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雪白楽

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07 バラバラの五線譜を抱き締めて ⑥

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 ドキリと、した。本当に、自分を言い当てられているような気がして。でもそれは、鏡合わせみたいに、私から見たスガさんとスガさんから見た私の姿で。

「今は……違うんですか」
「俺は間違ってた。根っこのトコが、違うんや」

 きっぱりと言い切ったスガさんに、私は目を見開いて彼を見つめた。ゆらゆらと、ほの暗く揺れる瞳が、底なしに深く私を見つめ返していた。

「アンタは、キレイや」

 吐き捨てるような口調で告げられた言葉が、それを口にした彼自身を傷付けたのがイヤでも分かった。

「どうして、そんなにキレイなままでいられるんか、分からんくらい。うわつらが似てるだけあって、どれだけ俺が汚いんか自覚させられる。そういう場所なんや、アンタ達の近くは」

 私は彼の言葉を呑み込んで、そうして、踏み込んだ。

「それが、スガさんが自分の作った音楽を好きになれない理由ですか?」
「っ……!」

 バッとあげられた顔に浮かんでいた表情は、怒り、悲しみ、寂しさ……そのどれにも当てはまらなくて、痛みの滲んだ瞳には、私の顔だけが映り込んでいた。私達は、本当によく似ていた。

 やがてスガさんは諦めたように視線を逸らして、そっと楽譜を拾い上げた。

「ホント、イヤなとこ覚えとるな。そうやな……俺は自分で作った『I-kis-0』っていう虚像が、この『Leni』もどきにしかなれん音楽が死ぬほど嫌いや。どんだけ時間削って、音楽に魂捧げても、手の届かないものがある。それを思い知らされるたびに、音楽なんて捨ててしまえって、何度も何度もっ」

 叩きつけるように楽譜を投げて。それでも彼の捨てられなかった全てが、ここにある。こうやってこの人は、自分を削ってきたんだと、心臓が痛いくらいに締め付けられた。

「どうしてアンタは、あんな天才どもに囲まれて大丈夫でいられるん?どんな最高のフレーズを書いても、弾いても、絶対に届かない。俺達はどう足掻あがいても天才になれんのや……そんな事を毎日毎日思い知らされる場所で、どうして笑顔で弾き続けられる?俺にはアンタが、一番分からへんわっ!」
「……だから、バンドを抜けるんですか」

「そうや、俺は逃げたっ。別に作曲の仕事とベースの仕事、今までだって両立できてた。だからそれは、ただの言い訳や。自分でも分かってる……こんな情けなくてみっともない自分、知られたくなかった。自覚し続けるのに、もう耐えられないっ」

 血を吐くような叫びが、床に散らばった楽譜達に吸い込まれていく。

 この優しい人が、こんなにも自分自身を傷付けていることが、悲しかった。世界で一番、この人の音楽を嫌っているのが、スガさん自身だということがやりきれなかった。

 私はキッと彼を見上げて、ハッキリと告げた。

「スガさんは、絶対に『Leni』にはなれません。永遠に」

 そう告げた瞬間、絶望に表情をなくした横顔が、反射のように私の心をえぐった。それでも、止めない。正直であれ。どんな些細なウソでも、この人は気付いてしまう。

 私達は、鏡の中の自分だから。

「だって、スガさんは『Ruka』の声を愛してるわけじゃないから」
「どういう、ことや」

 かすれた声を、そっとすくい上げるように、静かに言葉を繋げていく。

「レニさんは、自分の音楽の全てをルカに捧げてました。でもそれは、決して一方通行のものなんかじゃない。それにルカが歌詞をつけて歌う……世界のためじゃなくて、二人が二人のためだけに紡いだ音楽なんですよ」
「二人のため、だけに」

 スガさんが、信じられないというように呟いた。

「でも、スガさんは……『アイキス』は、違う。前にも言ったはずです。アイキスは、自分の音を『Ruka』じゃなくて『Leni』に捧げたんです」
「そんな……それじゃあ、俺のやってきた音楽は」


 全てムダだった


 そんな残酷な言葉が、未来に見えていたから。だから私は叫んだ。


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