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08 奏でよう、終わりのない夢を ②
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割れるような、歓声。
生まれて初めて見た、金色の雨みたいに声の降り注ぐ光景は、夢みたいにキレイで。
(ルカっ)
私の声にならない声が、聞こえたみたいに視線が絡む。
パシンッ
引き寄せられるみたいに重なった手の平の熱が、駆け抜けてきた音の余韻と混ざり合って、甘くはじけた。
(最高の、ステージ……)
夢にまで見た音が、ここにある。
私達がずっと奏でたかった、伝えたかった『Leni』の音楽に、やっと辿り着けたような気がする。もう、これで終わりにしてしまってもいいかもしれないなんて、そんなことを一瞬、考えてしまうくらいには。
(それでも、先へ)
進まなくちゃ。届けたい音が、もう、あふれてしまいそうだから。
《アンコールっ、アンコールっ!》
高まる声が、会場を震わせて。ルカが手をあげて応えると、喜びに湧いた。
一歩進み出て、マイクにそっと触れたルカに、一瞬で世界がシンと静まり返る。
静寂。爆発を抑え込むような熱狂と、期待。
その全てが突き刺さっても、これから始めようとしている『裏切り』の責任を、小さな背中にたった一人で背負っていても。ルカは、凛と前を向いて、ためらわなかった。
「まだ、聴きたい?」
ひみつを囁くみたいな、いたずらっぽい笑みを浮かべたルカに、誰もが声をあげて応える。
「いいね……でも、少しだけ話がしたい。みんなに、伝えなくちゃいけないことがある」
ざわり、と。
さざめきが広がる。今回のツアーは『何かが違う』と、誰もが感じていた。
ルカのアルバムとしては初めての、曲ごとに変わらない演奏者。いつもみたいに規則正しくない、ルカの気分で変わるセットリスト。明らかに今までとは違う演奏。
そして社長が大々的に発表した『ハイスクール・プロジェクト』
すでにプロとして活動している『天才高校生』だけでバンドを組ませる、というコンセプトに誰もがルカを連想して、同時に『Ruka・Leniついに破局か』なんてウワサが流れたりして。
そんな風に不安で揺れていたファン達は、固唾を呑んでルカの言葉を待っていた。
「この中には、俺がデビューした時から応援してくれてる人もいると思う」
《応援してるよー!》《私もしてるー!》
いくつかあがった声に、ルカが微笑んで頷いた。
「俺が大きくなって『僕』から『俺』に変わった時のこと、覚えてる人はいるかな。あの時、みんなは俺の成長……っていうか、思春期ってやつを受けいれてくれた。本当はアイドルって、そういう『自分』を持ち込むのって良くないんだけど、みんなのおかげで俺は自由にやれてる。改めて、いつも応援してくれて、ありがとう」
心をこめて紡がれる言葉に涙ぐんでいる人もいて、私もリアルタイムで一緒に成長してきた自分を重ね合わせて、少しだけ苦しくなった。
「でも今、あの時とは比べものにならないような『変化』を、俺は体験し続けてる……きっと、気付いてる人も沢山いるんじゃないかな。音が、全然違うってことに」
ルカが、私達を指し示す。頷いている人は沢山いて、受けいれてくれる人も、顔をしかめている人もいた。
「『Leni』のことに関しても……色んなウワサが流れて、ファンのみんなには心配かけてると思う。この一年間、俺がライブを開かなくて心配してくれてた人もいたよね」
《おかえり!》《待ってた!》
声が、返ってくる。ちゃんと、ルカの言葉は届いてる。
ルカは目を閉じて、小さく息を吐き出した。このトークは、ルカが話すことを決めているから、私達も何が語られるのかを知らない。それでも、彼が何を話すつもりなのか、その小さな呼吸だけで分かってしまった。
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