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雪白楽

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08 奏でよう、終わりのない夢を ⑤

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「それじゃあ、いくよ。俺達のスペシャルなデビューシングル。ラストソングにしてファーストソング、聴いて欲しい……『Shineシャイン』」

 一瞬で静まり返った空間が、熱を持って爆発の時を待っている。

 いつもの曲みたいに、誰か一人から音楽を始めるんじゃない。出だしから全ての音を重ねて勝負をかける。そう決めて、イチから作り上げた。

 もう、合図なんて必要ない。背中で感じてるから。呼吸が、意思が、つながる。

《歌う理由を、探してた――》

 一音目から突き抜けるような高音を、全身で響かせて。

 掴んだ。

《星に手を伸ばして、誰よりも高く遠く
 悲しみで思い出を汚したくないから あふれる言葉をのせて》

 ステージの上からだと、みんなの顔がよく見える。

 ああ、やっぱり驚いてる。今までこういう明るいバンドっぽい曲って、あんまりなかったから。あくまで俺の声を聞かせるってコンセプトは、スガさんが譲ろうとしなかったけど、曲調は自然と今までにない雰囲気になった。

 『Ruka』のためじゃない、俺達『Hydra』のための音楽。いま一番、奏でたい音。
 こういう俺も、悪くないでしょ?

《歌う理由を探してた……いつでも》

 一小節目の言葉をもう一度繰り返して、短く叩きつけるようなシャウトでサビに繋げる。
 俺の心、全部をこの歌に紡いで、届けよう。
 誰よりもいま聴いて欲しい人に、きっと届いていると、信じて。

《愛するひとたちへ、この声で捧げたい まだ痛み忘れなくても
 沢山の声がこの胸に響くよ 大事なものこの手にあるから》

 今の俺が感じている、偽りのない想いを言葉に。
 作曲をやらせたら右に出る者がいないスガさんの力は大きいけど、俺の歌うメロディ以外のパートはそれぞれが考えて、意見を出し合いながら作り上げてきた。
 一音も余さず、俺達の音だ。

《歩いていける いまここから》

 歩いてきた道のり。交わる夢。この旅の行き着く果て。
 全てを胸に、一番を歌い上げた。
 間奏は短い。そういう風に、作ったから……休んでるヒマなんてない。
 それでも、振り返らずにはいられなかった。今この瞬間の、全員の顔を目に焼きつけておきたかった。

(それだよ……その顔、見たかったんだ)

 鈴みたいに柔らかくシンバルを響かせる、幻想的なドラムという中々マネできない得意技で叩き続けているウツミが、珍しく表情を崩して楽しそうな顔をしていた。
 俺の視線に気付いて顔を上げた瞬間に、俺はすかさず指を一本立てて見せた。随分昔に、決めた合図。意味は『ネジ一本外せ!』それでも覚えていたらしいウツミは、少しだけ驚いたように目を見開いて……次の瞬間、ゾクゾクするような笑みを浮かべた。

 叩き込まれる、鮮やかなアレンジ。

(待ってた)

 ウツミが注文通りにしか叩かなくなったのは、コイツが自由に叩くとドラムに音楽の全てが引きずりこまれてしまうから。でも俺は、滅多に聴けない『ノッてる』ウツミの音が好きだ。その音に、一瞬で惚れたから。
 ライブまでとんでもない数の練習を重ねた中で、何回か暴走したウツミを目撃してるスガさんとアスカが『これは後半が大変だ』って感じで顔を見合わせて苦笑した。

 ライブになると、気付けばフラフラ磁石みたいに引き寄せられていって、仲良く肩を並べて弾き始めちゃうアスカとスガさんは、相変わらず今日もぶつからないのが不思議なくらいの距離で音を重ねてる。
 前から不思議だったんだけど、お前らいつの間にニコイチになってたワケ?

(ちょっと、けるんですけど)

 そんなこと言ったら一生スガさんからネタにされる気がするから、ゼッタイ言わないけど。ただ、たとえ隣がスガさんの居場所でも……背中を預けてんのは俺だから。
 迫る二番のAメロを喉の奥に閉じ込めて、アスカと背中合わせに立った。

 意味を分かってくれたらしいアスカが、嬉しそうに笑って頷く。
 触れているわけじゃないのに、背中から伝わる熱が、こんなにも心地良い。



《背中合わせの鼓動、きみの心きこえる
 つないだ指先にメロディーが零れた ここが帰り着く場所》

 そばにいて。離さないで。
 悲しみと寂しさから生まれて、一つの意志が出会わせて、いまこの想いで繋がってる。

 二度とない出会い。特別な音。
 言葉に、音に、四人の心がシンクロして加速していく。


《歌う理由をみつけた……ここから》

 始めよう、終わらない物語を。

《かけがえのない音をこの手につかんだ その傷が消えなくても
 ワンフレット分の世界を重ねて 何一つ捨てなくてもいい》

 歌おう。声が、枯れるまで……求めていたものが、ここにあるから。

《歩き続ける 光抱き締めて》

 俺達はいま、音楽を生きてる。









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感想 1

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みんなの感想(1件)

SHO
2021.06.30 SHO

いくら好きなミュージシャンの曲でも、全曲完コピなんていう熱意はなかったなあ(笑)全国のギター小僧ども!コピー出来るならやってみやがれ!っていうようなのもあったし(笑)

2021.07.01 雪白楽

いつも応援頂き、ありがとうございます。

ルカもアスカも、そして後々登場してくるメンバーも、良い意味で『音楽バカ』だらけですからね!

ロック大好きっ子としては、全盛時代に生まれたかったと思う時もありますが、きっとそれだったらギター小僧になっていて、小説を書こうとは思わなかったでしょうから、遅れて生まれて良かったのかもしれません。

彼らの音楽を、何度でも楽しんで頂けると幸いです!

解除

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