月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

文字の大きさ
162 / 365
新たなる住処

第148話 ウエストエンドの孤児院

しおりを挟む
月の魔女とよばれるまで

第148話 ウエストエンドの孤児院

ミリアとアレクが険悪な雰囲気に包まれる中、沙更は冷静にアレクとその後ろから現れたシスター達がこちらに仕掛ける気がないことを察知していた。

「教会の司祭様とは言え、魔力での優劣は流石に分かりますか」

「今の聖女様に、魔法で相手を出来る人間はいませんよ。昔に存在した英雄たちですら厳しいと見ます」

そこまで言ったアレクに、沙更は首をかしげる。

「教会は私に何を望んでいるのです?アレクさんの望みと教会の望みは違う物と思うのですが?」

「流石に聖女様は鋭い。上層部と私の望みの違いを見抜かれてしまうとは」

「上層部の方は読むのが簡単だと思う。権力を失いたくない人間が取る行動なんて、たかが知れているはず。で、アレク司祭は何を望むのですか?」

そう、直球でアレクの真意を確かめることにした。

「私の望みはおいおい話すことに致しましょう。今は中に入ってください。少なくても私たちが聖女様の邪魔をすることはありませんよ」

さらっと交わされてしまうが、それでも沙更は敵対する気は無いのだろうと言うところだけは読めたので、それ以上は何も言わないことにした。

アレクに促されて、孤児院の中に入る。

するとミリアが沙更に耳打ちした。

「ごめん、実はセーナちゃんに助けて欲しい子が居るの」

「大丈夫ですよ、ミリアお姉さん。なんとなく困っているのは分かっていました。私の力で手助けになれますか?」

「むしろ、セーナちゃんの力でダメなら諦めが付くと言った方が良いかも」

ミリアの表情が暗くなる。孤児院で、病気をした患者を抱え込んでしまうとお金が足りなくなってしまうのは言うまでも無い。見捨てる訳にもいかないが、それでも余裕が無くなってしまうのは致し方ないことであった。

それで無くても、今の代での辺境伯はその手の施しを一切しない。そして、その分お金を巻き上げていくため貧しくなる一方であった。

当然、孤児院の運転資金もかなり減っており、病気をした子を満足に治療士に見せることすら出来なくなっていた。

そこで、ミリアが考えたのがセーナの力を借りることだった。ミリアとしては、勝手に頼みにしていることからセーナが怒るかと思ったのだけど、あっさり了承されてしまって逆に恐縮してしまっている格好だ。

「ミリアお姉さんが困っているのなら手助けをすると私は決めているのです。せめて、子供くらいは助けてあげなければこの国は立ちゆかなくなってしまうでしょう」

その考え自体が既に聖女そのものと言われれば、そうなのかもしれない。が、沙更は聖女の名を欲しいとは思わない。強いて言うならば、魔女の方が似合うだろうなと思う。

強いて言うならば、神が同居するこの身だけに異端であることを認めざるを得ない。確実に人とは違うし、それを人は受け入れられない。

だからこそ、沙更はそんな自分を助けてくれるミリアを助けると決めているのだ。

「ごめん、いきなりこんなことを言われても困るとは思ったんだけど頼りに出来る人が居ないの」

「ミリアお姉さんが謝ることは無いですよ。私ならば助けられると思ったのでしょう?もしかしたら、知っている病気かも知れません。治せるとは言い切れませんが、好転できるかも知れませんしやるだけやってみましょう」

ミリアに連れられて、孤児院の中に入っていく。アレクも付いてくるようだ。

「出来れば、聖女様の魔法を我らにも見せて欲しいと思うのですがよろしいでしょうか?」

「私の魔法は、かなり特殊ですから見ても学べるところは無いと思います。それでも良ければ」

アレクの言葉に、あっさりと許可を出す沙更。古代詠唱に沙更の想像力と前世での知恵がミックスされた魔法は、まさに神の領域に手が届いていると言っても良かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

聖女だと呼び出しておいて無能ですか?〜捨てられた私は魔王様に溺愛される〜

みおな
恋愛
 学校帰りにいきなり眩い光に包まれて連れて来られたのは異世界でした。  王子はこんなちんちくりんは聖女ではないと言い放ち、私を王宮から追い出しました。  元の世界に帰る方法は、魔王の持つ帰還の指輪が必要と言われ、途方にくれた私の前に現れたのは、美形の魔王でした。

そんな未来はお断り! ~未来が見える少女サブリナはこつこつ暗躍で成り上がる~

みねバイヤーン
ファンタジー
孤児の少女サブリナは、夢の中で色んな未来を見た。王子に溺愛される「ヒロイン」、逆ハーレムで嫉妬を買う「ヒドイン」、追放され惨めに生きる「悪役令嬢」。──だけど、どれもサブリナの望む未来ではなかった。「あんな未来は、イヤ、お断りよ!」望む未来を手に入れるため、サブリナは未来視を武器に孤児院の仲間を救い、没落貴族を復興し、王宮の陰謀までひっくり返す。すると、王子や貴族令嬢、国中の要人たちが次々と彼女に惹かれる事態に。「さすがにこの未来は予想外だったわ……」運命を塗り替えて、新しい未来を楽しむ異世界改革奮闘記。

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

処理中です...