月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

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領都へ

閑話6 辺境伯の兵士&司祭アレク

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月の魔女とよばれるまで

閑話6 辺境伯の兵士&司祭アレク

沙更たちが大森林をウエストエンドに向かっている頃、辺境伯の兵士30人が馬車を使ってエンシェントゲートに到着していた。

「辺境伯様に言われ、ここまで来たがここまで誰も会わなかったのはおかしいと思わないか?」

「確かに、街道を遡ったのだからこちらから来る人間は必ず通るはずなのだがな」

兵士長とその部下は、街道に開拓村の人間らしい人が居なかったことを怪しむ。が、それは沙更の思惑が当たっていた証であった。今頃、大森林を南東にウエストエンドに向かっているなどとは考えが及ばない。

そもそも、開拓村側からの人の流れはごくわずかの商人か貴族の代官くらい。たまに、ランクの高い冒険者が混ざるかどうかなのだ。

それを考えれば、街道を通らないと言う選択肢を取れた沙更の魔法とそれに支えられた荒野の狼のメンバーが凄いと言うしかなかった。非常識故に、兵士達の裏をかいた結果なのだから。

エンシェントゲートで、光魔法の使い手の話を聞いてもそんな魔法士なら有名になっているだろうと返されるだけで、収穫はまるで無かった。

そう、エンシェントゲートで聞き込みをしたところでわかるはずもない。使い手の沙更はここで光魔法を使った訳ではない。それ故に、情報が集まらないのは当然のことだった。

強いて聞けたのは、古代遺跡から立ち昇った光の剣の噂位だ。誰が唱えたのかなどの詳しい情報は出てこない。

ある意味見通しが甘かったのが露骨に出てしまった。情報が集まらないので、噂の元である古代遺跡に直接足を踏み入れるしかない。が、ある程度の訓練を積んだ程度の兵士に開拓村側の古代遺跡は荷が重すぎた。

だが、辺境伯からの情報を手に入れるまで帰ってくるなと言う指示がなけなしの兵士たちを死に追いやる事になるとは辺境伯は思ってもいない。

ウエストエンドでふんぞり返るだけの貴族に、辺境の古代遺跡の恐ろしさなど理解出来ない。その一点で、なけなしの兵士たちを失う形になったのだった。



一方、その頃王都の聖堂を出たアレク司祭は数人のシスターと見習いシスター一人を連れて、ウエストエンドを目指すことにした。

こちらは、光魔法を熟知しているその一点だけで辺境伯の兵士たちよりも有利であった。

「聖女様が辺境から向かうとすれば、ウエストエンド以外にはあり得ないと思うけど、シスターたちはどう思う?」

アレクに意見を聞かれた十代後半のシスターは同意する。辺境で暮らすのはかなりの苦労を要するし、その間に確実に噂になると思ったからだ。

その考えは間違ってはいない。開拓村側で暮らすつもりは今の沙更にはない。それに、開拓村の側は暮らし辛い。物資の量がウエストエンドまでと比べると格段に減ってしまうのが致命的だった。

盗賊が跋扈していて、それを放置してしまっているのも拍車を掛けていた。先代の辺境伯なら屈強な兵士たちを送り込んで排除していただろうが、今の辺境伯は上役に付け届きを送る腰巾着の為、領民には嫌われていたのだ。

「ウエストエンドで、聖女様を待ちましょう。ウエストエンドの孤児院から、救済を求める書状も来ていますしね」

アレクはそう言うと聖堂を振り返る。

(上役が糞なのは、どこの世界も変わりなしと言ったところなのだろう。少しずつでも教会の空気を変えねば、教会は権力を追い求める亡者になりかねない。少なくとも司教以上の人間は、既に権力欲に取り憑かれてしまっている)

アレク自身、まだ二十代ながら司祭に実力で上り詰めた異才だ。それ故に、上役からすれば煙たいことこの上なかった。優秀なのが鼻につくし、自分を失脚させようとしているのでは無いかと考えられるほどには優秀だった。

世襲で司祭以上の地位にいる人間は、特に毛嫌いするようだ。自身を脅かすと思っている当たり、完全に思考が硬直化してきている証でもあるのだから。

それ故に、アレクは聖女を探すことにしたのだ。その事は教会のみならず、この国に変化をもたらす事になるのだと信じて。
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