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新たなる住処
第177話 ギルドマスターの悪い癖
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月の魔女とよばれるまで
第177話 ギルドマスターの悪い癖
ダイスとの模擬戦と言うより、尋常なる果たし合いになってしまうのがルーカの頭痛の種である。高ランク冒険者の心をへし折るその行為に王都へ逃げる冒険者が多くなってしまった。
必然的に質が落ちてしまったのはダイスが片棒を担いでいたからでもある。それ以前に、ギルドマスターが果たし合いをしている時点でおかしいのだが。
どちらにしろ、拒否権は無いのをミリアは理解していた。
やはり、今まで元であってもAランクの冒険者と戦うことなどなかったことで、身体が緊張してしまうがそれも無理はなかった。
それでも、受けるしか無い為平静を保つことにする。
ルーカが頭を抱えている中、ダイスがミリアを見据えて口を開く。
「真剣勝負。俺の愛剣でいざ尋常に勝負と言いたいんだが、マジで真剣勝負するとなると命のやりとりになりかねん。流石にそれはまずいので、命の結界を張らなければならん。セーナちゃんに魔力を込めて貰いたいが出来るか?」
そう言われて、沙更としては首をかしげるしかない。命の結界自体を知らないのだから。だが、装置に魔力を込めるのならばそれは思ったところで、沙更を好む魔力がその意思に応えてくれる。
かくして、装置に魔力が込められた事により、命の結界が発動する。だが、それは死なないだけで怪我はそのままになる欠陥品であった。元々、死ぬことも怪我もしない物であったそうだが年月を経るごとに破損していき、今では命を守るだけの結界になってしまっていたのだ。
そのことをダイスもルーカも知らない。だが、沙更はこの装置に魔力を込めた時にその記憶を感じ取っていた。時空間魔法を操る事が出来るからかもしれない。
欠陥があることを感じ取った沙更は、いつでも怪我を癒やせるようにスターサファイアのロッドを手に取っておく。全力で魔力を使うことになるかもしれないから。
命の結界が張られたことをダイスは確認するとおもむろに腰の袋に手を突っ込む。どうやら、その袋がマジックボックスになっているらしい。沙更の虚空庫の劣化版で、小さい袋に魔法をかけてある程度の容量まで拡張したものだ。ダイスが現役の時に、古代の遺跡から手に入れた物で今も効力は落ちていないらしい。
そのマジックボックスからミスリルで出来たブロードソードを取り出す。冒険者時代からの愛剣のようだ。それに対して、ミリアはいつものように白の直刀を握る。
命の結界の範囲内は、どうやらこの部屋から一時的に別空間となるらしい。刃物を振るってもこちらには影響が無いようだ。結界だけに、範囲外には中の効力は及ばないと言う事。命を失わないのとその範囲内での出来事にこちらが干渉できないこともだ。
結界が張られたのを確認して間もなく、開始の言葉もないままいきなりダイスが動く。そもそも、結界を張ったところで始める気満々だったからそれでも待った方なのだろう。
そう言う意味では、少なからず脳筋気味なのは否めない。いきなり仕掛けてきたダイスの剣をミリアは白の直刀で打ち合わせる。刃渡りでは確実に負けるけれど、それでも小回りが効く白の直刀で守りに入ったことで膠着状態に陥ることになるとはダイスも思っていなかった。
実際、守りならば小回りが効く方が優れる。とは言え、ミリアの力量がダイスに近づいていなければそれすら難しい。が、今のミリアの力量はあの月女神の眷属とのつばぜり合いをこなした事による経験が加味されていることで、大分臆せず動けていた。
これに、驚いたのがダイスだ。それもそのはず、急激な成長を遂げたとは言え元Aランクの冒険者だけに自分の能力に自負を持っている。その動きに対応してくると言う時点で、同ランクに近い力を持つ事を証明していたのだから。
(まさか、俺の動きに対応してくるとはな。まさに予想外だ。ここまで成長しているとなれば、ゴブリンロードであったとしても倒してこれると言う事か、面白い)
まず、ミリアと打ち合わせたことでそこまでの力量がある事を見抜くあたりは、腐ってもギルドマスターなのだろう。だが、ミリアの力はこの程度ではない事をまだ知らない。
第177話 ギルドマスターの悪い癖
ダイスとの模擬戦と言うより、尋常なる果たし合いになってしまうのがルーカの頭痛の種である。高ランク冒険者の心をへし折るその行為に王都へ逃げる冒険者が多くなってしまった。
必然的に質が落ちてしまったのはダイスが片棒を担いでいたからでもある。それ以前に、ギルドマスターが果たし合いをしている時点でおかしいのだが。
どちらにしろ、拒否権は無いのをミリアは理解していた。
やはり、今まで元であってもAランクの冒険者と戦うことなどなかったことで、身体が緊張してしまうがそれも無理はなかった。
それでも、受けるしか無い為平静を保つことにする。
ルーカが頭を抱えている中、ダイスがミリアを見据えて口を開く。
「真剣勝負。俺の愛剣でいざ尋常に勝負と言いたいんだが、マジで真剣勝負するとなると命のやりとりになりかねん。流石にそれはまずいので、命の結界を張らなければならん。セーナちゃんに魔力を込めて貰いたいが出来るか?」
そう言われて、沙更としては首をかしげるしかない。命の結界自体を知らないのだから。だが、装置に魔力を込めるのならばそれは思ったところで、沙更を好む魔力がその意思に応えてくれる。
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そのことをダイスもルーカも知らない。だが、沙更はこの装置に魔力を込めた時にその記憶を感じ取っていた。時空間魔法を操る事が出来るからかもしれない。
欠陥があることを感じ取った沙更は、いつでも怪我を癒やせるようにスターサファイアのロッドを手に取っておく。全力で魔力を使うことになるかもしれないから。
命の結界が張られたことをダイスは確認するとおもむろに腰の袋に手を突っ込む。どうやら、その袋がマジックボックスになっているらしい。沙更の虚空庫の劣化版で、小さい袋に魔法をかけてある程度の容量まで拡張したものだ。ダイスが現役の時に、古代の遺跡から手に入れた物で今も効力は落ちていないらしい。
そのマジックボックスからミスリルで出来たブロードソードを取り出す。冒険者時代からの愛剣のようだ。それに対して、ミリアはいつものように白の直刀を握る。
命の結界の範囲内は、どうやらこの部屋から一時的に別空間となるらしい。刃物を振るってもこちらには影響が無いようだ。結界だけに、範囲外には中の効力は及ばないと言う事。命を失わないのとその範囲内での出来事にこちらが干渉できないこともだ。
結界が張られたのを確認して間もなく、開始の言葉もないままいきなりダイスが動く。そもそも、結界を張ったところで始める気満々だったからそれでも待った方なのだろう。
そう言う意味では、少なからず脳筋気味なのは否めない。いきなり仕掛けてきたダイスの剣をミリアは白の直刀で打ち合わせる。刃渡りでは確実に負けるけれど、それでも小回りが効く白の直刀で守りに入ったことで膠着状態に陥ることになるとはダイスも思っていなかった。
実際、守りならば小回りが効く方が優れる。とは言え、ミリアの力量がダイスに近づいていなければそれすら難しい。が、今のミリアの力量はあの月女神の眷属とのつばぜり合いをこなした事による経験が加味されていることで、大分臆せず動けていた。
これに、驚いたのがダイスだ。それもそのはず、急激な成長を遂げたとは言え元Aランクの冒険者だけに自分の能力に自負を持っている。その動きに対応してくると言う時点で、同ランクに近い力を持つ事を証明していたのだから。
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