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08 奏でよう、終わりのない夢を ④
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照明が、変わった。
ウツミが打ち合わせ通りにドラムでリズムを取り始める。バスドラムの腹の底に響く音が、高揚感と一緒に緊張感も盛り上げてくる。
チラリと隣を見ると、今日は一段とトサカ頭なアスカが視線で何かを伝えようとしてくる。俺がなんとなく頷くと、パッと顔を輝かせたから、多分伝わったと思ったんでしょ……コアラ顔以外、何も伝わってこなかったんだけど。
(別に、いいけど)
今ので大分、緊張もほぐれた。ライブの時に緊張するなんて、実は久し振りのことだったりするから何となく懐かしい。
でも今日は、今までとは違う。四人分の運命を背負ってる代わりに、もう一人じゃない。
(で、メンバー紹介とかマトモにやったことないんだけど)
いつもは名前言って楽器弾いてもらうだけ……三人ともそれでいいって言ってたけど、それはさすがにマズいでしょ。まあ結局、気の効いた紹介なんて思いつかなかったんだけど、それでもやるしかない。
ウツミに視線を向けると、小さく頷いて激しいドラム・ソロに切り替わる。この瞬間、一瞬だけ覗くウツミの本性……内側に飼ってる化物じみた才能に、いつもゾクゾクさせられる。これだから、たまらない。
「もう、紹介も要らないくらいだよねっ。たった一人、俺のライブの常連……コイツ以外にドラムは任せられない『内海秋成』!」
想像以上に大きな歓声が沸き起こり、ウツミが珍しく驚いたような表情を浮かべるから、思わず笑ってしまいそうになる。ウツミのことは覚えているお客さんも多いはずだし、結構コアなファンもいるんだよね。
「……ありがと」
ウツミがマイクに顔を寄せて、慣れない感じでそう言うと、客席から笑いとともに《カワイイー!》とか黄色い声が上がった。
問題は次だ。小さく息を吐き出して視線を送ると、スガさんは覚悟を決めたような表情で頷いた。
絶妙なタイミングで、ウツミからスガさんにソロが渡される……ああ、やっぱり、上手いよアンタ。俺も頷いて、スゥと息を吸い込んだ。
「みんな、俺のアルバムで『Y』って名前見たことある?」
《あるよー!》《ホンモノーっ?》
「そうそう、この人が『Y』なんだけど……実はもう一つ、名前があるんだよね。なんだと思う?」
《なになにー?》《ベース、分かんないよーっ!》
聞こえてきた正直な言葉に、スガさんが有名曲のフレーズを少しだけ弾いてみせる。スガさんは最後まで『Ruka』のライブで他人の曲なんて、弾いていいのかって渋ってたけど、それがスガさんの武器になるなら迷いなく使うべきだ。
《え、他のアイドルの?》《あ、もしかしてっ!》
広がり始めたざわめきの中で、俺は満を持して声を張り上げる。
「そう、もう一つの顔は今をときめく天才作曲家『I-kis-0』……実は俺達と同じ高校生っ!」
次の瞬間、爆発するみたいに声が弾けた。
《アイキスっ?》《うっそ、ホンモノっ?》《ベースすごかったーっ!》
実は褒められ慣れてないスガさんが、照れ隠しみたいに手を振って、ベースの速弾きを披露する。うわ、メチャクチャ照れてるじゃん、この人。
今日のトップニュースは『アイキス』だろう、っていうか多分しばらくはスガさん全力で忙しくなるだろうな、なんて他人事のように思う。泣き言いってきたら全力でからかってあげる。
さあ、ラストだ。準備はできてる?
そう言うつもりで隣に視線を送ると、メンバー紹介のトリを任せるって言われた時にはガチガチになってたクセに、挑むみたいに不敵な視線を返してくる。
(ナマイキっ)
でも、今はそれでいい。
ウツミとスガさんの、心臓の鼓動みたいなビートの上に、鮮やかなフォルティシモが重なる。もう、昔から聞き続けてるみたいに身体に馴染んだギターが、ビリビリと爪先まで駆け抜けて行く。
(この、元気爆発コアラがっ)
「ラスト!アイキスのあとだと、どんな凄い肩書きのヤツがくるのかって、みんな思ってるでしょ。でも、何もない。コイツは、本当にまっさらな白紙の新人……だけどっ」
俺のありったけの思いをこめて、いま、お前を世界に届ける。
「この音楽、聴こえてるよねっ!聴けば分かる。言葉で飾る必要なんてないでしょ……『Hydra』に、コイツ以外のギターなんて有り得ない。俺達のギタリスト『Asuka』!」
割れるような歓声が、響いた。
ふと見ると、アスカが泣きそうな表情でギターをかき鳴らしてた。バカ、泣くにはまだ早いから。
客席は十二分にあったまってる。大ブーイングを食らうことも覚悟してたから、こんなに良い雰囲気の中で俺達の大切な曲を歌えることが嬉しい。
今の俺達の、全てをこめた歌。早く歌いたくて、たまらないんだ。
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