131 / 365
領都へ
第121話 クルシス2
しおりを挟む
月の魔女とよばれるまで
第121話 クルシス2
沙更の市民証を受け取った後、女性達と少女三人と別れることになった。開拓村から遠く離れたここならば、滅多なことでは別の開拓村の面々に会うことはない。
基本、開拓村の面々が外に出ることは無い。買い物もエンシェントゲートに出る位のことで、クルシスやウエストエンドまで来ることは無い。
開拓村の村長ですら、書類などがあったとしてもエンシェントゲートに居る代官を通さなければならず、直接訴えかける等と言うことは許されてはいなかった。
それに、クルシスの町の住人と認められているのなら開拓村に引き渡すと言う事も出来ない。勝手に町の住人を連れて行くと言うことは犯罪になるからだ。
「「「ゴブリンの巣で助けて貰って、クルシスまで連れてきてくれてありがとう」」」
「「「何も出来なかったけれど、ここまで連れてきてくれて感謝してる」」」
「ここまで連れてきてくれてありがとう。クルシスの町なら、開拓村の面々が現れることも無いから」
村長の娘や助けた女性達がそう言うと沙更は首を振る。セーナに頼まれて開拓村出身の三人を助けたが、それ以上のことが思い浮かばなかったと言うのが正しい。
でも、開拓村から距離を離したのは悪くは無かったと考えてはいた。実際、助けた三人とも沙更をセーナだと気付いてはいなかった。魔力を持っていても使っていなかった事と髪の色も長さもそして纏う雰囲気すらも変わっていたのだから、そこまで変わってしまうともう別人なのだと思う。
沙更としても、力を持たない彼女達にこれ以上関わりを持って欲しいと思っては居なかったので、丁度良かったとも言えた。ある意味冷たいのかもしれない。けれど、関わったら下手すれば死に至る可能性が高いのだ。
ならば、離れて平穏に暮らして欲しいと思うのは果たして冷たいと言えるのだろうか?そこは、沙更が決めることでは無いと思う。
衛兵達のところで、女性達と別れてパウエルたちとリエットの五人になった。
「さて、これから市場に買い物に行くか」
「ある程度材料がないので、一杯買わないとダメです。ある程度の目利きは私がやります。パウエルさん達においしいものを食べさせたいと言うのは変わりありませんから」
沙更として、出来る限り調理をしておいしいものを食べて欲しいと言うのが念頭にある。ミリアを助けたようで、助けて貰ったのは自分じゃないかと思ったりもする。
一人だったら、既に精神的にすり切れていただろう。その自覚は沙更にはあった。セーナだけでも沙更だけでも、あの場を切り抜けることは出来なかった。二人そろってなんとかなったが正しい。
けれど、そこにミリアたちがいたからあれだけの力を発揮できたと今なら理解出来た。神の刃、ディバインブレードは守るために使う物だと知っているから。
「セーナちゃんの料理の腕はかなりのものだと思うけど?」
沙更の声に、ミリアがそう言いつつも気遣うような視線を送ってくる。それだけ、心配されていると言う事のようだ。思っている以上に、今の沙更の容姿は5才の女の子なのだ。本当なら、荒事に参加していると言うだけでもとんでもない話だったりする。
それに気付いていないのは本人だけで、リエットもその話を聞いていて顔を曇らせていた。
「あの、幼いのに凄腕の治癒士様であると同時に魔法士様でもあるのですか?」
「えっと、私の治癒魔法はヒールとムーンライトのみなのです。それで、大治癒士と言われても」
沙更としては、ヒールとムーンライトの二つしか使えない現状でそう言われることに首をかしげるしか無い。そもそも、ヒールで大怪我を治療出来るだけで十分凄いことと言うのがこの世界の認識だ。この世界の治癒士のハイヒールですら、治療出来ない怪我を治している実態があるのだから。
「どちらにしろ、市場で食材の仕入れをしよう。何が食べたいかで、決を採りたい」
パウエルがそう言ったところで、盛り上がる3人。それを見ている沙更とリエットは、なんとなく浮いているようで馴染んでいた。
第121話 クルシス2
沙更の市民証を受け取った後、女性達と少女三人と別れることになった。開拓村から遠く離れたここならば、滅多なことでは別の開拓村の面々に会うことはない。
基本、開拓村の面々が外に出ることは無い。買い物もエンシェントゲートに出る位のことで、クルシスやウエストエンドまで来ることは無い。
開拓村の村長ですら、書類などがあったとしてもエンシェントゲートに居る代官を通さなければならず、直接訴えかける等と言うことは許されてはいなかった。
それに、クルシスの町の住人と認められているのなら開拓村に引き渡すと言う事も出来ない。勝手に町の住人を連れて行くと言うことは犯罪になるからだ。
「「「ゴブリンの巣で助けて貰って、クルシスまで連れてきてくれてありがとう」」」
「「「何も出来なかったけれど、ここまで連れてきてくれて感謝してる」」」
「ここまで連れてきてくれてありがとう。クルシスの町なら、開拓村の面々が現れることも無いから」
村長の娘や助けた女性達がそう言うと沙更は首を振る。セーナに頼まれて開拓村出身の三人を助けたが、それ以上のことが思い浮かばなかったと言うのが正しい。
でも、開拓村から距離を離したのは悪くは無かったと考えてはいた。実際、助けた三人とも沙更をセーナだと気付いてはいなかった。魔力を持っていても使っていなかった事と髪の色も長さもそして纏う雰囲気すらも変わっていたのだから、そこまで変わってしまうともう別人なのだと思う。
沙更としても、力を持たない彼女達にこれ以上関わりを持って欲しいと思っては居なかったので、丁度良かったとも言えた。ある意味冷たいのかもしれない。けれど、関わったら下手すれば死に至る可能性が高いのだ。
ならば、離れて平穏に暮らして欲しいと思うのは果たして冷たいと言えるのだろうか?そこは、沙更が決めることでは無いと思う。
衛兵達のところで、女性達と別れてパウエルたちとリエットの五人になった。
「さて、これから市場に買い物に行くか」
「ある程度材料がないので、一杯買わないとダメです。ある程度の目利きは私がやります。パウエルさん達においしいものを食べさせたいと言うのは変わりありませんから」
沙更として、出来る限り調理をしておいしいものを食べて欲しいと言うのが念頭にある。ミリアを助けたようで、助けて貰ったのは自分じゃないかと思ったりもする。
一人だったら、既に精神的にすり切れていただろう。その自覚は沙更にはあった。セーナだけでも沙更だけでも、あの場を切り抜けることは出来なかった。二人そろってなんとかなったが正しい。
けれど、そこにミリアたちがいたからあれだけの力を発揮できたと今なら理解出来た。神の刃、ディバインブレードは守るために使う物だと知っているから。
「セーナちゃんの料理の腕はかなりのものだと思うけど?」
沙更の声に、ミリアがそう言いつつも気遣うような視線を送ってくる。それだけ、心配されていると言う事のようだ。思っている以上に、今の沙更の容姿は5才の女の子なのだ。本当なら、荒事に参加していると言うだけでもとんでもない話だったりする。
それに気付いていないのは本人だけで、リエットもその話を聞いていて顔を曇らせていた。
「あの、幼いのに凄腕の治癒士様であると同時に魔法士様でもあるのですか?」
「えっと、私の治癒魔法はヒールとムーンライトのみなのです。それで、大治癒士と言われても」
沙更としては、ヒールとムーンライトの二つしか使えない現状でそう言われることに首をかしげるしか無い。そもそも、ヒールで大怪我を治療出来るだけで十分凄いことと言うのがこの世界の認識だ。この世界の治癒士のハイヒールですら、治療出来ない怪我を治している実態があるのだから。
「どちらにしろ、市場で食材の仕入れをしよう。何が食べたいかで、決を採りたい」
パウエルがそう言ったところで、盛り上がる3人。それを見ている沙更とリエットは、なんとなく浮いているようで馴染んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
『悪役令嬢』は始めません!
月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。
突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。
と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。
アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。
ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。
そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。
アデリシアはレンの提案に飛び付いた。
そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。
そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが――
※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。
彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」
お嬢様はご不満の様です。
海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。
名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。
使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。
王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。
乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ?
※5/4完結しました。
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの
山田 バルス
ファンタジー
王宮の広間は、冷え切った空気に満ちていた。
玉座の前にひとり、少女が|跪い《ひざまず》ていた。
エリーゼ=アルセリア。
目の前に立つのは、王国第一王子、シャルル=レインハルト。
「─エリーゼ=アルセリア。貴様との婚約は、ここに破棄する」
「……なぜ、ですか……?」
声が震える。
彼女の問いに、王子は冷然と答えた。
「貴様が、カリーナ嬢をいじめたからだ」
「そ、そんな……! 私が、姉様を、いじめた……?」
「カリーナ嬢からすべて聞いている。お前は陰湿な手段で彼女を苦しめ、王家の威信をも|貶めた《おとし》さらに、王家に対する謀反を企てているとか」
広間にざわめきが広がる。
──すべて、仕組まれていたのだ。
「私は、姉様にも王家にも……そんなこと……していません……!」
必死に訴えるエリーゼの声は、虚しく広間に消えた。
「黙れ!」
シャルルの一喝が、広間に響き渡る。
「貴様のような下劣な女を、王家に迎え入れるわけにはいかぬ」
広間は、再び深い静寂に沈んだ。
「よって、貴様との婚約は破棄。さらに──」
王子は、無慈悲に言葉を重ねた。
「国外追放を命じる」
その宣告に、エリーゼの膝が崩れた。
「そ、そんな……!」
桃色の髪が広間に広がる。
必死にすがろうとするも、誰も助けようとはしなかった。
「王の不在時に|謀反《むほん》を企てる不届き者など不要。王国のためにもな」
シャルルの隣で、カリーナがくすりと笑った。
まるで、エリーゼの絶望を甘美な蜜のように味わうかのように。
なぜ。
なぜ、こんなことに──。
エリーゼは、震える指で自らの胸を掴む。
彼女はただ、幼い頃から姉に憧れ、姉に尽くし、姉を支えようとしていただけだったのに。
それが裏切りで返され、今、すべてを失おうとしている。
兵士たちが進み出る。
無骨な手で、エリーゼの両手を後ろ手に縛り上げた。
「離して、ください……っ」
必死に抵抗するも、力は弱い。。
誰も助けない。エリーゼは、見た。
カリーナが、微笑みながらシャルルに腕を絡め、勝者の顔でこちらを見下ろしているのを。
──すべては、最初から、こうなるよう仕組まれていたのだ。
重い扉が開かれる。
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
転生令嬢はやんちゃする
ナギ
恋愛
【完結しました!】
猫を助けてぐしゃっといって。
そして私はどこぞのファンタジー世界の令嬢でした。
木登り落下事件から蘇えった前世の記憶。
でも私は私、まいぺぇす。
2017年5月18日 完結しました。
わぁいながい!
お付き合いいただきありがとうございました!
でもまだちょっとばかり、与太話でおまけを書くと思います。
いえ、やっぱりちょっとじゃないかもしれない。
【感謝】
感想ありがとうございます!
楽しんでいただけてたんだなぁとほっこり。
完結後に頂いた感想は、全部ネタバリ有りにさせていただいてます。
与太話、中身なくて、楽しい。
最近息子ちゃんをいじってます。
息子ちゃん編は、まとめてちゃんと書くことにしました。
が、大まかな、美味しいとこどりの流れはこちらにひとまず。
ひとくぎりがつくまでは。
クゥクーの娘
章槻雅希
ファンタジー
コシュマール侯爵家3男のブリュイアンは夜会にて高らかに宣言した。
愛しいメプリを愛人の子と蔑み醜い嫉妬で苛め抜く、傲慢なフィエリテへの婚約破棄を。
しかし、彼も彼の腕にしがみつくメプリも気づいていない。周りの冷たい視線に。
フィエリテのクゥクー公爵家がどんな家なのか、彼は何も知らなかった。貴族の常識であるのに。
そして、この夜会が一体何の夜会なのかを。
何も知らない愚かな恋人とその母は、その報いを受けることになる。知らないことは罪なのだ。
本編全24話、予約投稿済み。
『小説家になろう』『pixiv』にも投稿。
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる