月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

文字の大きさ
169 / 365
新たなる住処

第155話 治療を終えて

しおりを挟む
月の魔女とよばれるまで

第155話 治療を終えて

寝ている少女の顔に、治療前とは違って苦しそうな感じは見受けられない。急速に体調が良くなったとは言え、まだ完全では無かった。

「ミリアお姉さん、しばらく私は彼女の治療をします。今日で確実に命を取り留めることは出来たとは思いますが、ちょっと経過をみたいです」

「セーナちゃんには感謝しか無いよ。だから、これからもよろしくね」

ミリアはそう言って沙更の手を握る。ミリアから手を握ってきたことに、沙更は自然と笑みを浮かべていた。

「ミリアお姉さんの手、温かいです。それに、そう言ってくれて嬉しい」

「もう、そう言われちゃうと照れくさいよ」

そう言いつつもミリアは沙更がそう言ってくれたことに嬉しそうな表情を浮かべる。

その一方、もの凄い治療を目の当たりにしたアレクとシスターたちは余りのことに衝撃を受けていた。聖なる属性に光属性を上乗せして人体に注ぎ込むなんて事は今の人間に出来ることではない。

聖女と言ったが、幼い彼女はそれを遙かに超える存在では無いかと思ったのだ。

そんなことを考えているアレクたちだが、沙更はそれに気付いていた。

(私は、人の尺度で測れるとは思ってないからそれを理解するまで時間が掛かると思う。その時にどういう判断をするかによるかな)

そう思いつつも、今は助けられた少女の顔を見つつもちょっとほっとした表情を浮かべる。ミリアの望むようにしてあげたかったから、それに添えたことだけで十分だったから。

「いきなり孤児院に連れてきて、助けてって言ったことを守ってくれちゃった」

「ミリアお姉さんがそれを望んでいたのは分かりましたから、それに応えてあげたいって思っただけです。ただそれだけ」

「もう、セーナちゃんにどれだけ恩を返せるんだろう。なんか、望んだら応えてくれちゃったから本当にそう考えちゃう」

ミリアとして、困った状態になっていたのは言うまでも無い。でも、ミリアが欲深い人間で無かったことが幸いしていた。

これだけのことが出来る子ならば、他にも欲しがってもおかしくは無い。だが、ミリアはそれをしない。望みすぎている事を知っているから。

望めば望むだけ自分の願いが叶えられるとするのなら、欲望の限り際限が無くなるはずだ。人間はそう言う意味でも弱い物だから。

だが、この場で言うのならミリアは強い人間で間違っては居ない。自分の欲望に忠実ではないと言う事。そして、沙更に願う事は、余程大事なことだけと心で決め込んでいたことだった。

沙更の存在は、そう言う意味でも劇薬なのだから。

そんな風に話をしていると沙更もミリアもお腹が減ってきたことを自覚する。既に夕暮れはとうに過ぎていた。お昼もまともに食べていなかった事を考えるとそろそろ厳しいのは言うまでも無い。

「頑張りすぎたからかお腹が減ってきました。ミリアお姉さんもでしょう?孤児院の食事事情も余り良くないのですよね?」

沙更の質問に、ミリアは苦笑を浮かべてしまう。何というか見抜かれてしまっている気がしていた。けれど、その感覚が何というか心地良いと感じてしまう当たり、毒されているなあと思う。

「セーナちゃんなら分かっちゃうよね。ごめん、そこもいろいろと助けて欲しい」

「助けた子の事もありますし、ミリアお姉さんが気にしているのも分かります。お世話になっているからってところでしょうか?」

「あたしはここで育ったから恩を返したくて・・・。でも、まだ上手くいってない気がするんだよね」

ミリアとして、ここまで育ててくれたこの場所に恩を返し切れていないと感じているのを沙更は理解した。現状が悪すぎるから、返しきれないのを肌で感じてしまうのだと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

【完結】婚約破棄され国外追放された姫は隣国で最強冒険者になる

まゆら
ファンタジー
完結しておりますが、時々閑話を更新しております!  続編も宜しくお願い致します! 聖女のアルバイトしながら花嫁修行しています!未来の夫は和菓子職人です! 婚約者である王太子から真実の愛で結ばれた女性がいるからと、いきなり婚約破棄されたミレディア。 王宮で毎日大変な王妃教育を受けている間に婚約者である王太子は魔法学園で出逢った伯爵令嬢マナが真実の愛のお相手だとか。 彼女と婚約する為に私に事実無根の罪を着せて婚約破棄し、ついでに目障りだから国外追放にすると言い渡してきた。 有り難うございます! 前からチャラチャラしていけすかない男だと思ってたからちょうど良かった! お父様と神王から頼まれて仕方無く婚約者になっていたのに‥ ふざけてますか? 私と婚約破棄したら貴方は王太子じゃなくなりますけどね? いいんですね? 勿論、ざまぁさせてもらいますから! ご機嫌よう! ◇◇◇◇◇ 転生もふもふのヒロインの両親の出逢いは実は‥ 国外追放ざまぁから始まっていた! アーライ神国の現アーライ神が神王になるきっかけを作ったのは‥ 実は、女神ミレディアだったというお話です。 ミレディアが家出して冒険者となり、隣国ジュビアで転生者である和菓子職人デイブと出逢い、恋に落ち‥ 結婚するまでの道程はどんな道程だったのか? 今語られるミレディアの可愛らしい? 侯爵令嬢時代は、女神ミレディアファン必読の価値有り? ◈◈この作品に出てくるラハルト王子は後のアーライ神になります!  追放された聖女は隣国で…にも登場しておりますのでそちらも合わせてどうぞ! 新しいミディの使い魔は白もふフェンリル様! 転生もふもふとようやくリンクしてきました! 番外編には、ミレディアのいとこであるミルティーヌがメインで登場。 家出してきたミルティーヌの真意は? デイブとミレディアの新婚生活は?

聖女だと呼び出しておいて無能ですか?〜捨てられた私は魔王様に溺愛される〜

みおな
恋愛
 学校帰りにいきなり眩い光に包まれて連れて来られたのは異世界でした。  王子はこんなちんちくりんは聖女ではないと言い放ち、私を王宮から追い出しました。  元の世界に帰る方法は、魔王の持つ帰還の指輪が必要と言われ、途方にくれた私の前に現れたのは、美形の魔王でした。

悪役令嬢の逆襲

すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る! 前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。 素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

【完結】エレクトラの婚約者

buchi
恋愛
しっかり者だが自己評価低めのエレクトラ。婚約相手は年下の美少年。迷うわー エレクトラは、平凡な伯爵令嬢。 父の再婚で家に乗り込んできた義母と義姉たちにいいようにあしらわれ、困り果てていた。 そこへ父がエレクトラに縁談を持ち込むが、二歳年下の少年で爵位もなければ金持ちでもない。 エレクトラは悩むが、義母は借金のカタにエレクトラに別な縁談を押し付けてきた。 もう自立するわ!とエレクトラは親友の王弟殿下の娘の侍女になろうと決意を固めるが…… 11万字とちょっと長め。 謙虚過ぎる性格のエレクトラと、優しいけど訳アリの高貴な三人の女友達、実は執着強めの天才肌の婚約予定者、扱いに困る義母と義姉が出てきます。暇つぶしにどうぞ。 タグにざまぁが付いていますが、義母や義姉たちが命に別状があったり、とことんひどいことになるザマァではないです。 まあ、そうなるよね〜みたいな因果応報的なざまぁです。

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

処理中です...