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08 奏でよう、終わりのない夢を
しおりを挟む鏡に、知らない女の子の顔が映っている。
会ったことがないのに、それでもよく知っている。
(Asuka……)
もう一人の、私。
いつもの自己流メイクとは違う、スタイリストとメイクさんの手でカンペキに仕上げられた私は、自分じゃないみたいにキラキラしてた。
コンコン
『アスカちゃん、準備できた?』
「あ、はい!お待たせしました!」
ちょっと緊張しながら返事をすると、遠慮がちにドアが開けられてスガさんが顔を出した。そして、固まった。
「ちょっとスガさん、出入り口で立ち止まらないでよね、って」
ルカがスガさんを押しのけて、その体勢のまま……固まった。
ウツミさんだけは、いつも通りスタスタ入ってきて頷いただけだったけど。
「どう、かな?」
いつもの私じゃ考えられない短いスカートだけど、レギンスを履いているのをいいことに、クルリとその場で回ってみせる。
「……メイクって、やっぱり凄いと思った」
ルカが視線を逸らしてそう言った。確かにそうなんだけど、いつもメイクでビックリするくらい変身しているルカに改めて言われると、なんとも言えない気分になる。
「相変わらずルカは素直やないなぁ……まあ、俺もビックリしすぎて、なんて言えばいいんか分からんわ」
スガさんも、珍しく視線をさまよわせて言いよどんでいるから、どこかヘンだったりするんだろうかと心配になってきてしまう。オロオロと助けを求めてウツミさんに視線を投げると、彼は珍しくしっかりと頷いて言った。
「……大丈夫だ。今日のお前は可愛い」
「「「……っ!」」」
三人揃って仲良く絶句して、私は顔が熱くてたまらないし、ルカとスガさんは呆れて顔を見合わせた。
「……勇者や。俺にはあんなにハッキリ言う度胸はない。アイツは照れを知らんのか」
「ちゃっかり『今日の』って限定つきだけど。まあ、正直なだけでしょ」
二人の会話に首を傾げながら、ウツミさんはゆったりと言葉を続けた。
「今日は特別な日、だから。だから俺達も、特別」
その言葉に、私達は思い思いに頷いた。
今日は、ツアー最終日……ラストライブ。そして、私達にとってはそれだけじゃない。
「俺達『Hydra』の、門出の日だ」
四人で決めた、私達のバンドネーム『Hydra』……意味は『一筋縄ではいかない難問』
答えのない問いを、問い続ける。それが私達の、音楽だから。
「受けいれて、もらえるかな」
それでも、少しだけ自信のない言葉が零れてしまう。
『Ruka』のファンの人たちが、今までのスタイルをガラリと変えて、私達という今まで『背景』だったはずのものを表に出すことを、すぐに受けいれてくれるとは到底思えなかった。私達は、どうやったって異分子だ。
「音楽で分からせるしか、ない……って言うても、最初は難しいと思うで。バンド結成報告とファーストライブを、告知なしに『Ruka』のライブ中でやろうって言うんや。ブーイングだって飛ぶかもしれん。それでも、もう引き返せん」
スガさんの言葉に頷いて、ルカが口を開いた。本当は、ルカが一番緊張してたのは知ってる。でも、今はそんなこと、これっぽっちも感じさせないくらいに強い光が、眼の奥で輝いていた。
「いつもは他人に理解されなくてもいい、とか思ってる。でも、俺達は誰かに聞いてもらわなきゃ、ここに立ち続けられないし……誰にも理解されないのは、寂しい。だから、分からせる。形は変えても、ここにあるのが最高の音楽だってこと。そのために出来ることは、やってきた」
「ん……あとは、届けるだけ」
「……はい!」
みんなで顔を合わせて笑い合う。自然と手に手が重なって、四人分の熱を感じた。
「行こう。ステージへ……光差す、場所へ!」
世界に問う。私達の、音で。
*
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