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雪白楽

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07 バラバラの五線譜を抱き締めて ⑧

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(ああ、くそっ。あのバカコアラと会ったせいで、調子が出ない)

 今日は前から予定されてた短いインタビューに、決まり文句の答えを返してただけなのに、なんだか疲れ果てている自分がいた。理由は分かりきってる……あの『Masamune』とかいう女のせいだ。

 アイツが出てきたせいで、考えなくちゃいけないことがドッと増えたし、何よりも俺の行くところあちこちに付きまとってくるのがウザい。そういうの、平和ボケコアラだけで十分なんだけど。しかも、やたらと存在感があるから、コアラとは違った意味でウザい。

「どこか行くの?」

 なんとなく一人になりたくて席を立つと、当然のようについて来ようとするマサムネにヒラヒラと手を振って追いやった。

「アイドルでも、トイレは行くから」


 ウソだけど。

 ガチャン、と音を立ててドアを閉めると、少しだけ気がラクになった。

 どうして自分がこんなにもイライラしているのかが分からなかった。マサムネの技術は凄いし、それが向こうから転がりこんできたんだから歓迎こそしても、邪険にする必要はなにもないはずで。アスカを追い出すことに俺が躊躇ちゅうちょしているのは、後ろめたさ?

 そうだとしたら、そんなものは排除するべきだ。俺が今まで色んなものを捨ててきたみたいに。自分の一番大事なものさえ見失わなければ、それでいい……俺の場合は間違いなくそれはレニとの約束で、だからこそ迷ったことなんて一度もなかった。

 今日だってそうだ。普段の自分なら絶対に見捨ててるのに、らしくないことをした。無視していれば、アスカは自然と離れていく。この場合、ラクに厄介払いができて喜ぶトコなんじゃないの?それなのに、アッサリと自分のポジションを捨てていこうとしているアイツが気に食わないとか思って、こんな風にイライラしてたりする。


「くそっ」

 小さく吐き捨てて、気分転換に飲み物でも買おうと思ったところで電話が鳴った。

(ウツミ……?)

 首を傾げながらも、迷わず出た。

『……もしもし、ウツミ、です』

 相変わらずガキみたいにたどたどしい電話に、思わず笑ってしまう。

「珍しいな。ウツミが電話とか……何かあった?」

『何かあるのは、ルカの方……違う?』

「っ……」

 電話の向こうから聞こえてきた言葉に、呼吸が止まった。一瞬だけ、不意打ちに怒りが湧いた。

「そう、だな」

 それでも素直に言葉を返すことができたのは、相手がきっとウツミだったから。

 ウツミはいつだってウソを吐かないし、誠実だ。何より、自分の中で考え抜いて、本当に必要なことしか言葉に出さない。だから、ウツミが電話をしてきたっていうことは、それだけ俺が行き詰まっていると察したということ。

 俺は一つ息を吐いて、できるだけ自分を客観的に見ようと努力した。

「今までレニ絡みの……音楽のことに関してだけは、絶対に迷わないと思ってた。なのに、今は何も分からない。どうすればいいのか、同じところばかりを思考がムダに廻り続けてる。一歩も、前に進めない気がする」

『……アスカとマサムネ、どうしても選べない?』

 俺は見えないと分かっていても頷いた。それで、伝わる。

「普通に考えて、あの『Masamune』の方を選ぶべきなんだってことは分かってる。完成した音楽を目指すなら、申し分のないクオリティだから。それなのに、二の足を踏んでる自分がいる……それが、どうしてか分からない」

『………』

 電話の向こうが、長い長い沈黙を伝えてきた。それでも、電話が切れない限り、ウツミが考え続けていることを知っていた。

『……俺はもう、正式なバンドはアンタと以外、組まないって決めてる』

 ウツミはあまり自分のスタンスみたいなものを話さないし、割とそういう『仲間意識』みたいなのには淡白なんだと思っていたから、俺は言葉が返せなかった。

『ルカは俺に『お前が必要だ。他の誰でもないお前の音が』って、言ってくれた。覚えてる?』

「もちろん」

『だから俺は、アンタのためにドラム叩きたいと思ったし、Leniの音を目指そうとするアンタの夢が、俺の夢になった……俺の音は、まだ必要?』

 それに関しては、考えるまでもなく答えていた。



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