月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

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領都へ

第115話 古びた砦で9

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月の魔女とよばれるまで

第115話 古びた砦で9

リエットの意識が回復した事で、ようやくもう一人に視線が行く。捕らえられていたもう一人が、セーナの開拓村の生き残りで村長の娘だった。

「えっと、あたしも助けてくれるって事で良いの?」

「盗賊たちはもう退治しているからね。ここに残る理由でもあるの?」

村長の娘の言葉に、ミリアがそう言うと彼女は首を振る。

いきなり、大物というか辺境伯の娘であるリエットを助けることになり、彼女のことがおざなりになってしまったことは否めなかった。

それでも、ここに残すと言う選択肢は沙更たちにはない。どちらにしろ、ゴブリンから救出した人達もいることだから合流するのが一番だろうと思う。

ある程度村長の娘も傷ついていたりしたので、ヘレナが治療を担当して傷を癒やして貰った。なぜヘレナかと言うと全て沙更でやってしまうとヘレナの治癒魔法が育たないからである。それと村長の娘の傷がそこまでひどくなかったことも上げられた。

ヘレナのヒールで癒やしきれる範囲だと沙更は判断したからこそ、お任せしたが正しい。

「傷を癒やしてくれて、ありがとう」

「ここから離れることになるけれど、体力は持つかしら?」

ヘレナの問いに二人とも頷く。ここでの思い出に良い物が無いのは二人共通だっただろうから、離れられるのなら離れてしまいたいと思っても無理は無い。

身体の傷は癒やしたが、体力的に問題があるかもしれない。そこを頭に入れつつ、沙更はウィンドウォークを二人にもかける。その効果に、二人とも驚きの表情を浮かべるがここの場は、この事に関しての説明をする気はなかった。

盗賊退治を終えているとは言え、ここに長居する必要性はまったくもって無かったからだ。

いざとなれば、ガレムとパウエルにお任せするしか無い。ヘレナが嫌がりそうではあったが、それでも我慢して貰うほか方法も無く、そうならないことを祈るしか無い。

歩き始めてみると思った以上に、ウィンドウォークが二人の体力消耗を抑えてくれていたから砦を脱出し、森の中に作り上げた土レンガの家に戻るまで、30分も掛からなかった。

先にゴブリンから助け出した少女二人と村長の娘が顔を合わせれば、三人して泣き出してしまっていた。泣き止んでから事情を聞くとどうやら大森林ではぐれたらしく、二人はゴブリンに、村長の娘は盗賊に捕らえられてしまったと言う事のようだった。

そして、リエットと言えば土レンガの家を見て絶句していた。

(これだけの家を土魔法で建てたと言うのなら、どれほどの魔法士なの!?幼い大治癒士様は、どれだけ凄い魔法士なのかしら?気になってきたわ)

貴族であるリエットにとって、これだけ魔法が使える人材が眠っていたことに驚くしか無い。だが、リエットは知らない。沙更は特別だと言うこと、そして月女神の器を持つ者だと言うことを。
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