そんな自信満々なんや」

 私はどうやって答えればいいのか迷ったあげく、正直に答えることにした。

「その、聴けば分かる、というか……Leniの音はRukaを愛してる音だけど、I-kis-0の音は多分『Leni』を愛してる音だと思うから」
「っ……」

 スガさんが『意味が分からない』という表情を正直に浮かべた。

「あはは……私も上手く説明できないんですけど、私の耳には『そう』聴こえるんです。私は『アイキス』の音、好きですよ。すごく真っ直ぐで純粋な感じがするんです」
「純粋」
「はい。私が『Ruka』の声を大好きなように、きっとアイキスも『Leni』の音が大好きなんだろうって、勝手にシンパシー感じちゃうんです。近付きたい。誰よりも近い場所で、その音を愛したい。その手段が、私にとってはギターで、アイキスにとっては作曲だったんじゃないかなって」

 スガさんは、険しい表情で黙りこくってしまった。私は今更のように、自分の『好き』を『嫌い』と言っている人に押し付けようとしてしまったことに気付いて慌てた。

「す、すみません。ナマイキなこと言って……」
「……いや、全然そんなこと思ってへんよ。ただ、本当にアスカちゃんはルカの声が好きなんやなと思って」

「はい!それにスガさん、さっきミーハーとか言ってましたけど……『Ruka』が好き、って言ってる方が世間的に見たらよっぽどミーハーな感じすると思いますよ」
「それもそう、やな……はは、俺たち揃ってめちゃくちゃミーハーやん」

 おかしそうに笑ったスガさんは、また優しい表情に戻って続けた。

「本当に、奇跡よな。そんだけミーハーで、同年代で、安心して背中預けられるやつが揃ったんや。改めて、よろしゅう頼むわ。俺達のギタリストさん」
「っ、はい!」

 私がニコニコ顔で頷くと「いい笑顔やな」とスガさんも笑った。

「そう言えば、レコーディングが二週間後、ですか?」
「そ。その後のスケジュールがツメツメになってまうから、もうちょい前倒ししても良かったんやけど、一応俺ら高校生やからあんまり学期始めに休むのもな?それに、割と急な話やったから俺もウツミもちょいちょい片付けてない仕事あるし」
「……ホントに高校生やってるんですね」

 私が素直な感想を呟くと、スガさんが軽く涙目で肩を落とした。

「やっぱり、アスカちゃんも疑ってたん?まあ、こんな見た目やしな……ウツミは人と関わりたくないらしくて通信制、俺はこの見てくれだし割とガラの悪い学校通ってるけど、それでも一応高校生や」
「あはは……あの、スガさんって、ルカとは付き合い長いんですか?」

 私の質問に、スガさんは目をパチクリさせて頷いた。

「まあ、そう……かもな。最初に仕事したんは、二年?いや、三年前か。どうしてそんなこと、気になったん?」
「あの、ルカのこと心配してたんで……」
「ああ、アレな」

 重い溜め息を吐いて、スガさんは私に視線を合わせた。

「スマンけど、そのことに関して俺の口から勝手に言うことはできん……まあでも、当日になってからアンタを必要以上に動揺させたくなかったから『口を滑らせた』ってのもあるかもな」
「……?」

 首を傾げる私に、スガさんが困ったような顔で笑う。


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