月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

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領都へ

第114話 古びた砦で8

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月の魔女とよばれるまで

第114話 古びた砦で8

沙更が唱えた月の光(ムーンライト)に照らされて徐々に生気を取り戻していく。月の魔法は、今使える者は居ない。光魔法の派生であり、月に願いをかけられる人間など今はいない上に、月そのものが今は無い。

だからこそ、月女神の器を持つ沙更だけの固有魔法と言っても過言ではなかった。

しばらくして、ムーンライトに寄る治療を終えた沙更は満足そうな表情を浮かべる。なんとか、精神を壊す前に修復できたことに内心ほっとしていた。上手くいくかは賭けになってしまったからだ。

それだけが、沙更として申し訳ないと思いつつもなんとか出来ただけ良かったと思うことにした。だが、精神治療まで出来る治療士など存在しないことを知らなかった。

ムーンライトの効力は、精神の安定化と精神治療。そして、潜在能力の覚醒を促す効果もあった。が、後半に関しては気付くのはずっと後になる。

治療を受けた少女が起き上がったのは、沙更が治療を止めて少し経った後だった。

「わたくしは…」

「起きましたか?精神が限界に来ていたようなので、こちらで治療を施しました。気分はどうですか?」

「思っている以上に気分は良いです。あれだけあった傷が全て癒えているなんて…」

少女は、傷ついていた身体が全て癒やされている事に気付いた。

「あれだけの傷を癒やしてくれたのですか?」

「それだけの力が私にはありますから、もう一人治癒士がいるのです。協力して傷を癒やしましたが、痛かったりはしませんか?」

沙更の問いに、少女は首を振る。

「もう痛みはありませんわ。それにしても、あれだけの傷を癒やせるなんて高名な治癒士様ですか?」

少女の問いに沙更もヘレナも首を振る。腕はあるかも知れないが、そこは否定しておきたかったからだ。

「私は、この人達に付いてきている魔法士です。治癒魔法も使えると言うだけで」

「治癒士としても冒険者としてもまだまだ修行中の身ですわ。それに、貴女の大半の傷を癒やしたのは幼いこの子。いろいろと規格外なのです」

ヘレナが正直にそう言うと少女は、頭を下げてから自己紹介をしてくれた。

「傷を癒やして貰ったのに、名すら名乗らず失礼をしました。わたくしは、この辺境を治める辺境伯の末娘リエットと申します。お二方、わたくしを助けてくれてありがとうございます」

辺境伯の娘が平民や開拓民に頭を下げるなど、実際あってはならないことだ。それだけに、沙更もヘレナも顔をこわばらせる。

そのことを感じ取ったリエットが苦笑を浮かべつつも首を振った。

「公式の場ならともかく、こんな場所で身分をとやかく問うことは致しませんわ。それに、お二人はわたくしの命の恩人です。頭を下げて当然だと思います」

確かにそう言われれば、不自然なところは無い。あまりに、上の身分の人を助けることになったのが成り行きとは言え、ここまで感謝されることになろうとは思ってもみなかった二人だった。

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