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雪白楽

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04  星空の夜、夢見た永遠と現実 ③

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「分からないんなら、ええんよ。ただ、できればアスカちゃんには、アイツの味方であって欲しいなって、俺が勝手に思ってるだけや」
「それなら任せて下さい。いつ、どんな時でも、私はルカの味方ですから!どーんっと、任せて下さいっ」

 スガさんが言ったのをマネして、どんどん、と自分の胸を叩く。

「おっ、威勢よく言い切ったなぁ。ま、それなら俺も安心かな……」

 なんとなく、優しい沈黙が落ちた。

 ルカに……スガさんに、かつて何があったのかは分からないけど、本人達が必要だと思ったなら、きっとその時に話してくれる。私は、そんな風に彼らが誰かに話したいと思った時、頼ってもらえるような『仲間』になるために、毎日を積み重ねていくだけ。
 ただ、一つだけ気になること。

「ルカは、どうしてあそこまでバンドを組みたがらないんでしょうか。それもスガさんの『心配』と何か関係があったりするんでしたら、聞かないでおきますけど」

 本当にこの先、ルカは『仲間』を必要としているのかってことだけは、聞いておきたかった。だけどスガさんは、険しい表情で首を横に振った。

「いや、それは俺にも分からん……ただ、想像はついてる」

 彼は何かを迷うように視線を逸らして、ポツリと呟いた。

「きっとルカは、レニ以外と『音楽』をやりたくないんやと思う」
「え、それ……どういうことですか」

 自分の声が震えることを、抑えられなかった。すがるように問いかけながら、本当は彼の言葉の意味を一瞬で理解できている自分がいた。

「実を言うと、俺達どころか……社長ですら『Leni』の姿を見たことがないそうや」
「う、そ」
「あの人は、そういう大事なところで嘘は言わん。だけど、それでもレニは存在してる……ルカだけが、その存在を知っとる。多分、ルカはレニを守ってるんやと思う」

 ルカが何からレニを守っているのかは明白だった。

「世界、から」
「ああ。ルカはレニをごっつい大事にしてる……レニの曲以外歌わへんのは有名やろ。あくまで自分の創造性……つまり『音楽』を捧げるのはレニだけ。言葉は悪いけど、他のヤツはその『音楽』を作るための道具としての『音』でしかない。ただのビジネス上の関係や」

 スガさんは感情のない声で、淡々と言いきった。だから私も、落ち着いて言葉を飲み込むことができた。

「……必要なのはバンドの『仲間』じゃなくて『仕事相手』」
「そういうことや。あくまで俺たちは仕事で『Leni』の音を作るために集まってるだけ。その場限りの付き合い。そういうことに、しておきたいんやと思うわ」
「して、おきたい?」

 私が反応した言葉に、彼はフッと表情を和らげた。

「そ。色々言いはしたけど、アイツはそんな風に人間関係割り切れるほど、器用な男じゃないんよ。だから、苦しんでる……モチロン、俺の想像でしかないけどな?でも、ルカとレニの間には『何か』ある。ただ、俺達には何もできんかった……いや、せえへんかったのや」

 まっすぐに私を見つめる瞳に、息を呑んだ。それは何か、神聖なものにでも祈るみたいに。

「……俺は、アスカちゃんに『何か』を期待してしまってるのかもしれん。今までとは違う、ギタリストのアンタに。レニはギタリスト……気付いてるから、ギターを選んだんやろ。俺はギターを『選べなかった』」

 スガさんの言っていることは、半分も分からなかった。だけど、何一つ聞くことができなかった。
 痛みと悲しみと後悔と。そういう『音』が、言葉に乗せて聞こえてしまったから。

「はは、ごめんな。おかしなこと、言ったわ……初めて会った日に、こんな重い話してしもうて。でも、ずっとアスカちゃんとはやってけたらいいと、思ってる」
「はい」
「いま、アスカちゃんは『Leni』の感情コピーして弾いてるやろ」

 斬り込まれた、感じがした。何かをとがめられたような、そんな感覚。

「社長が、自分を捨てろって」
「あの人の言いそうなことや。でも、あえて言っとく。この先ずっと『Ruka』の隣に立ち続けたいなら、そのスタイルは先が無いで」
「っ……」

 分かっては、いる。これは所詮、その場しのぎの成長法でしかないこと。

「ウツミ見りゃ分かるように、スタジオ・ミュージシャンとしては正しいで。でも、俺もアイツも『自分の音』ってやつ、心の軸みたいな感じで持ってる。それなのに、不気味なくらいにアンタは……純粋に『Leni』やん」

 それは私にとって、最上級の褒め言葉であるはずだった。少なくとも、今までは。

「もし、ルカがレニの音の先に行こうとしたら」
「そん、な」
「永遠なんて、有り得んのや。音楽には終わりがある」

 叩きつけるみたいな、冷たい響きだった。

 聞きたくなかった。信じたくなかった。それでも、それが真理であり、真実だった。

「何のために社長がバンド組ませたがっとるのか、よく考えれば分かるやろ。俺達は『Leni』の音を再現するためやない。新しい『Ruka』の音を創り出すために集められたんや……だから俺達は知らんといけん」


 自分の『音楽』というものを。

 私達はもう、走り出してしまった。光り輝くステージに向かって。

 もう二度と、立ち止まることの許されない、悪魔との契約を結んだまま。


 *





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